サリドマイド物語 part2:サリドマイドの復活
サリドマイドといえば多くの奇形児が生まれた薬害の話が有名です。この事件のためにサリドマイドは一度姿を消しました。しかし、このサリドマイドが再び復活しようとしています。
サリドマイドの復活を聞いて驚く方もいると思います。もしかしたら、また奇形児が生まれるようなことがあるかもしれません。その可能性はありますが、サリドマイドはただ胎児に奇形をもたらすというだけではありません。
サリドマイドといえば薬害での悲惨なイメージが大きいと思います。しかし、使いようによっては人々の命を救う薬にもなるのです。
ハンセン病の薬
ハンセン病(らい病)の歴史は暗いです。昔はハンセン病というだけで隔離され、偏見と差別が普通に行われていました。私の地元である岡山にもハンセン病の療養所である長島愛生園があります。
サリドマイドはこのハンセン病の皮膚炎に有効だとして、1998年にアメリカで承認されました。サリドマイドはハンセン病の炎症に苦しむ患者のほとんどに有効でした。ハンセン病に苦しむ人にとってサリドマイドは奇跡の薬だったのです。
結核やハンセン病は細菌によって引き起こされます。結核菌やライ菌は特定の免疫細胞を攻撃します。すると免疫に異常が発生します。サリドマイドは炎症を悪化させる免疫因子を抑制することで症状を抑えることができます。
さらにサリドマイドは「試験管の中ではエイズウイルスの増殖を抑える」という報告もあります。しかしサリドマイドはエイズ治療において重要ではありません。その理由は、実際にエイズ患者にサリドマイドを投与するとその効果が薄く症状が悪化するからです。
がん治療
サリドマイド薬害事件で紹介したように、胎児に奇形をもたらす原因は「サリドマイドが新しく血管が作られる作用を阻害してしまう」からです。これが薬害の原因となりました。今度は逆にその作用を利用しようと考えたのです。
胎児の手や脚が形成されるには栄養が必要であり、その栄養は血管から運ばれます。血管がなければ十分な栄養が行き渡らないため、手や脚は成長することができません。
これはがん細胞にも共通して言えることです。がん細胞は急速に増殖しますが、そのためにはやはり栄養が必要です。そのため、がん細胞が増殖するときにはどんどん新しい血管を作って増殖に必要な栄養や酸素を得ようとします。
「新しい血管を作れないことで胎児が手や脚を形成することができなかった」のと同じように、「がん細胞も新しい血管を作れないようにすれば増殖できないのではないか」という考えです。世界各国でサリドマイドは抗がん剤として臨床試験が行われています。
けがをしている場合は別ですが、健康な成人では新しい血管はほとんど作られません。そのため、副作用の少ない抗がん剤となります。ただし、サリドマイドを抗がん剤として使用する場合は血管が作れないので手術を受けることはできません。
また、血管が新しく作られる作用は複数あります。サリドマイドによって影響を受ける血管形成もあれば、サリドマイドでは影響を受けない血管形成もあります。よりよい抗がん剤とするには、サリドマイドが影響しない血管形成を阻害する薬の発見も必要になります。
また血管が作られるのを阻害することで期待できる治療薬はがんだけではありません。例えば糖尿病網膜症は目の中に血管が作られる病気です。
忘れてはいけない薬害事件
サリドマイドは胎児に奇形をもたらす薬であると同時に、命を救う薬でもありました。そのため、サリドマイドが復活しました。サリドマイドによって多くの病気の治療が期待されています。
しかし、サリドマイドによって起こった薬害を忘れてはいけません。現在、サリドマイドが使用される場合は必ず避妊をして、多くの場合は最後の手段として使用されるようになっています。
復活はしたが、いつかはこのサリドマイドを葬らなければいけません。サリドマイドの副作用である先天性疾患と神経障害がなくサリドマイドと同じ、またはより効果の高い薬を開発しなければいけません。
サリドマイドに変わる薬が開発され、サリドマイドが全く使用されなくなることでやっと「サリドマイド薬害事件」を過去のものすることができるのかもしれません。新しい薬が開発されるその日まで、サリドマイドは使い続けられます。
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