油水分配係数・pH-分配仮説
油水分配係数
薬物が作用するためには、細胞を通らないといけない。このとき薬物が細胞膜を通過することで吸収される場合、疎水性が高い方が吸収されやすい。
細胞膜は脂質二重膜によって取り囲まれている。脂質二重膜はその名の通り「脂質」で構成されているため、水をはじく。逆にいえば、油は通過しやすいということである。これが、「薬物の疎水性が高い方ほど細胞膜を通過しやすい」という理由である。
疎水性を表す指標に油水分配係数があり、この値が高いほど吸収されやすいことを示す。
pH-分配仮説と分子型分率
薬物は必ずしも同じ形をとっているとは限らない。これは、同じ薬物でもpHによって分子型やイオン型をとる場合があるためである。
例えばアミノ基(-NH2)を分子内にもつ薬物なら、酸性にすればイオン型が多く存在し、塩基性にすれば分子型が多く存在することになる。カルボキシル基(-COOH)を分子内にもつ薬物なら、酸性にすれば分子型が多く存在し、塩基性にすればイオン型が多く存在する。
イオン型と分子型であるが、当然イオン型の方が親水性が高く、分子型の方が疎水性が高い。そのため、分子型で存在する方が吸収されやすいのである。
分子内にアミノ基やカルボキシル基などをもつ薬物は、pHが変化するに従って「存在するイオン型薬物と分子型薬物の割合」が変化する。
「イオン型薬物と分子型薬物の割合」を分子型分率というが、分子型で存在している割合が高いと、この分子型分率の値は高くなる。pHが変化するに従って薬物の分子型分率も変化するが、分子型分率が変化するということは薬物の吸収率も変化するということである。
もしpHが変化することで分子型薬物の割合が増加(分子型分率↑)すれば、吸収率は改善する。逆にイオン型薬物の割合が増加(分子型分率↓)すれば、吸収率は悪くなる。
このようにpHによって分子型分率が変わり、その結果として吸収率が変わることをpH-分配仮説という。
・スルフィゾキサゾールについて
スルフィゾキサゾールという薬物に注目したいと思う。この薬物は両性物質であり、「酸性・中性・塩基性」のそれぞれの条件で次のような構造をとる。
この薬物はpHが低いとそのほとんどがイオン型をとり、pHが上がるにつれて分子型の割合が多くなって吸収率が改善する。しかし、pHが上がりすぎてしまうとまたイオン型の割合が多くなり、吸収率は悪くなる。
スルフィゾキサゾールのアミノ基(-NH2)とスルホンアミド基(-SO2-NH-)における分子型分率は下のようになっている。
図を見て分かるとおり、全体として見ればpH3.3で最も分子型分率が高くなっている。分子型分率が高いということは、分子型薬物の割合が多く、疎水性の指標である油水分配係数は高いはずである。そのため、「スルフィゾキサゾールはpH3.3付近で最も吸収が良い」ということが分かる。
界面活性剤の作用
界面活性剤は分子内に親水基と疎水基をもつ。界面活性剤はミセルを形成するが、ここに疎水性薬物が存在すると、この薬物はミセルの中に取り込まれてしまう。
周りに水分子が多いと、界面活性剤は親水基を外にしてミセルを形成する。そのため、ミセル中の薬物は親水性が上昇してしまう。また、ミセル形成によって見かけの分子量も増大する。これらの作用によって、薬物の吸収は低下してしまう。
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