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役に立つ薬の情報~専門薬学

内分泌系(ホルモン)

 

分泌には内分泌と外分泌がある。外分泌とは分泌腺から体の表面や消化管などへ分泌されることである。それに対し内分泌とは、分泌腺から血液やリンパ管に分泌されることである。

 

内分泌腺から放出される物質をホルモンという。ホルモンは微量で作用する。微量といってもppm(百万分の一)、ppb(十億分の一)という量である。なかにはppt(一兆分の一)という単位で効果を示すものまである。

 

つまり、ほんの少しでもホルモンのバランスが崩れるだけで病気になるのである。

 

微量で作用するという点ではビタミンと似ている。しかし、ビタミンは体でつくることのできないものがある。またビタミンは過剰になっても必ずしも異常が起こるとは限らない。この2点でビタミンはホルモンと異なっている。

 

ホルモンを分泌する内分泌腺には下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓、腎臓、卵巣、精巣、胎盤などがある。

 

 内分泌腺

 

 下垂体
下垂体は前葉後葉中間部の三つからなる。それぞれ前葉と中間部は腺組織から、後葉は神経組織からなっている。

 

・下垂体前葉
下垂体前葉からは次の6種類が分泌される。

 

成長ホルモン 身長が伸びるのに関与するホルモンである。成長ホルモンは骨の先端にある軟骨の増殖を促す働きをする。つまり、骨が長くなることで身長が伸びるのである。成人になると身長が伸びなくなるのは、骨の先端に存在していた軟骨組織がなくなるためである。
甲状腺刺激ホルモン 甲状腺で放出されるホルモンの生産と分泌を促す。
副腎皮質刺激ホルモン 副腎皮質で放出されるホルモン(特に糖質コルチコイドと副腎アンドロゲン)の生産と分泌を促す。
卵胞刺激ホルモン 卵巣で放出される卵胞ホルモンの生産と分泌と卵胞の成熟を促す。
黄体形成ホルモン 卵巣からの排卵を促し、排卵後の黄体形成と黄体ホルモンの生産と分泌を促す。

プロラクチン
(黄体刺激ホルモン)

動物の場合ではプロラクチンの作用によって、黄体ホルモンの分泌が促される。しかしヒトの場合では黄体ホルモンの分泌は黄体形成ホルモンがその役割を果たす。

 

つまり黄体ホルモンの分泌促進に関してはプロラクチンは必ずしも必要ない。ただし、このホルモンは分娩後の乳汁生成と分泌促進という働きがある。

 

成長ホルモンの量が成長期に多量に分泌されると、異常に身長の高いヒトになる。これを巨人症という。また手、足、鼻、喉には成人になっても先端に成長ホルモンに反応する軟骨が残っている。そのため、成人になっても成長ホルモンが分泌され続けると身体の先端がとび出てしまう。これを先端肥大症という。

 

・下垂体中間部
下垂体中間部からはメラニン刺激ホルモンが分泌されている。皮膚のメラニン細胞を刺激することでメラニン形成を促す作用をする。メラニンが作られると皮膚が黒くなる。

 

・下垂体後葉
下垂体後葉からは次の二つのホルモンが分泌されている。

 

オキシトシン このホルモンは成熟した子宮を収縮させる作用があり、分娩時に重要な役割を果たす。そのため医療としては陣痛促進剤として用いられることがある。また、乳汁の排出を促す作用もする。

抗利尿ホルモン
(バソプレッシン)

このホルモンは尿を生成するときに水を再吸収させる働きをする。つまり尿を凝縮させる役割をする。尿の生成を促す利尿効果に対抗するので抗利尿ホルモンである。また血圧を高める作用があり、バソプレッシンともいわれている。

 

抗利尿ホルモンの働きが弱まると尿崩症という病気が発症する。尿の生成の際に水の再吸収がうまく働かなくなる病気であり、尿の量が一日に10リットルになることもある。

 

 

 甲状腺
甲状腺からは次の2種類のホルモンが分泌されている。

 

