慢性腎不全(CKD)と治療薬
高血圧や糖尿病などによって腎臓に負担をかけてしまうと、慢性腎不全(CKD)として腎臓の機能が低下してしまう。このような慢性腎不全としては貧血やむくみ、息切れなどの症状が出てくる。
慢性腎不全の初期は自覚症状がほとんどないため、これらの症状が出てくる頃には慢性腎不全がかなり進行していると予想される。
慢性腎不全(CKD)の発症と検査
腎臓の機能が低下してしまう慢性腎不全は、生活習慣病患者で発症しやすくなっている。腎炎など腎不全に陥る理由は人によって様々であるが、この一番の原因として糖尿病がある。糖尿病によって腎臓の毛細血管に傷が付き、腎臓の機能が低下してしまうのだ。
なお、高血圧によってもこれら腎機能の低下が加速している。血圧が高ければ、その分だけ腎臓の毛細血管に強い圧がかかる。これによって傷が付きやすくなってしまう。これらの理由から、生活習慣病を予防することが慢性腎不全の予防に繋がる。
・慢性腎不全の検査
慢性腎不全では初期症状がほとんどないため、早期発見には検査が必要となる。このような検査方法としては、尿検査(尿タンパク)や血液検査(血清クレアチニン)がある。
① 尿タンパク
正常な状態であると、尿からタンパク質が検出されることはない。しかし、慢性腎不全のように腎臓の機能が低下しているとタンパク質が尿中に漏れ出してしまう。
そのため、尿からタンパク質が検出されることが慢性腎不全の指標の一つとなる。尿検査によって腎臓の状態を確認するのである。
② 血清クレアチニン
血液中に存在する老廃物の一種に血清クレアチニンがある。正常な状態であると、老廃物である血清クレアチニンは尿中へと排泄されていく。
しかし、慢性腎不全として腎機能が悪くなってしまうと血清クレアチニンを上手く体外へ排泄できなくなる。これによって、慢性腎不全患者では血清クレアチニンの値が高くなってしまう。
腎臓でのろ過や排泄が機能していないため、血清クレアチニンなどの老廃物が体の中に溜まってしまう。血液検査によって血清クレアチニン値を測定し、ここから性別や年齢を考慮した式に当てはめることで腎機能を算出することができる。
慢性腎不全(CKD)の治療薬
治療によって慢性腎不全が完全に治る訳ではない。腎臓の機能が低下していくと、最終的には透析が必要になる。ここまでになると、生活を行う上で多くの支障が出てくる。
そのため、出来るだけ慢性腎不全の進行を遅らせることで透析に至らないようにすることが重要になる。
なお、これら慢性腎不全の治療の基本は食事療法となる。タンパク質や食塩の制限、エネルギー量の調節などを行っていく。
それでは、慢性腎不全に使用される薬を紹介していく。
血圧を下げる薬
腎臓には細かい毛細血管が張り巡らされており、この血管を通ることによって尿を作る。血圧が高い状態であると、これら毛細血管に大きな負担をかけてしまう。
高血圧によって腎臓の動脈が硬化していき、さらに腎臓の機能が悪くなっていくという悪循環が繰り返されていくのである。そのため、血圧を下げることによって慢性腎不全の進行を遅らせる必要がある。
これら血圧を下げる薬として、レニン-アンジオテンシン系に作用するACE阻害薬やARBが使用される。また、カルシウム拮抗薬や利尿薬も血圧を下げる薬として慢性腎不全に使用される。
毒素を吸着する薬
腎機能が低下してしまうと、その分だけ体内の毒素を外に排泄できなくなってしまう。これによって毒素が蓄積してしまうと尿毒症を発症してしまう。
そこで、これらの毒素を何とかして溜めないようにしなければいけない。これを行う薬として経口吸着炭素製剤がある。いわゆる活性炭のことだ。
活性炭は毒素を含む化学物質を吸着する作用がある。そこで、毒素が体内へ吸収される前に、これら活性炭によって食事中の毒素をあらかじめ吸着させてしまうのである。これによって、尿毒症を改善させることができる。
このように、活性炭による作用によって慢性腎不全の尿毒症症状を改善する薬として球形吸着炭(商品名:クレメジン)がある。
腎性貧血を改善する薬
腎臓はエリスロポエチンという赤血球の産生に関わるホルモンを分泌している。そのため、慢性腎不全によって腎機能が低下してしまうと、エリスロポエチンを作り出せなくなってしまう。
