抗がん剤:植物アルカロイド
植物アルカロイドについて
植物成分の中には強い毒性を示すものがある。この強い毒性を応用し、抗がん剤として利用したものが植物アルカロイドである。
植物アルカロイドはDNA合成に作用することで、細胞の増殖を防ぐ。植物アルカロイドによる細胞抑制の機序としては、主に「トポイソメラーゼ阻害」と「微小管阻害」の二つに分けられる。
トポイソメラーゼ阻害薬
DNAの二本鎖はらせんとなっているため、「ねじれ」や「ひずみ」が生じている。これらの立体構造を解消しないかぎり、DNAの複製は物理的に困難である。
DNAの立体構造を変化させる酵素にトポイソメラーゼがあり、それにはⅠ型とⅡ型が存在する。
Ⅰ型トポイソメラーゼはDNAの二本鎖のうち一本鎖だけを切断した後、切断したDNAを再結合する。Ⅱ型トポイソメラーゼは二本鎖を切断し、再結合させる。なお、Ⅱ型トポイソメラーゼはDNAジャイレースとも呼ばれている。ちなみに、キノロン系抗生物質はこのDNAジャイレースをターゲットとしている。
この働きによってトポイソメラーゼはDNAのねじれの構造(超らせん)を解消する。つまり、「ねじれ」の数を減少させている。
このトポイソメラーゼの働きを阻害するとDNA合成がストップし、細胞死へと導かれる。
・カンプトテシン誘導体
カンプトテシンはトポイソメラーゼⅠを阻害することで細胞毒性を示す。カンプトテシンは強い抗がん活性を示すが、溶けにくい事や副作用の点で問題がある。
そこで、カンプトテシンの構造を元にして様々な誘導体が創出されている。カンプトテシンを手本として創出された薬としてイリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)、ノギテカン(ハイカムチン)がある。
・エピポドフィロトキシン系
植物から抽出されたもので、トポイソメラーゼⅡを阻害することで細胞毒性を示すものにポドフィロトキシンがある。ポドフィロトシキシンを原料にして合成された抗がん剤としてエトポシド(商品名:ベプシド、ラステッド)がある。
※エトポヒドは構造中に窒素を含まないため、アルカロイドではないと考えられている
微小管重合阻害薬
・ビンカアルカロイド系
微小管は細胞を構成する成分の一つであり、細胞分裂において重要な役割を果たす。
細胞が分裂するときに形成される紡錘体や繊毛は主に微小管が集まって構成されている。つまり、細胞分裂においては微小管が重合する(束になる)必要がある。
ビンカアルカロイド系薬は微小管の重合を阻害し、細胞分裂を阻害する。このような作用をする薬としてはビンブラスチン( 商品名:エクザール)、ビンクリスチン(商品名:オンコビン)、ビンデシン(商品名:フィルデシン)、ビノレルビン(商品名:ナベルビン)などがある。
・ハリコンドリンB類縁体
ビンカアルカロイド系と同じように微小管の重合を阻害する薬としてエリブリン(商品名:ハラヴェン)がある。
エリブリンはハリコンドリンBという強い抗がん活性をもつ構造をヒントとして創生された化合物である。エリブリンはハリコンドンBの大環状ケトン構造を抽出・単純化した構造をもっている。
微小管脱重合阻害薬
・タキサン系
ビンカアルカロイド系薬が微小管重合を阻害するのに対し、タキサン系薬は微小管重合を安定化させる。
細胞分裂が終わる段階になると、重合した微小管は元のばらばらの状態となる。つまり、束になっていた微小管が離れていく(重合状態から脱する)必要がある。これが、脱重合である。
タキサン系薬は微小管が重合した状態を安定化させるため、微小管の脱重合が起こらなくなる。これによって細胞の有糸分裂を停止させ、細胞死へと導くのである。
このような薬としてはパクリタキセル(商品名:タキソール)、ドセタキセル(商品名:タキソテール)などがある。
分類 |
薬物名 |
商品名 |
|
トポイソメラーゼ阻害薬 | カンプトテシン誘導体 | イリノテカン |
カンプト |
ノギテカン | ハイカムチン | ||
エピポドフィロトキシン系 | エトポシド |
ベプシド |
|
微小管重合阻害薬 | ビンカアルカロイド系 | ビンブラスチン | エクザール |
ビンクリスチン | オンコビン | ||
ビンデシン | フィルデシン | ||
ビノレルビン | ナベルビン | ||
ハリコンドリンB類縁体 | エリブリン | ハラヴェン | |
微小管脱重合阻害薬(タキサン系) | パクリタキセル | タキソール | |
ドセタキセル | タキソテール |
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