サイロキシン
トリヨードサイロニン

これらはヨード(I)を含む物質である。主にサイロキシンであり、トリヨードサイロニンはわずかである。二つは同じ作用を示す。その作用は

 

・物質代謝の亢進  ・成長促進、骨格筋の発達促進
・交感神経系の活動促進  ・知能の発達促進

 

などである。

カルシトニン カルシトニンは血液中のカルシウム濃度を下げる作用がある。つまり血液中のカルシウム濃度を上げる作用をするパラソルモン(副甲状腺から分泌されるホルモン)と反対の働きがある。

 

甲状腺ホルモンの分泌異常が起こると、次のような病気を発症する。

 

バセドウ病 サイロキシンの分泌量が多いと発症する病気です。症状としては甲状腺の肥大(甲状腺腫)、微熱、眼球突出などがあります。女性に多く、その数は男性の5倍ともいわれています。
粘液水腫 成人になってからサイロキシンの分泌量が低下すると発症する病気である。粘液水腫にはだるさやむくみ、皮膚のかわき、脱毛などがある。
クレチン症

子供のときにサイロキシンの分泌量が少ないと知能障害などが起こる。これがクレチン症である。特に生まれたときから甲状腺の機能が低下している病気を先天性甲状腺機能低下症という。

 

現在の日本では新生児にスクリーニングをしているので、早期発見が可能になっている。

甲状腺腫 甲状腺が肥大することを甲状腺腫という。原因はバセドウ病にかぎらず、さまざまな原因で発症する。

 

 

 副甲状腺
副甲状腺は甲状腺の裏側に上下一個ずつの合計4個存在する。大きさは米粒くらいで、そこからはパラソルモン(パラトルモン)というホルモンが分泌されている。パラソルモンは血液中のカルシウム濃度を上昇させる作用がある。

 

血中のカルシウム濃度が半分くらいまで下がるとテタニーとう病気を発症する。症状としては筋のけいれんなどがある。「テタニー=カルシウム濃度の低下」であり、さまざまな原因がある。その原因の一つとして副甲状腺ホルモンの分泌低下がある。

 

 副腎
副腎は腎臓の上にある内分泌腺である。副腎の表層の部分を皮質、内部を髄質という。

 

・副腎皮質
副腎皮質から分泌されるホルモンには電解質コルチコイド、糖質コルチコイド、副腎アンドロゲンの三つがある。これら三つの中でも、副腎アンドロゲンは男性ホルモンの一種である。男性ホルモンは副腎アンドロゲン以外にも様々な種類が存在するため、副腎アンドロゲンは副腎皮質特有のホルモンではない。

 

そのため、副腎皮質から分泌されるホルモンの中でも、副腎アンドロゲンを除いた電解質コルチコイドと糖質コルチコイドを特に副腎皮質ホルモンという。

 

電解質コルチコイド このホルモンの代表にはアルドステロンであり、他にもデオキシコルチコステロンがある。このホルモンは尿が生成されるときに尿中からNaを吸収し、Kを尿中に排出する作用がある。
糖質コルチコイド

糖質コルチコイドはコルチゾンとコルチゾールが主であり、次の作用がある。

 

・糖新生作用
・脂肪やタンパク質を糖に変えることで、血糖値を上昇させる
・抗炎症作用
・血液中のリンパ球、好酸球の減少作用

副腎アンドロゲン 男性ホルモンである。そのため、副腎皮質からは男女に関係なく男性ホルモンが分泌されていることになる。しかし分泌量がわずかなので、生理作用はほとんどない。

 

アルドステロンはレニンアンジオテンシンによって調節されている。血液中のNa濃度が低下すると、腎臓からレニンが分泌される。このレニンが血漿タンパクを分解することでアンジオテンシンⅡが生成される。

 

このアンジオテンシンⅡが副腎皮質に働きかけ、アルドステロンの分泌が促進される。そうすることで尿中のNaの吸収が促され、血液中のNa濃度を正常な値に戻す。

 