その結果、貧血に陥ってしまう。
通常の貧血であると、鉄分を補えば回復することができる。しかし、腎性貧血ではエリスロポエチンの不足によるものであるため、鉄分を補っても貧血から回復することはない。この場合、エリスロポエチンを外から補う必要がある。
このように、エリスロポエチン製剤によって慢性腎不全による腎性貧血を改善する薬としてダルベポエチン アルファ(商品名:ネスプ)、エポエチン ベータ ペゴル(商品名:ミルセラ)などがある。
体液量やイオンバランスを調節する薬
・高カリウム血症の改善薬
腎臓は老廃物以外にもカリウムをはじめとするイオンバランスの調節も行っている。腎不全によって腎臓の機能が落ちてしまうと、これらカリウムの排泄がうまく機能しなくなってしまう。その結果、血液中のカリウム濃度が高くなってしまう。
この状態が高カリウム血症である。高カリウム血症の状態では、手足や唇のしびれなどの症状が表れるようになる。
カリウムは心臓の拍動にも関与しているイオンであるため、重度の高カリウム血症であると不整脈に陥ってしまうこともある。
これら腎不全による高カリウム血症を防止するため、食事中のカリウムが体内に吸収されないように調節する薬が使用される。栄養としてそれまで腸から吸収されていたカリウムを吸着することで、便と共に体外へ排出させるのである。
このように、カリウムを吸着する物質としてイオン交換樹脂があり、このイオン交換樹脂を服用することによって高カリウム血症を治療することができる。
イオン交換樹脂によってカリウムを吸着し、高カリウム血症を改善する薬としてポリスチン(商品名:アーガメイト、カリメート)などがある。
・高リン血症の改善薬
腎不全患者ではカリウムの他にもリンの排泄機能が低下している。この結果、高リン血症に陥ってしまう。
骨の成分と言えばカルシウムが有名であるが、骨はカルシウムの他にもリンが重要な構成成分の一つとなっている。血液中に含まれるリンの濃度が高くなってしまうと、骨以外の組織にカルシウムが沈着してしまう。これを異所性石灰化と呼ぶ。
また、カルシウムとリンの血液中の割合が1:1~1:2の割合でカルシウム吸収が良いため、一定濃度以上にリン濃度が高くなることでカルシウム吸収が抑制されてしまう。その結果、骨が脆くなってしまう。
これらの症状を改善するためにリン吸着剤を使用することで、高リン血症を治療する。この時のリン吸着としては、食事中に含まれるリンを腸管内で吸着することで便と一緒に排泄させる。
このようにリンを吸着することで高リン血症を改善する薬としてゼベラマー(商品名:レナジェル)、ビキサロマー(商品名:キックリン)などがある。
活性型ビタミンD製剤
カルシウムの吸収には活性型ビタミンDが関与しており、この活性型ビタミンDの合成には肝臓や腎臓が関わっている。
そのため、腎不全によって腎機能が低下してしまうと活性型ビタミンDの合成がストップしてしまい、腸からのカルシウム吸収が出来にくくなってしまうます。そこで、活性型ビタミンD製剤を外から投与する事で骨が脆くなってしまう過程を防止する必要がある。
このように、活性型ビタミンD製剤として腎不全による骨量低下を防止する薬としてアルファカルシドール(商品名:ワンアルファ、アルファロール)、カルシトリオール(商品名:ロカルトロール)、エルデカルシトール(商品名:エディロール)などがある。
○ 慢性腎不全の主な治療薬(高血圧治療薬は省略)
一般名 |
商品名 |
主な作用機序 |
球形吸着炭 |
クレメジン |
経口吸着炭素製剤 |
ダルベポエチン アルファ |
ネスプ |
エリスロポエチン製剤 |
エポエチン ベータ ペゴル |
ミルセラ |
|
ポリスチン |
アーガメイト |
カリウム吸着剤 |
カリメート |
||
ゼベラマー |
レナジェル |
リン吸着剤 |
ビキサロマー |
キックリン |
|
アルファカルシドール |
ワンアルファ |
活性型ビタミンD製剤 |
アルファロール |
||
カルシトリオール |
ロカルトロール |
|
エルデカルシトール |
エディロール |
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