薬物間相互作用
薬物間相互作用
単剤で使用した場合は全く問題がなくても、複数の薬を併用したときに問題が起こることがある。これが薬物間相互作用である。
薬物間相互作用により、ある薬物の作用が弱まったり強くなったりする。これにより、薬の効果が表れにくかったり副作用が強く出たりする。このような相互作用を示す薬の種類は無限に存在する。そのため、ここでは代表的なものだけを示そうと思う。
タンパク質との結合変化
多くの薬物は血清中のタンパク質と結合している。その血清タンパクの中でも、アルブミンは大きく寄与している。ヒト血清アルブミンには薬物が結合するための部位が三つあり、それぞれ次のようなものがある。
・サイトⅠ(ワルファリンサイト)
・サイトⅡ(ジアゼパムサイト)
・サイトⅢ(ジギトキシンサイト)
例えば、ワルファリン(抗凝血薬)とフェニルブタゾンはアルブミン上の同じサイトⅠに結合する。そのため、ワルファリンを単独で服用するときよりも、ワルファリンとフェニルブタゾンを併用したときの方がワルファリンの遊離型血中濃度が高くなってしまう。
これにより、副作用が強く出てしまう可能性が高くなる。
※プロトロンビン活性とは、「血液の凝固しにくさ」を表す指標である。
シトクロムP450(CYP)による薬物相互作用
薬物の多くはシトクロムP450によって代謝される。このとき、特定のシトクロムP450を阻害する薬物を服用していた場合、そのシトクロムP450によって代謝されるであろう薬物は代謝されにくくなってしまう。つまり、副作用が強く出てしまうのである。
また、その逆も考えられる。特定のシトクロムP450を誘導する薬物を服用していた場合、そのシトクロムP450に代謝される薬物は予想よりも速く代謝されてしまう。つまり、薬の作用が出にくくなってしまうのである。
例えば、ワルファリン(抗凝血薬)とシメチジン(H2受容体遮断薬)を併用した場合、血漿ワルファリン濃度が上昇してプロトロンビン時間が上昇してしまう。これは、ワルファリンはCYP2C9によって代謝されるが、シメチジンがCYP2C9を阻害してしまうために起こる。
なお、シメチジンとアゾール系抗真菌薬(ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール等)は全てのP450を阻害する。その中でも、シメチジンは特にCYP2D6とCYP3A4を比較的強く阻害し、アゾール系抗真菌薬はCYP3A4を強く阻害する。
今度はテオフィリン(喘息治療薬)を例にしてみたいと思う。テオフィリンはCYP1A2によって代謝される。CYP1A2を誘導するものに喫煙がある。つまり、喫煙患者では非喫煙者よりもCYP1A2の量がより誘導されている場合が多い。そのため、喫煙患者のテオフィリンの半減期は非喫煙者よりも短い場合が多い。
ここでシメチジンとテオフィリンを併用すると、テオフィリンの半減期が長くなる。これは、シメチジンがCYP1A2を阻害したためであると考えられる。
※キニジン(抗不整脈薬)はCYP3A4とCYP2D6に結合するが、CYP2D6にはただ結合するだけであり代謝されない。
シトクロムP450以外での代謝阻害
・ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ阻害
ソリブジン事件という薬害が発生したことがあるが、これは以下に述べるような薬物相互作用によって起こったものである。
5-FU(抗ガン剤)はジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)によって代謝される。しかし、ソリブジンの代謝物はジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼを阻害してしまう。そのため、5-FUが代謝されにくくなり、副作用が強く出てしまったのである。
・キサンチンオキシダーゼ阻害
6-メルカプトプリンはキサンチンオキシダーゼによって代謝される。しかし、アロプリノール(痛風治療薬)も同じキサンチンオキシダーゼによって代謝される。
アロプリノールの方がキサンチンオキシダーゼと強く結合するため、6-メルカプトプリンとアロプリノールを併用した場合、血漿メルカプトプリンの濃度が上昇してしまう。
分泌過程での相互作用
ジゴキシンはあまり代謝を受けず、その多くが未変化体として尿中に排泄される。ジゴキシンが尿中に排泄されるときp-gp (p-糖タンパク質:p-グルコプロテイン)を介して排泄される。
キニジンはp-gpを阻害するため、ジゴキシンとキニジンの併用によりジゴキシンが尿中に排泄されにくくなり、血清ジゴキシン濃度は上昇する。
・尿中排泄の概論
尿中への薬物排泄量は次の式によって導き出すことができる。
尿中排泄量 = 糸球体ろ過量 + 尿細管分泌量 - 尿細管再吸収量
ただし、この式はよく考えて見れば当たり前のことであるということが分かる。以下にその概要を説明したいと思う。
薬物は糸球体ろ過により糸球体に排泄される。そこから尿細管からの分泌が起これば、その分だけ排泄される薬物量は増える。また、尿細管再吸収が起これば、当然それだけ薬物排泄量は減る。たったこれだけのことである。
なお、薬物の糸球体ろ過速度(XGF)は次の式によって表わされる。
薬物の糸球体ろ過速度 = GFR×血漿中薬物濃度×非結合型分率(fu)
この式も、考えて見れば当然であることが分かる。要は、薬物排泄速度を出すので考え方は「消失速度=クリアランス×血中濃度」と同じなのである。
GFRとは糸球体ろ過速度のことであり、正常な人であれば120mL/minで一定である。また、「血漿中薬物濃度」とは、血中の総薬物量のことであり、非結合型分率(fu)の積を取ることで遊離型薬物の血漿中濃度を導き出すことができる。糸球体ろ過されるのはタンパク質に結合していない遊離型薬物であるため、この操作が必要なのである。
協力作用・拮抗作用
薬物の血中濃度が変化しなくても、薬物の作用が強くなったり弱くなったりすることがある。このような作用の例として、ジギタリス配糖体とカリウム消失性利尿薬がある。
ループ利尿薬やチアジド系利尿薬はカリウムをどんどん消失させる。そのため、低カリウム血症になりやすい。カリウムイオンが減少すると、ジギタリス毒性が増大する。そのため、これら薬物の併用には注意が必要である。
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