副腎皮質から分泌されるホルモンのバランスが崩れると次の病気を引き起こす。

 

アルドステロン症 アルドステロンの分泌が異常に多くなると血液中のNa濃度が高くなり、高血圧を引き起こす。
クッシング病 クッシング病は副腎皮質から分泌される3種類のホルモンが異常に多く生産されるために発症する。症状には特殊な肥満(手や足は細いが、丸い顔と太い首になる)、糖血圧、糖尿病などがある。
アジソン病 副腎皮質ホルモンの分泌量が異常に減少すると発症する病気である。症状には疲労感、低血圧、皮膚に黒ずんだ斑点の出現などがある。

 

・副腎髄質
副腎髄質からはアドレナリン(エピネフリン)ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の二つのホルモンが分泌されている。

 

このホルモンの働きは似ており、自律神経のうちの交感神経と同じ働きをする。

 

 膵臓(すい臓)
すい臓にはランゲルハンス島とよばれる球形の細胞集団が存在する。これらの細胞はその形からA細胞、B細胞と区別されている。それぞれA細胞からはグルカゴンが、B細胞からはインスリンが分泌されている。

 

インスリンには血糖値を下げる働きをする。具体的には次のように働く

 

・肝臓に働きかけ、グルコース(ブドウ糖)をグリコーゲンに転化させる作用を促す
・血液中のグルコースを細胞内に取り込ませる作用がある。
・糖質を脂質に変換する作用をもつ

 

なお血糖値が異常に高くなる病気を糖尿病といい、生活習慣病の一つとなっている。インスリンの量が不足したりインスリンが細胞に作用しにくくなったりすると糖尿病になる。またインスリンを多量に注射してしまうと低血糖を引き起こす。

 

グルカゴンはインスリンとは反対の働きをする。つまり血糖値を上昇させるように働く。また、ランゲルハンス島にD細胞がごくわずか存在する。このD細胞からはソマトスタチンというホルモンが分泌されており、インスリンやグルカゴンの分泌を抑制する作用をもっている。

 

 卵巣
卵巣からは卵胞ホルモン黄体ホルモンの2種類のホルモンが分泌されている。

 

・卵胞ホルモン
卵胞ホルモンには化学的にエストラジオールエストロンがあり、両方ともステロイドである。卵胞ホルモンには次の作用がある。

 

・女性器の発達を促す。乳房の発達や女性らしい体形など
・卵管や膣の働きの維持

 

また、動物の発情は卵胞ホルモンの働きによって発生するので卵胞ホルモンを発情ホルモンともいう。発情を誘発する物質は卵胞ホルモン以外にも多く存在し、これら発情を誘発する物質を総称してエストロゲンとよぶ。つまり、エストロゲンは単一の物質の名前ではない。

 

・黄体ホルモン

 

排卵が起こると黄体が形成される。この黄体から分泌されるホルモンが黄体ホルモンであり、化学的にはプロゲステロンの一種類だけである。なおプロゲステロンは体内で代謝を受けるとプレグナンジオールへと変化して尿中に排出される。

 

黄体ホルモンには次のような作用がある。
・受精卵が着床できる状態を作る。
・排卵を抑えることで、妊娠状態を乱さないようにする。

 

黄体ホルモンは妊娠に関して重要な役割を果たし、このホルモンの分泌量が少ないと流産を引き起こす。また、黄体ホルモンは排卵を抑える作用があるので避妊薬として用いられている。

 

 精巣
精巣からは男性ホルモンが分泌され、その成分はテストステロンとよばれている。テストステロンはステロイドであり、次の作用がある。

 

・男性器の発達促進。男性らしい体形の形成。
・タンパク質の合成を促し、筋や骨の発育を促す。

 

テストステロンは体の中で代謝されるとアンドロステロンとなって尿中に排出される。男性ホルモンの作用をする物質を総称してアンドロゲンとよぶ。(⇔エストロゲン)。

 

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