放射線の性質と影響
放射線の利用
日本人にとって放射線は「恐い」というイメージがある。それはたぶん、広島・長崎の原子爆弾などが影響しているのかもしれない。
しかし、平和利用として放射線は欠かすことが出来ない。自然科学の分野では「タンパク質の分析、化学分析」などで放射線が利用されている。
以下に放射線について詳しく述べていく。
放射線の性質
原子核には陽子と中性子があり、その周りに電子がある。同位体という言葉があるが、同位体とは「原子番号が同じで、質量数が異なること」である。言い換えれば、「陽子の数は同じで、中性子の数が違う」ということである。
・電磁波の波長
光にはいろいろな種類がある。色として私たちの目が見ることのできる可視光、目で見ることのできない紫外線、赤外線、X(エックス)線などさまざまである。
同じ光であるが、これらの光はそれぞれ波長が違う。つまり、波の長さが違うのである。
この波長が短くなれば可視光→紫外線→X線→γ線という具合になる。下に波長と電磁波の種類の関係を示す。
なお、放射線には次のようなものがある。
・X線
・γ線
・α線
・β-線
・β 線
X線とγ線であるが、γ線の方が波長は短い。ただし、「この波長の値からがX線である、γ線である」という線引きはされていない。重要なのは、「原子核外から放出されるのがX線であり、原子核内から放出されるのがγ線であるということ」である。
・α線
代表的なα線の放射線核種としては226Raがある。α壊変は質量数の大きい原子核がヘリウム原子核を放出することによって起こる。このとき放出されるヘリウム原子核がα線である。
α壊変によって、崩壊した原子は他の原子核に変化する。なお、ヘリウム原子核は希ガスのヘリウムとは異なる。ヘリウムは電子をもつが、α線の本体であるヘリウム原子核は電子をもたない。
・β-線
β線にはβ-線とβ 線がある。中性子数が陽子数に比べて多いときにβ-壊変が起こる。
β-壊変では中性子が陽子に変化する。このとき、電子と反ニュートリノを放出する。なお、ここではニュートリノという単語は重要でない。
陽子が一つ増えるため、β-壊変では原子番号が一つ大きくなる。
・β 線
中性子数が陽子数に比べて少ないときにβ 壊変が起こる。β 壊変では陽子が中性子に変化する。このとき、陽電子とニュートリノを放出する。
陽子が一つ減るため、β 壊変では原子番号が一つ小さくなる。
陽電子は の電荷をもっており、放出された陽電子は近くの電子と結合して消滅する。このとき陽電子の運動エネルギーは0となる。
運動量保存の法則より、陽電子の失った運動エネルギー分だけのエネルギーが放出されなければならない。このときのエネルギーは「反対方向を向いた二本のγ線」として放出される。これを消滅γ線という。
・電子捕獲
陽子が電子を取り込み、陽子が中性子とニュートリノに変化するのが電子捕獲である。これによって陽子が一つ減るため、原子番号が一つ小さくなる。
・特性X線、オージェ電子
電子捕獲や内部転換などによって電子が捕獲(または放出)されると、ちょうどその部分に空孔の電子軌道ができる。その後、この軌道に外側の軌道の電子が入り込む。
エネルギーの高い外側の電子がよりエネルギーの低い軌道に入るため、このエネルギー準位の差だけのエネルギーを放出する必要がある。このとき放出されるのが特性X線である。
なぜX線の前に「特性」を付けるかであるが、ある決まった波長のX線しか出さないためである。
また電子が空孔の軌道に落ちたとき、エネルギーを特性X線として放出するのではなく、近くの電子に運動エネルギーとして与えることもある。運動エネルギーを与えられた電子は外に放出される。このとき放出される電子をオージェ電子という。
つまり、電子捕獲されると特性X線かオージェ電子のどちらかが放出される。
なお、ここまで説明すれば「X線は原子核外から発生するものであり、γ線は原子核内から発生するものである」ということを理解してもらえると思う。重要なのはどこから電磁波が放出されるかであり、決してエネルギーの強い弱いではない。一般に原子間の結合エネルギーの方が強いため、γ線の方がエネルギーが強いというだけである。
・内部転換
励起状態にある原子核が基底状態に戻るとき、γ線を放出する。ただしγ線を放出しないこともあり、このときは近くの電子(主にK殻)に運動エネルギーとしてエネルギーを与える。
この結果として電子が外に飛び出す。その後、特性X線またはオージェ電子を放出する。
・放射能の単位(ベクレル)
放射能の強さはベクレル(Bq)で表わされる。ベクレルとは、一秒間に崩壊する原子核数のことである。
放射線の生体に対する影響
放射線は種類によって透過性が異なる。α線は紙一枚で遮へいすることができる。β-線はアルミ板やプラスチック板で、X線・γ線は鉛や厚い鉄版で、中性子線は水で遮へいすることができる。
つまり、透過性は「γ線>β線>α線」の順ととなる。遮へいがない状態だとα線は約3cm飛ぶことになる。β線はα線以上に飛び、γ線はβ線以上に飛ぶことになる。
ここにそれぞれα線、β線、γ線を放出する物質があるとする。これらの危険性であるが、物質が生体内にあるか生体外にあるかで危険性が異なってくる。
放射性物質が生体外に存在するとき、α線では数m離れていれば届かないので安全である。もっと離れればβ線も届かなくなってしまう。しかし、γ線は遠くまで透過してしまうため、放射性物質からかなり距離を置いたとしても安心できない。
つまり、生体外に放射性物質があるときの危険性は「γ線>β線>α線」の順となる。
次に飲み込む等によって、生体内に放射性物質が存在するとする。このとき、γ線は透過力が強いため周りの細胞にあまり影響せずに透過してしまう。それに対しα線は周りの細胞にぶつかり、多大なる影響を及ぼす。
そのため、生体内に放射性物質があるときの危険性は「α線>β線>γ線」の順となる。
・ベルゴニートリボンドーの法則
放射線の生体に対する影響は臓器によって違う。
・細胞分裂の頻度が高い
・将来の分裂回数が多い
・分化能が高い
この法則によると、上の条件に当てはまる細胞ほど放射線の影響を受けやすい。つまり、幹細胞や生殖組織は放射線の影響を受けやすい。それに対し、細胞分裂しない神経組織は放射線の影響を受けにくい。
脂肪組織、皮膚、骨髄、神経の放射線に対する感受性を大きい順から並べた場合、次のようになる。
骨髄>皮膚>脂肪組織>神経
・確定的影響と確率的影響
多くの放射能を浴びれば当然病気となる。ことのき、「これくらいの放射線を浴びれば病気になると線引きできるもの」と「放射能を浴びることで、病気になる確率が上昇するもの」がある。前者が確定的影響で、後者が確率的影響である。
確定的影響には「白内障、脱毛、不妊など」が存在する。つまり、「これくらいの放射能を浴びれば白内障になる、脱毛する」と線引きできるのである。
しかし、確率的影響では少ししか被ばくしていないとしても、その病気になる可能性を否定することはできないのである。当然、被ばく量が多ければ多いほどその病気になる可能性は増える。
確率的影響には「がん、白血病(白血病は血液のがん)、遺伝的影響」がある。放射能の影響が被爆した本人ではなく、子孫にまで影響することを遺伝的影響という。
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