代謝酵素の阻害と誘導
代謝酵素の阻害
薬の標的として主なものに酵素や受容体がある。酵素をターゲットとする時、薬はその酵素を阻害することによって作用を発揮させる。つまり、酵素の働きを抑制するのである。
同じように考えると、薬物代謝酵素も酵素の一種である。薬を代謝する作用を持つが、酵素であることには変わりがない。そのため、シトクロムP450などの代謝酵素は薬物によって阻害されることがある。薬を代謝する酵素を阻害するのは奇妙のようにも思えるが、このような事も起こる。
代謝酵素が阻害されると、その分だけ薬の代謝が進みにくくなる。そのために、本来代謝されるべき薬の代謝が遅れ、血中薬物濃度が上昇することで副作用が出やすくなる。
上図の未変化体とは、薬物代謝酵素によって代謝を受けていない薬物を指す。つまり、薬としての作用を示す化学物質本体のことである。代謝を受けると薬の構造式が変化するが、「代謝を受けていない薬として作用する構造の化合物」のことを未変化体と呼ぶ。
薬物代謝酵素であるシトクロムP450が阻害されると、当然ながら薬の代謝が抑制される。その結果、未変化体の薬物濃度が上昇してしまう。
以下にシトクロムP450の分子種と代謝酵素を阻害する主な薬物を記載する。
主な分子種 |
それぞれの代謝酵素を阻害する主な薬物 |
CYP1A2 |
ニューキノロン系抗菌薬(ノルフロキサシン、シプロフロキサシン) |
CYP2C9 |
サルファ剤(スルファメトキサゾール) |
CYP2C19 |
オメプラゾール |
CYP2D6 |
キニジン、シメチジン、クロルプロマジン |
CYP3A4 |
アゾール系抗菌薬(イトラコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール)、マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシン)、シメチジン |
重要なのは、上記の表のように「多くの薬物が代謝酵素の阻害に関与している」という事を大まかにでも良いので理解できることである。そして、これを学ぶことで「薬物同士で発生する相互作用」も理解することができる。
例えば、上記の表の中でCYP3A4を阻害する薬としてアゾール系抗菌薬(イトラコナゾール)がある。そのため、この薬を服用している患者さんではCYP3A4が阻害されているため、CYP3A4による代謝機能が抑えられている。
つまり、本来はCYP3A4によって代謝されるべき薬物が不活性化されにくくなり、その分だけ血中薬物濃度が上昇する。その結果、薬の作用が強く出すぎることで副作用が発生しやすくなる。これが、薬物間相互作用の概要となる。
グレープフルーツジュースと代謝酵素
前述の通り、薬物同士で相互作用を生じることがある。さらに、食物と薬物との間でも相互作用を発生することもある。この例として頻繁に用いられる食べ物にグレープフルーツジュースがある。
先ほど、アゾール系抗菌薬(イトラコナゾール)が代謝酵素の中でもCYP3A4を阻害することを紹介した。これと同じように、グレープフルーツジュースもCYP3A4を阻害する作用がある。
CYP3A4によって代謝される薬としてはCa拮抗薬(高血圧治療薬)やエリスロマイシン(抗生物質)、シクロスポリン(免疫抑制剤)などがある。そのため、グレープフルーツジュースを飲むとCYP3A4によって代謝されるこれらの薬物濃度が上昇し、副作用を引き起こしやすくなる。
代謝酵素の誘導
「酵素の誘導」とは、酵素の数が増えることを意味する。そのため、薬学での「誘導」とは、「絶対数が増えるという意味である」と認識できれば良い。そして、薬によって酵素の誘導を引き起こす場合がある。
薬物による酵素誘導では酵素自体の数が増えるため、その分だけ活発に薬物代謝が行われるようになる。その結果、薬の作用が弱まる。
酵素阻害の場合であれば、本来代謝されるべき薬が消失しないために血中濃度が上がり、副作用が出やすくなる。それに対し、酵素誘導の場合はこれの逆となる。つまり、薬の代謝が促進されるために血中濃度がいつもより素早く下がっていき、薬の作用が弱くなってしまう。
このように、代謝酵素を誘導する薬物としてリファンピシン(抗結核薬)、カルバマゼピン(抗てんかん薬)などがある。これらの薬によってシトクロムP450が誘導されるため、相互作用として他の薬の作用が弱くなってしまう。
また、喫煙によっても代謝酵素が誘導され、具体的にはCYP1A2が増える。このCYP1A2によって代謝される薬物としてフェニトイン(抗てんかん薬)があり、喫煙患者ではCYP1A2の誘導によってフェニトインの作用が弱まってしまう。
このように、薬物同士で起こる相互作用としては「薬の効き目が弱くなってしまう」という現象も存在する。
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