OTCによるセルフメディケーションと薬剤師の役割
いま、政府は「自分の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」というセルフメディケーションを盛んにうたっています。つまり、いきなり病院へ行くのではなく、ドラッグストアや薬局などに行って薬剤師と相談し、簡単な病気は自ら治療しようとするのです。
セルフメディケーションの推進には、増え続ける医療費が背景にあります。これは安易な医療機関への受診と無用の投薬が原因です。そこで政府は、医師による処方箋が必要ない一般用医薬品(OTC)の使用を促進して、医療費削減を考えているのです。
しかし、「病院に行かずに、薬局に行ってください!」と政府が言うと、政界に強い影響力を持つ医師会から睨まれるのでセルフメディケーションという言葉を使います。そこでここでは、セルフメディケーションを行うときの注意点と薬剤師の活用について述べていきます。
OTCの注意点
「少し頭痛がする」、「歩くと膝が痛い」、「湿疹ができた」、「ちょっと熱っぽい」などの軽い症状や忙しくて病院に行けないときなど、薬局で買えるOTCは便利です。
最近では、インターネットや書籍で薬の情報が簡単に得られるので、病院には行かず、自分で判断してOTCの指名買いをする人も多いです。
多くのOTCは医療用処方薬と異なり、用法・用量を誤らなければ副作用は少なく、比較的安心して服用できます。しかしながら、「使用上の注意をよく読んでお使いください」と外箱に記載されていますが、箱の中にある添付文書の「次の人は服用しないでください」や「相談すること」の項目までよく読んでから服用する人は少ないのではないでしょうか。
また、最近では、処方せんがなければ購入できなかった薬であっても、OTCとして薬局で購入できるようになりました。これは、スイッチOTCといわれます。
さらに、日本では使用実績のない海外のOTCが輸入され販売される、ダイレクトOTCが薬局に置かれるようになりました。強い作用を有するこれらの薬は、服用する人が適正に使用することが必要です。
現在では法律が変わり、薬剤師さんが対面でチェックシート等を使って、その薬を使用して良いかを助言する業務が必須な「要指導医薬品」が新設されました。
その中にはアレルギー鼻炎薬「アレグラFX」や「コンタック鼻炎Z」、過敏性腸症候群(IBS)の腹痛等に使われる「セレキノンS」、非ステロイド性鎮痛薬「ルミフェン」などがあります。
他にも要指導医薬品として、月経前症候群(PMS)改善薬「プレフェミン」や足のむくみ改善薬「アンチスタックス」という西洋ハーブのダイレクトOTCもあります。
使用するのが難しいOTCが存在する
OTCの中には、使用するのが難しい薬が存在します。その一つが中性脂肪値を改善する「エパデールT」です。この薬も要指導医薬品で、イコサペント酸エチル(EPA)という不飽和脂肪酸が入っています。
しかし、エパデールTは本当に薬剤師の「指導」が必要なのでしょうか。EPAは「魚の油」に含まれている成分で、健康食品としてスーパーで安く売られています。
たしかに、EPAは抗血小板作用 (血液をサラサラにする作用)があるため、出血しやすくなるというリスクがあります。出血リスクが高くなるというのは、脳血管であれば脳出血の危険性が高くなります。
そのため、エパデールTはスイッチOTCとして承認される時に医師委員から強い反対があって2度ほど保留になりました。
加えて、「個人が容易に医薬品を購入できるようになれば、医薬品を服用している安心感から運動や食事に対する配慮が疎かになり、結果として症状の悪化が危惧される。生活習慣病の診断と治療は医師に限定すべきものだ」という理由もあります。
こうした反対を受け、エパデールTをドラッグストアなどで購入するときは「中性脂肪値の健康データをもって、医療機関を受診しなければいけない」という制限がつきました。こうなると、セルフメディケーションの意味がありません。
健康診断で中性脂肪が高いことを理由にエパデールを購入しようと思っても、薬剤師に「このお薬は医療機関を受診された方に限られます」と言われてしまいます。
せっかくスイッチOTCとなっているのに、「まず医者に診てもらって下さい」というのは、おかしなことだと思います。しかし、今後もセルフメディケーションの重要性は増すのは間違いありません。
薬を買う人は薬剤師とよく話をして、しっかりとした情報提供および服薬指導を受けることが良いと思います。そして、最初は病院ではなく薬局へ行って薬剤師と相談する中で、「今回はお医者さんに見てもらって下さい」と薬剤師からの受診勧奨することが、本来の姿なのだと思います。
スポンサードリンク
カテゴリー
スポンサードリンク