気管支喘息と治療薬
気管支喘息とは
息苦しさや咳き込み、呼吸時に「ゼーゼー」と音がなる喘鳴(ぜんめい)など、喘息を簡単に考えると「呼吸が苦しい状態」のことを指す。
正常な人であると、気道に炎症が起きていないため空気が通りやすくなっている。これが喘息患者では気道に炎症が起きており、既に気道が狭くなっている。つまり、たとえ「息ができない」という喘息発作が起こっていなかったとしても、気道に炎症が起こっている。
そのため、喘息患者の気道は敏感な状態となっている。ここに、アレルギー物質やストレス、タバコなどの刺激が加わると、気道がさらに狭くなる。
これによって呼吸が苦しくなったり、息をするたびに「ゼーゼー」、「ヒューヒュー」という音が聞こえてきたりするようになる。
なお、喘息で問題となるのは「息を吐く時」となる。息を吸う時に苦しくなると考えがちであるが、息を吐きにくいために苦しくなる症状が喘息である。
喘息の薬物治療の基本
喘息患者の気道では主に次の二つが起こっている。
① 気道に炎症が起こっている
② 気道が狭くなって空気の通りが悪くなっている
そのため、喘息治療を行う上で「① 炎症を抑える(抗炎症)」と「② 気道を拡げる(気管支拡張)」の二つを行えば良いことが分かる。
なお、喘息治療薬としては主に次の五種類がある。
炎症を抑える薬:ステロイド薬、抗アレルギー薬(抗ロイコトリエン薬など)
気道を拡げる薬:β2刺激薬、テオフィリン製剤、抗コリン薬
・吸入薬の種類
喘息治療には吸入薬がよく使われる。ただ、「喘息発作が起こらないように毎日規則的に使用する長期管理薬(発作を予防する薬:コントローラー)」と「喘息発作が起こったときだけに使用する発作治療薬(発作を和らげる薬:リリーバー)」の二種類がある。
喘息患者では気道に炎症が起こり、空気の通る道が狭くなっている。そのため、長期的に気道の炎症を抑えたり気管支を広げたりしなければいけない。そのため、毎日規則正しく使用する長期管理薬が必要になる。
また、喘息発作が発生すると呼吸困難に陥ってしまい、最悪の場合は意識障害や死亡にまで陥ってしまう。そこで、これら発作が起きてしまった時に素早く喘息発作による症状を和らげる必要がある。
そのために発作治療薬が必要になる。このような長期管理薬や発作治療薬の種類としては以下のようなものがある。
長期管理薬は長期間に渡って毎日使用する必要がある。そのため、抗炎症作用を期待して投与するステロイドは経口薬ではなく、局所作用を示す吸入薬になる。
また、気管支拡張薬であっても「長時間に渡って作用するβ2受容体刺激薬」や「ゆっくり溶け出す徐放性テオフィリン製剤」が使用される。
それに対して、喘息発作が起こったときは素早く発作を和らげる必要がある。そこで、発作治療薬としては速効性の吸入薬が主に使用される。
そのため、同じ気管支を広げるβ2受容体刺激薬であっても、喘息発作の改善には短時間作用型のβ2受容体刺激薬が使用される。
炎症を抑える薬(抗炎症薬)
・ステロイド薬
喘息治療を考える上で最も重要となる薬がステロイド薬である。経口ステロイドでは副作用が大きいが、喘息で使用されるステロイドは吸入薬として口から吸い込むタイプがほとんどである。
吸入薬によって肺や気管支のみにステロイドを作用させることができ、薬の量も経口薬に比べて1/100~1/1000程度の量で効果を得ることができる。そのため、副作用も比較的少なくて済む。
このように、吸入ステロイド薬として喘息発作を予防する薬としてフルチカゾン(商品名:フルタイド)、ベクロメタゾン(商品名:キュバール)などがある。
なお、ステロイドによる副作用の一つとして感染症に罹りやすくなることがある。そこで、これらステロイドの副作用を軽減するためにステロイド吸入薬を使用した後はうがいをしなければいけない。
中には「薬を吸い込んだ後にうがいをするのは、薬を洗い流すので不自然なのでは」と思う方もいるかもしれない。
ただし実際にはそうではなく、吸入した後の薬は既に気管支や肺などに届いていることになる。たとえうがいをしたとしても、気管支に届けた薬まで洗い流すわけではない。そのため、吸入薬を使用した後にうがいをしても問題ない。
・抗アレルギー薬(抗ロイコトリエン薬など)
アレルギーを引き起こす化学物質の中でも、ロイコトリエンは炎症や気道の収縮に関わっている。そのため、ロイコトリエンの働きを抑えることによって喘息を治療することができる。
ただし、喘息治療としての抗ロイコトリエン薬は長期管理薬(発作を予防する薬:コントローラー)としてのみ使用される。他にもケミカルメディエーター遊離抑制薬を使用することによっても喘息発作を予防することができる。
このように、抗アレルギー作用によって喘息を治療する薬としてモンテルカスト(商品名:シングレア、キプレス)、クロモグリク酸(商品名:インタール)などがある。
気道を拡げる薬(気管支拡張薬)
・β2受容体刺激薬
運動時などに興奮する神経として交感神経がある。交感神経にはα受容体やβ受容体が存在する。その中でも、この時の気管支拡張作用に関わっている受容体がβ2受容体である。
