役に立つ薬の情報~専門薬学 | 薬・薬学・専門薬学・薬理学など

役に立つ薬の情報~専門薬学

自律神経系に作用する薬物

 

 自律神経と効果器の働き
「自律神経系に作用する薬物」を学ぶに当たって、とても重要な表がある。その表を覚えておけば自律神経系はほぼ完璧となるが、逆に覚えていなかったらかなり苦しいものとなる。

 

しかし、簡単な覚え方があるので表を理解するのは比較的簡単である。以下にその表を示す。

 

交感神経興奮

臓器

副交感神経興奮

弛緩 (β2)

気管支平滑筋

収縮 (M3)

弛緩 (α、β)

腸管平滑筋

収縮 (M3)

抑制 (α、β)

胃腸運動

促進 (M3)

弛緩 (β2)

排尿筋 (膀胱平滑筋)

収縮 (M3)

弛緩 (β2)

子宮平滑筋

収縮 (M3)

弛緩 (β2)

毛様体筋

収縮 (M3)

促進 (β1)

心機能

抑制 (M2)

収縮 (α1) > 拡張 (β2)

拡張 (β2) > 収縮 (α1)

血管

冠血管

拡張 (M)

-

瞳孔括約筋

収縮 (M3)

収縮 (α1)

瞳孔散大筋

-

 

まず覚えないといけないのは「副交感神経興奮の場合」である。なぜなら、この表を見る限りではムスカリン受容体 (M受容体) の刺激ばかりだからである。(しかも、ほとんどがM3受容体:心臓はM2受容体)

 

そして、副交感神経興奮時の平滑筋の様子に注目してほしい。「~平滑筋」とつくものでは、M3受容体刺激によって収縮が起こっている。つまり、「副交感神経が刺激されたら、平滑筋は収縮する」と覚えれば良い。そして、たったこれだけのことを覚えれば、ほとんどの自律神経系に作用する薬物をカバーすることができる。

 

自律神経に対する「抗コリン薬」や「交感神経興奮薬」の作用をそれぞれ覚えても良いが、はっきり言って無駄である。なぜなら、これらの薬物は「副交感神経興奮薬の逆の作用をする」と考えれば良いためである。

 

 副交感神経、交感神経、抗コリン薬の作用

 

交感神経と副交感神経は逆の作用をもつので、「交感神経刺激薬」は平滑筋収縮の逆、つまり平滑筋を弛緩させる。

 

また、「抗コリン薬」とはムスカリン受容体遮断薬の総称であり、副交感神経と拮抗する。そのため、「交感神経刺激薬」と同様に副交感神経刺激の逆の作用をすると考えることができる。

 

なお、交感神経興奮は運動時など体を活発に動かしている時を想像してもらえば良い。このとき心臓の鼓動は早くなり、消化管の機能は抑制され、唾液は粘っこくなる。

 

それに対し、食事をしている時など副交感神経は体を休めている場面を想像すれば良い。体を休めているので心臓の鼓動はゆっくりで、食事の時は胃や腸などの消化管運動が活発になり、唾液は比較的サラサラなものとなる。

 

 

 副交感神経刺激薬
副交感神経を刺激する体内物質としてアセチルコリン(ACh) がある。しかし、アセチルコリンはコリンエステラーゼ(ChE) によって体内ですぐに分解される。

 

そのため、副交感神経を刺激する薬としてコリンエステラーゼ(ChE) に分解されにくく、アセチルコリン(ACh) としての作用をもたせたものを使う。また、コリンエステラーゼ(ChE)
を阻害することで間接的にアセチルコリン(ACh)の作用を強めるものも使用される。

 

 ・合成コリンエステル類
合成コリンエステル類はコリンエステラーゼ(ChE) によって分解されにくくなっている。合成コリンエステル類としては次のようなものがある。

 

ムスカリン作用

ニコチン作用

ChE感受性

ベタネコール

(商品名:ベサコリン)

×

×

カルバコール

×

 

上記薬物の特徴としては、「ベタネコールにはニコチン作用がないが、カルバコールにはニコチン作用がある」という点である。

 

・可逆的ChE 阻害薬
コリンエステラーゼ(ChE) を阻害することによって間接的にアセチルコリン(ACh) の作用を増強することができる。可逆的ChE 阻害薬には次のようなものがある。

 

 ・フィゾスチグミン
 ・ネオスチグミン(商品名:ワゴスチグミン)
 ・ジスチグミン(商品名:ウブレチド)
 ・エドロホニウム

 

「~チグミン」とつけば、コリンエステラーゼ阻害薬となる。また、エドロホニウムは作用時間が短く、重症筋無力症の診断に用いる。

 

 

 抗コリン薬
抗コリン薬はムスカリン受容体でAChと競合的に拮抗し、その代表としてはアトロピン、スコポラミン(商品名:ブスコパン)がある。「~トロピ」とつけば抗コリン薬であり、「アトロピン、イプラトロピウム、トロピカミド」などは容易に抗コリン薬と判断することができる。

 

以下にいくつかの抗コリン薬を紹介したいと思う。

 

・四級アンモニウム薬
抗コリン薬の四級アンモニウムは消化管から吸収されにくい。そのため、鎮痙薬や吸入薬として用いられる。

 

 ・プロパンテリン(商品名:プロ・バンサイン)
 ・ブチルスコポラミンン(商品名:ブスコパン)
 ・イプラトロピウム(商品名:アトロベント)

 

・潰瘍治療薬
胃潰瘍の主な原因として胃酸の過剰分泌がある。胃酸の分泌にはムスカリン受容体も関与しており、M1受容体を遮断することで胃酸分泌を抑制し、胃潰瘍を治療する。ピレンゼピンはM1受容体を選択的に遮断する抗コリン薬であり、腸管や心筋などにほとんど影響を与えない。

 

 ・ピレンゼピン(商品名:ガストロゼピン)

 

・頻尿治療薬
抗コリン薬には平滑筋を弛緩させる作用がある。膀胱の平滑筋に直接作用させることで、頻尿の治療薬となる。

 

 ・プロピベリン(商品名:バップフォー)
 ・オキシブチニン(商品名:ポラキス)

 

・抗パーキンソン病薬
パーキンソン病の患者ではAChが過剰となっている。そのため、抗コリン薬によってAChの作用を弱めることでパーキンソン病を治療することができる。

 

 ・トリヘキシフェニジル(商品名:アーテン)

 

スポンサードリンク



スポンサードリンク