オータコイド、エイコサノイド
オータコイド
オータコイドはホルモンと神経伝達物質の中間的性質をもつ物質である。オータコイドは環境の変化によって放出され、細胞にさまざまに変化をもたらす。
オータコイドの作用にはオークリン作用やパラクリン作用がある。オークリン作用とは自分自身が放出したオータコイドによって作用を表すことであり、パラクリン作用とは離れた細胞によるオータコイドによって作用を表すことである。
なお、オータコイドはホルモンと違い血液中にのることはない。
レニン-アンジオテンシン系
腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌され、レニンはアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠへの変換を促す。このアンジオテンシンⅠはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンⅡに変換される。
アンジオテンシンⅡはアンジオテンシンⅡ(AT1)受容体に作用し、血管収縮作用・副腎皮質からのアルドステロン分泌促進などの作用を表わす。このような働きによって血圧が上昇してしまうのである。そのため、レニン-アンジオテンシン系を阻害すれば血圧を下げる効果が期待できる。
レニン-アンジオテンシン系の阻害には、次のようなものがある。
○ アンジオテンシン変換酵素(ACE) の阻害
○ アンジオテンシンⅡ(AT1) 受容体の阻害
アンジオテンシンⅠの活性は低く、アンジオテンシンⅡに変換されることでその作用を表わすようになる。アンジオテンシン変換酵素(ACE) を阻害すれば、活性の低いアンジオテンシンⅠでストップさせることができる。これによって血圧上昇を抑える。
アンジオテンシン変換酵素(ACE) 阻害薬にはカプトプリル(商品名:カプトリル)、 エナラプリル(商品名:レニベース)などがある。名前に「~プリル」とくれば、アンジオテンシン変換酵素(ACE) 阻害薬である。
また、アンジオテンシンⅡをアンジオテンシンⅡ(AT1) 受容体に作用させなければ血圧は上がらない。つまり、アンジオテンシンⅡ(AT1) 受容体を阻害することで、降圧作用を期待できる。
アンジオテンシンⅡ受容体にはAT1とAT2がある。AT1は「血圧上昇、水・Na の再吸収の促進」に関与しており、AT2は「血圧降下作用」に関与している。アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬はAT1を阻害することで血圧降下作用を表し、このような薬にロサルタン(商品名:ニューロタン)、バルサルタン(商品名:ディオバン)などがある。
・ブラジキニンとACE阻害薬
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は別名で「キニナーゼⅡ」とも言う。つまり、アンジオテンシン変換酵素とキニナーゼⅡは同じものである。
ブラジキニンはキニナーゼⅡによって不活性化されるが、ACE阻害薬を服用するとキニナーゼⅡが阻害される。これによってブラジキニンが蓄積しやすくなる。ACE阻害薬の副作用として空咳が有名であるが、この副作用にはブラジキニンの蓄積が関与している。
エイコサノイド
エイコサノイドは、炭素数が20であるポリエン脂肪酸由来の物質である。これらエイコサノイドは主にアラキドン酸、エイコサペンタエン酸などから生成される。つまり、必須脂肪酸から作られる。
エイコサノイドはこれらの物質から生成される物質の総称であり、プロスタグランジン(PG),トロンボキサン(TX),ロイコトリエン(LT)がある。
アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)が反応し、これをもとにプロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)が合成される。また、アラキドン酸にリポキシゲナーゼ(LyX)が反応し、これをもとにロイコトリエン(LT)を合成することができる。
このようにアラキドン酸をもとに、さまざまな反応が滝(カスケード)のように起こることで物質を合成する。そのため、このような反応をアラキドン酸カスケードと呼ぶ。
なお、シクロオキシゲナーゼが関わる経路をシクロオキシゲナーゼ経路といい、リポキシゲナーゼが関わる経路をリポキシゲナーゼ経路という。
アラキドン酸はホスホリパーゼAによって合成され、この反応が律速となっている。
シクロオキシゲナーゼ経路
シクロオキシゲナーゼはCOXと呼ばれ、アイソザイムとしてCOX-1、COX-2、COX-3などがある。COX-1は構成型であり、常に組織で発現している。それに対しCOX-2は誘導型であり、サイトカインなどの刺激によって炎症部位で誘導される。
シクロオキシゲナーゼ経路によって産生する物質には、それぞれ次のような作用がある。
○PGE2 | ○PGI2 | ○PGF2α | ○TXA2 |
・胃粘膜保護作用 |
・胃粘膜保護作用 |
