シスプラチン物語:偶然の発見から生まれた抗がん剤
医薬品の中でも、金属が薬として作用することがあります。分かりやすいものとしては、貧血治療薬としての鉄剤があります。
血液の成分としてヘモグロビンが有名ですが、このヘモグロビンの重要な構成要素として鉄があります。つまり、ヘモグロビンを作るためには鉄が必要不可欠となります。
そこで、鉄不足による貧血患者には鉄剤が処方されます。
このように医薬品として使用される金属ですが、抗がん剤として使用されることもあります。代表的な金属の抗がん剤としてシスプラチンがあり、広く使用されている医薬品の一つです。
シスプラチンの発見
シスプラチンはもともと錯体研究として合成されたものであり、抗がん作用は偶然に発見されたものです。
1965年、B.Rosenbergは電場が細菌に与える影響について研究していました。そのとき、プラチナ電極の分解産物が大腸菌の増殖を抑制していることに気がつきました。
大腸菌は糸状に伸びていくだけであり、これはプラチナの分解産物が大腸菌のDNA合成を阻害しているためでした。
そこで、このプラチナ分解産物による大腸菌の細胞分裂を阻害する作用に着目しました。細胞分裂の比較的早いがん細胞にも、増殖を抑えるように応用できるのではないかと考えたのです。
動物細胞に使用したところ、シスプラチンは強い抗がん作用を示すことが明らかとなり、臨床試験が行われる段階まで進みました。
しかし、副作用として腎臓に対する毒性が強かったため、シスプラチンの臨床開発はストップしてしまいます。
シスプラチンの復活
一度は開発を断念したシスプラチンですが、「大量の生理食塩水を点滴すること」や「利尿剤を服用すること」によって腎障害を軽減できることが分かりました。つまり、強制的に尿をたくさん出すようにするのです。
これらの知見を元にして再びシスプラチンの臨床試験を行った結果、腎毒性を軽減することができ、医薬品として開発することに成功しました。
普通、白金錯体が抗がん剤に変身するとは思いも付きません。
実験で偶然、「白金錯体が大腸菌の増殖を抑えた」という事実を発見した事、そしてこれを元に抗がん剤へ応用したことによって画期的な薬が開発されました。
思いもよらない結果を得た時、「なぜそうなったのか」「どのように応用できるか」など、常に「なぜ?」を意識することで大発見に繋げることができます。
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