抗パーキンソン病薬
パーキンソン病の病態
パーキンソン病の患者では、黒質-線条体の変性が起こっている。これにより、脳内でのドパミン量(DA) の低下が起こる。また、相対的にアセチルコリン量(ACh) が増える。
パーキンソン病の好発年齢は50代後半~70歳からであり、無動・震戦・筋固縮を三大主徴とする。また、姿勢調節機能障害としてすくみ足がある。このすくみ足は、ノルアドレナリンの不足によって起こる。
なお、ハロペリドールやクロルプロマジンなどのD2受容体遮断薬はドパミンの作用を弱める働きがある。パーキンソン病患者ではドパミン量が減少していると述べたが、これらドパミンの作用を弱める薬によってパーキンソン病様症状を引き起こすことがある。これをパーキンソン症候群という。
パーキンソン病は根本治療ではなく対症療法であるが、パーキンソン症候群の患者は薬物投与をやめればパーキンソン病様症状が治る。
抗パーキンソン病薬
パーキンソン病患者ではドパミン量の低下、アセチルコリン量の増加が起こっている。(すくみ足が見られる患者ではノルアドレナリンも低下している。)
そのため、パーキンソン病治療薬はドパミン(DA) を増やすように働く。また、アセチルコリン(ACh) の働きを弱めるように働く薬も使用される。すくみ足の改善にはノルアドレナリンを補う薬を使用する。
パーキンソン病治療のポイント
☆ドパミン(DA) の作用増強
☆アセチルコリン(ACh) の作用減少
☆ノルアドレナリン(NAd)の作用増強
ドパミン(DA) 作用増強薬
・ドパミン前駆物質
ドパミンをそのまま投与しても血液脳関門を通過することが出来ない。そのため、ドパミンのプロドラッグ(前駆物質) としてレボドパが使用される。レボドパは血液脳関門を通って脳内に入ると、脱炭酸酵素によってドパミンとなる。これによって、脳内のドパミン量を増やすのである。
しかし、レボドパに対する脱炭酸酵素は脳内だけでなく末梢にも存在する。そのため、投与したレボドパの多くが脳に到達する前にドパミンへと変換されてしまう。ちなみに、レボドパを経口投与した場合、脳内へ移行する割合は約1%程度である。
そのため、レボドパの脳内移行率を上げるために末梢だけに作用する脱炭酸酵素阻害薬が用いられる。カルビドパは脱炭酸酵素阻害薬であり、末梢におけるレボドパからドパミンへの変換を抑制する。なお、カルビドパ自身は血液脳関門を通過しない。
これによってレボドパの投与量を減らすことができ、副作用も低減することができる。同じような働きをする薬にはベンセラジドがあり、レボドパと併用投与することでレボドパ量や副作用リスクを減らすことができる。
なお、カルビドパやベンセラジドとは別の作用機序でレボドパの作用増強を表す薬物としてセレギリン(商品名:エフピー)がある。ドパミンはMAOBと呼ばれる酵素によって代謝される。セレギリンはMAOB阻害薬であり、ドパミンがMAOBによって代謝されるのを抑制する。
なお、レボドパの作用を弱めるものとしてビタミンB6(ピリドキサールリン酸) がある。これは、ビタミンB6が抹消での脱炭酸酵素の働きを強めるからである。
レボドパの作用
☆レボドパ + カルビドパ → 作用増強
☆レボドパ + ベンセラジド → 作用増強
☆レボドパ + セレギリン → 作用増強
☆レボドパ + ビタミンB6 → 作用減少
・ドパミン受容体刺激薬
ドパミンはD2受容体を刺激する。それならば、同じようにD2受容体を刺激する薬物であれば抗パーキンソン作用を示すはずである。このようなD2受容体アゴニストにブロモクリプチン(商品名:パーロデル)がある。ブロモクリプチンはD2受容体を刺激することで抗パーキンソン作用を示す。
また、脳内のドパミン放出にはドパミン作動性神経が関与している。アミンタジン(商品名:シンメトレル)はドパミン作動性神経を刺激し、ドパミン放出を促進させる。なお、アミンタジンはA型インフルエンザウイルスにも有効である。
さらに、ドパミン合成を促進させることによって脳内のドパミン量を増やすことができる。ドパミンはレボドパが代謝されることによって合成されるが、脳内でのレボドパ合成を促進させる物質としてゾニサミド(商品名:トレリーフ)がある。全体のドパミン量が増えるため、パーキンソン病を治療することができる。
アセチルコリン(ACh) 作用減弱薬
パーキンソン病患者はアセチルコリン量が増加しているため、脳内のアセチルコリンによる作用を弱めるような薬を使用する。アセチルコリンの作用を弱めるので抗コリン薬を使用する。このような中枢性抗コリン薬にトリヘキシフェニジル(商品名:アーテン)がある。
ノルアドレナリン(NAd) 作用増強薬
すくみ足の患者では脳内のノルアドレナリン量が不足している。このような患者にはノルアドレナリンを補うことで症状を改善させる。
ただし、ドパミンの場合と同じようにそのまま投与しても血液脳関門を通過することが出来ない。そのため、脳内で代謝されることでノルアドレナリンに変換される薬物を使用する。このような薬にドロキシドパ(商品名:ドプス)がある。
薬物名 |
商品名 |
作用機序 |
レボドパ | ─ |
ドパミン前駆物質 |
レボドパ + カルビドパ |
メネシット |
脱炭酸酵素阻害による |
レボドパ + ベンセラジド |
マドパー |
|
セレギリン | エフピー | MAOB阻害によるレボドパ作用増強・副作用低減 |
ブロモクリプチン | パーロデル | D2受容体アゴニスト |
アマンタジン | シンメトレル | ドパミン遊離促進 |
ゾニサミド | トレリーフ | ドパミン合成の促進 |
トリヘキシフェニジル | アーテン | アセチルコリン作用低減 (中枢性抗コリン薬) |
ドロキシドパ | ドプス | ノルアドレナリン前駆物質 (すくみ足に有効) |
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