高血圧治療薬(レニン-アンジオテンシン系)
血圧とは
心臓はそのポンプ機能によって血管内に圧力をかけ、絶えず組織へ血液を送っている。この圧力は、以下の二つの因子によって決定される。
血圧 = 心拍出量 × 末梢血管抵抗
この計算式は全く特別なものではなく、ごく当たり前のものである。
心拍出量とは、心臓から送りだされる血液量のことである。例えば、蛇口にホースを通し、水を流している場面を想像してほしい。このとき、思いっきり蛇口を開ければ勢いよく水が飛び出す。このときの水の量はとても多く、その分だけ圧力も高くなっている。
それに対し、少し蛇口をひねっただけでは水の勢いは弱く、ホース内の圧力も低いはずである。これは、単純にホースを流れる水の量が少ないためである。
このように、全体の水量が圧力に関与しているため、心臓から血液が送られれば送られるほど血圧が高くなる。これが、心拍出量が血圧に関係している理由である。
次に末梢血管抵抗についてであるが、末梢血管抵抗とは「血液が全身の血管を流れるときにかかる圧力」のことである。これも、ホースに水を流す場面を想像すればよい。
蛇口を軽くひねれば、水はチョロチョロとホースから出る。ここで、ホースの先を指で抑えて出口を細くすれば、水は勢いを増す。ホースを細くすることで圧力が高まり、水の出る勢いが強くなったのである。
動脈硬化が進んでいる人では血管内が細くなっているが、これらの人で高血圧を発症しやすいのは、「血管が細くなり、血液が血管内を流れるときに大きな圧力がかかっている。つまり末梢血管抵抗が高くなっている」という理由がある。
レニン-アンジオテンシン系とは
レニン-アンジオテンシン系は、主に血圧の調節や電解質バランスの維持に関わっている。このレニン-アンジオテンシン系は腎臓で調節され、活性化されることで血圧が上昇する。
そのため高血圧患者では、このレニン-アンジオテンシン系を抑制する薬が使用される。これによって、血圧降下作用を示す。
・腎臓とレニン-アンジオテンシン系
腎臓は老廃物を排泄するだけでなく、水や電解質(Naイオン)、血圧の調節を行っている。この電解質や血圧の調節は主にホルモン群によって行われる。
これらの調節機構をレニン-アンジオテンシン系(RA系)またはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)と呼ぶ。
レニン-アンジオテンシン系の機序
レニン-アンジオテンシン系における最初の基質は、主に肝臓で合成されるアンジオテンシノーゲンである。このアンジオテンシノーゲンは、腎臓で産生されるレニンという酵素によってアンジオテンシンⅠへと変換される。
アンジオテンシンⅠはさらにアンジオテンシン変換酵素(ACE)によって、アンジオテンシンⅡという物質へと変化する。
このアンジオテンシンⅡが血圧上昇に関わっている物質である。そのため、血圧を下げるためにレニン-アンジオテンシン系において、「アンジオテンシンⅡの働きを阻害する薬」が使用される。
アンジオテンシンⅡは、その受容体であるアンジオテンシンⅡ受容体に結合することで、「アルドステロン分泌」、「血管の収縮」、「水・Na の再吸収」を促す。
アルドステロンは血圧を上げるホルモンである。また、血管が収縮することで末梢血管抵抗が高まる。さらに、水・Na の再吸収が促されることで全体の血液量が増え、心拍出量の増加に繋がる。これらの作用によって、血圧が上昇する。
レニン-アンジオテンシン系(RA系)に作用する薬物
・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
アンジオテンシンⅡが作用するには、アンジオテンシンⅡ受容体に結合する必要がある。
つまり、アンジオテンシンⅡ受容体を遮断すれば、アンジオテンシンⅡが受容体に作用することはなく、血圧上昇も起こらない。このような作用をする薬物をアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB:Angiotensin Receptor Blocker)という。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)としては、ロサルタン(商品名:ニューロタン)、バルサルタン(商品名:ディオバン)、カンデサルタン(商品名:ブロプレス)などがある。「~サルタン」とつけば、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬である。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は降圧作用の他に、腎臓を保護する作用や心臓を保護する作用、動脈硬化の抑制など、さまざまな作用が報告されている。
・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
アンジオテンシンⅡの産生にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)が関わっている。そのため、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害すれば、アンジオテンシンⅡは作られない。これによって、血圧上昇を抑えることができる。このような薬をアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitor)と呼ぶ。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬としては、カプトプリル(商品名:カプトリル)、 エナラプリル(商品名:レニベース)などがある。「~プリル」とつけば、アンジオテンシン変換酵素阻害薬である。
なお、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の副作用として空咳がある。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は別名で「キニナーゼⅡ」とも言う。つまり、アンジオテンシン変換酵素とキニナーゼⅡは同じものである。 空咳を引き起こす物質としてブラジキニンがあるが、ブラジキニンはキニナーゼⅡによって不活性化される。
ACE阻害薬を服用すると、ブラジキニンを不活化するキニナーゼⅡが阻害される。これによってブラジキニンが蓄積しやすくなる。これによって、空咳が起こる。
・直接的レニン阻害薬(DRI)
アンジオテンシンⅡが産生されるまでに、レニンによってアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠに予め変換されている必要がある。そのため、レニンの働きを抑えることができればアンジオテンシンⅡの産生を抑制でき、血圧を下げることができる。
このような働きをする薬物として、レニン-アンジオテンシン系の起点であるレニンの産生を抑制する薬がある。これを、直接的レニン阻害薬(DRI:Direct Renin Inhibitor)と呼ぶ。
直接的レニン阻害薬(DRI)としては、アリスキレン(商品名:ラジレス)がある。
以下に、これまで紹介したレニン-アンジオテンシン系(RA系)に作用する薬物の作用機序を載せる。
一般名 |
商品名 |
薬理作用 |
ロサルタン | ニューロタン | アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB) |
バルサルタン | ディオバン | |
カンデサルタン | ブロプレス | |
カプトプリル | カプトリル | アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) |
エナラプリル | レニベース | |
アリスキレン | ラジレス | 直接的レニン阻害薬(DRI) |
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