つまり、運動時に交感神経が興奮して空気を取り込みやすくなる作用は、気管支に存在するβ2受容体が活性化しているために起こっているのである。
そのため、このβ2受容体を薬によって刺激することで気管支を拡張し、空気を通りやすくさせることができるはずである。
なお、β2刺激薬は「長期管理薬(発作を予防する薬:コントローラー)」か「発作治療薬(発作を和らげる薬:リリーバー)」によって二種類に分けることができる。
長時間作用が持続することによって喘息発作を予防するβ2刺激薬を難しい言葉でLABA(Long Acting β2 Agonist:長時間作用性吸入β2刺激薬)と呼ぶ。
それに対して、短時間で素早く効果を表すことで喘息発作を和らげるβ2刺激薬をSABA(Short Acting β2 Agonist:短時間作用性吸入β2刺激薬)と呼ぶ。
このように、「どれだけ長時間β2受容体を刺激することができるか」また「β2受容体を刺激する作用がどれだけ早く表れるか」などによって使い分けられる。
長時間作用することによって喘息発作を治療するβ2受容体刺激薬としてはサルメテロール(商品名:セレベント)、ホルモテロール(商品名:シムビコート)、ツロブテロール(商品名:ホクナリンテープ)などがある。
また、短時間だけ素早く作用することによって喘息発作が発生した時の症状を和らげる薬としてサルブタモール(サルタノール、ベネトリン)、プロカテロール(メプチン)などがある。
・テオフィリン製剤
かつて喘息治療の中心だった薬としてテオフィリンと呼ばれる薬がある。なぜこの薬が喘息治療に使用されていたかと言うと、「気管支を広げる作用(気管支拡張作用)」と「炎症を抑える作用(抗炎症作用)」を併せ持っていたためである。
ただし、治療域が狭かったり、薬が代謝される過程の個人差が大きかったりとデメリットも有する薬である。現在では徐放性テオフィリン製剤として、ゆっくり溶け出すことによって喘息発作を予防する薬として使用されている。
このように、ゆっくりテオフィリン製剤を溶け出させることによって喘息を治療する薬としてテオフィリン(商品名:テオドール、テオロング)などがある。
・抗コリン薬
交感神経の反対の働きをする神経系として副交感神経がある。この副交感神経の働きとしては、食事をしている時など体を休めている時を想像すれば良い。
この時であると、食事を取ることによって胃や小腸の動きが活発となり、体を休めているために血圧も下がっている。
また、運動時などでは空気を取り込みやすくするために気管支が拡張しているが、体を休めている場面ではこの逆に気管支が収縮している。つまり、気道が狭くなっている。
副交感神経が興奮すると、このように気道が狭くなるなどの作用が起こる。そして、この副交感神経の興奮に関与している物質としてアセチルコリンがある。このアセチルコリンの働きを阻害する薬を抗コリン薬と呼ぶ。
副交感神経が興奮すると気管支が収縮するため、抗コリン薬はこの反対の作用として気管支を拡張させる作用がある。これによって、喘息を治療することができる。
なお、交感神経と副交感神経は逆の働きをする。そのため、「副交感神経の働きを抑える抗コリン薬は、交感神経を興奮させた時と同じような作用を得ることができる」と考えることもできる。
このように、アセチルコリンの働きを抑えることによって気管支を拡張し、喘息を治療する薬としてチオトロピウム(商品名:スピリーバ)、グリコピロニウム(商品名:シーブリ)などがある。
ステロイド薬 + β2受容体刺激薬
喘息治療を行う上で発作を予防することはとても重要である。この喘息発作を予防する薬としては主に吸入ステロイド薬と長時間作用型のβ2受容体刺激薬が使用される。
そこで、この二つの薬を最初から配合させた吸入薬も存在する。この吸入薬を服用することで、ステロイドによる抗炎症作用とβ2受容体刺激薬による気管支拡張作用を同時に得ることができる。
このように、ステロイド薬とβ2受容体刺激薬の二つの薬を配合させた医薬品としてフルチカゾン・サルメテロール(商品名:アドエア)、ブデソニド・ホルモテロール(商品名:シムビコート)などがある。
一般名 |
商品名 |
薬理作用 |
フルチカゾン | フルタイド | ステロイド薬 |
ベクロメタゾン | キュバール | |
モンテルカスト | シングレア |
抗アレルギー薬 |
キプレス | ||
クロモグリク酸 | インタール | |
サルメテロール | セレベント |
β2受容体刺激薬 |
ホルモテロール | シムビコート | |
ツロブテロール | ホクナリンテープ | |
サルブタモール | サルタノール |
β2受容体刺激薬 |
ベネトリン | ||
プロカテロール | メプチン | |
テオフィリン | テオドール | テオフィリン製剤 |
テオロング | ||
チオトロピウム | スピリーバ | 抗コリン薬 |
グリコピロニウム | シーブリ | |
フルチカゾン・ |
アドエア | ステロイド薬 + β2受容体刺激薬 |
ブデソニド・ |
シムビコート |
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