・子宮平滑筋収縮 | ・血小板凝集 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
PGE2は「血管透過性の亢進、血管拡張」などの作用から、炎症を起こさせる物質であると分かる。そのため、PGE2の産生抑制をする物質は抗炎症薬となる。
非ステロイド性抗炎症薬はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、結果としてPGE2の産生抑制を抑制する。これによって、抗炎症作用を起こす。
また、PGE2はBK(ブラジキニン)の作用を増強する作用がある。ブラジキニンは発痛物質であるので、この物質の作用増強を抑えることで、痛みを抑えることになる。
COX受容体は血小板にも存在し、NSAIDsが作用することでTXA2産生が抑制されるので抗血液凝固作用を示すようになる。
しかし、よく見てみるとTXA2には「血小板凝集作用」があるが、PGI2には「血小板凝集抑制作用」がある。「どっちが正しいのだ?」と思うかもしれないが、実はNSAIDsの投与量によって変わる。
NSAIDsの一つにアスピリンがある。アスピリンを80~100mgの低用量で投与した場合、TXA2のみを阻害する。これによって血小板凝集阻害作用が得られる。
ここで、鎮痛・抗炎症作用を期待してアスピリンを投与する場合、200~300mgの高用量で使用する必要がある。この場合、PGI2阻害作用により血小板凝集阻害作用が減弱してしまう。これをアスピリンジレンマと呼ぶ。
このようにアスピリンを高用量で使用する場合、血小板凝集阻害作用はあまり期待できず、鎮痛・抗炎症作用を望んで投与される。
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用
NSAIDsの主な副作用として胃腸障害、出血傾向、気管支喘息の誘発がある。
COX阻害によってPGE2、PGI2が阻害されるが、この二つの物質は胃粘膜保護作用がある。この作用を阻害するため胃腸障害が表れる。
また、COX阻害によってプロスタグランジンが産生されないため、溜まったアラキドン酸はロイコトリエン(LT)産生へ向かう。そのため「LTC,LTD,LTE」のSRS-A物質がより多く産生され、気管支平滑筋を収縮させて気管支喘息を誘発させる。
出血傾向は血小板凝集抑制作用の結果として起こる。
・トロンボキサン阻害薬
トロンボキサンはアレルギー発症や血小板凝固促進に関与している。トロンボキサン阻害薬にはオザグレル(商品名ドメナン、ベガ)、セラトロダスト(商品名:ブロニカ)があり、抗アレルギー薬として使用される。
トロンボキサン阻害薬 |
薬理作用 |
オザグレル | トロンボキサン合成酵素の阻害 |
セラトロダスト | トロンボキサンA2受容体拮抗作用 |
リポキシゲナーゼ経路
アラキドン酸とリポキシゲナーゼが反応すること、ロイコトリエンが合成される。
ロイコトリエンが代謝される中で「LTC,LTD,LTE」はSRS-A(遅反応性物質:slow-reacting substance of anaphylaxis)として知られており、アレルギー反応に関わっており気管支収縮を起こす。
そのため、LT受容体遮断薬は気管支喘息の薬として使用される。なお、LTB4は白血球遊走作用を起こす。
・ロイコトリエン受容体阻害薬
ロイコトリエン(LT)は喘息やアナフィラキシーショックなどアレルギー発症に関与している。ロイコトリエンの中で「LTC,LTD,LTE」はSRS-Aと呼ばれ、気管支平滑筋収縮作用などをもつ。
そのため、ロイコトリエン受容体を阻害する薬はSRS-Aの産生を阻害し、気管支喘息やアレルギー鼻炎を抑制する。このような薬にプランルカスト(商品名:オノン)がある。
ロイコトリエン受容体阻害薬 |
薬理作用 |
プランルカスト | ロイコトリエン受容体阻害遮断により、気管支喘息やアレルギー鼻炎を抑制する。 |
ステロイド性抗炎症薬
アラキドン酸は膜リン脂質からホスホリパーゼA2(PLA2)によって合成される。このホスホリパーゼA2を阻害する物質にリポコルチンがあり、ステロイド薬はリポコルチン合成を誘導する。つまり、ステロイド薬はホスホリパーゼA2を阻害することで抗炎症作用を示す。
ステロイド性抗炎症薬の副作用としては次のようなものがある。
・感染症の誘発や増悪
・消化性潰瘍
・糖尿病や過血糖
・骨粗しょう症
アラキドン酸カスケードによって産生される物質の作用を見てみると、LTB4による白血球遊走作用やPGE2による炎症作用がある。つまり、アラキドン酸カスケードは免疫系において重要であり、この反応を抑制することで感染症の誘発や増悪を起こすのである。
ステロイド薬はNSAIDsと同様にPGE2,PGI2を阻害するため、消化性潰瘍を引き起こす。その他に、糖新生を促進してインスリン合成を抑制するため、糖尿病となることがある。
またステロイド薬はビタミンDと構造が似ているため、ビタミンDと拮抗することになる。ビタミンDは骨へのカルシウム沈着などにおいて重要であるため、ビタミンDが阻害されることで骨粗しょう症を誘発する。
スポンサードリンク
カテゴリー
スポンサードリンク