細胞分裂とDNAの構造:抗がん剤を学ぶ前に
細胞が増殖するためには細胞分裂を行う必要がある。がん細胞はこの細胞分裂を無限に繰り返す機能を有しているため、がんを理解するためには細胞分裂のメカニズムについて把握する必要がある。
がん細胞は別として、正常な細胞は常に分裂し続けているわけではない。細胞分裂は「分裂に備えるためにDNA量を2倍に増やすS期(合成期)」と「S期で増やしたDNAを基にして細胞分裂を行うM期(分裂期)」に分けることができる。
そして細胞分裂が関与しない期間として、このS期とM期の間はG期(間期)と呼ばれる。このとき、M期とS期の間はG1期、S期とM期の間はG2期と呼ばれる。Sはsynthesis(合成)、Mはmitosis(分裂)、Gはgap(間隙)の意味である。
要は細胞分裂を行うためには「DNA量を2倍にする(S期) → 休む(G2期) → 細胞分裂を行う(M期) → 休む(G1期) → ……」という単純なサイクルを繰り返すという事を理解できれば良い。
・M期(分裂期)
がん細胞は無限に細胞増殖を行うことが問題となる。そのため、抗がん剤の作用機序を理解する上で、細胞分裂に関係するM期(分裂期)に起こる現象を理解する必要がある。
細胞分裂が起こるとき、2倍の量になったDNAをそれぞれの細胞に分ける必要がある。このとき、微小管と呼ばれる細胞の器官が重要となる。微小管は中空の細い管である。
M期では、微小管が寄せ集まる。微小管が集合することによって、細胞分裂に必要な構造体を形成するようになる。細い管である微小管が集まって繋がると、糸のような形状になる。このように、微小管が結合して寄せ集まることを「重合する」と呼ぶ。
この時、寄せ集まって糸のような形となった微小管は、DNAをそれぞれの端にたぐり寄せる役割をする。このようにして、2倍に増やしたDNAを分ける。
微小管の集合体から放出された糸によってDNAが分かれると、細胞の真ん中がくびれて細胞分裂が完了する。
※微小管が寄せ集まって束になったものを紡錘体と呼ぶ
・DNAの基本構造
細胞分裂を行う際はDNAの量を2倍にする必要がある。この時、DNAの構造を知ることによっても抗がん剤の作用機序を理解することができる。
DNAは私たちの体を構成するための全ての情報が入っている。しかし、その構造自体はとても単純であり、四つの組み合わせしかない。
この四つをそれぞれアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)と呼ぶ。つまり、私たちの体を構成する遺伝情報はたった四つの物質の組み合わせによって成り立っているのである。
それぞれの構造式を以下に記す。
これら四つの構造式を覚える必要はなく、「DNAはわずか四つの物質が組み合わさることで、その膨大な情報を蓄えている」ということが理解できれば問題ない。
その上で、実際のところこれら四つの物質は「デオキシリボース(糖)」や「リン酸」を含めて結合していくことで、DNAとしての構造を示すようになる。例えば、以下の構造がDNAを構成する四つに物質(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)に「デオキシリボース(糖)」と「リン酸」が結合した形である。
これがそれぞれ結合していくと、例えば以下のような構造となる。
このように、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)がどのような順番で結合していくかによって、DNAの情報も異なってくる。 なお、DNAではなくてRNAの場合、チミン(T)の変わりにウラシル(U)と呼ばれる物質が使用される。
古くから使用されている抗がん剤は細胞分裂に働きかける。より詳しく言うと、DNA合成の過程に作用して細胞分裂を阻害する。これにより、増殖速度の早いがん細胞を抑制できるようになるのである。
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