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役に立つ薬の情報~専門薬学

PK/PD理論(抗菌薬の作用)

 

薬の作用を考える上で薬物動態はとても重要になる。ただし、実際には「薬がどれだけ作用したか」を考慮することも大切である。

 

そこで、薬物動態(薬がどれだけ体内に存在しているか)と薬力学(薬がどれだけその部位で作用しているか)の両方を考慮する。これが、PK/PD理論の概念となる。

 

PKはPharmacokineticsの略であり、日本語で「薬物動態」を意味する。それに対し、PDはPharmacodynamicsの略であり、「薬力学」を意味する。PK/PD理論は主に抗菌薬の作用で議論される。

 

 時間依存性と濃度依存性
抗菌薬の効果は血中濃度が高くなるとその作用も強くなる。この時、抗菌薬の作用を測る指標としてMIC(最小発育阻止濃度)がある。

 

MIC(最小発育阻止濃度)とは、「細菌の増殖を抑制するために必要な最小の薬物濃度」を指す。そのため、MICの値よりも抗菌薬の濃度が低ければ菌が増殖してしまう。そこで、PK/PD理論では薬力学(PD)の要素としてMICを利用する。薬物動態のグラフにMICの線を組み合わせることにより、PK/PDのグラフを描くことができる。

 

この時、薬物動態(PK)では「Cmax(最高血中濃度)」、「AUC」または「t(作用時間)」の三つが重要になる。もっと詳しく言うと、以下の三つを考慮する。

 

 ・Cmax(最高血中濃度)に対するMICの割合:Cmax/MIC
 ・AUCに対するMICの割合:AUC/MIC
 ・MICより高い血中濃度で推移した時間:Time above MIC

 

 「Cmax(最高血中濃度)」、「AUC」、「t(作用時間)」

 

この三つのうちどのパラメーターが重要となるかは抗菌薬の種類によって異なる。なぜなら、抗菌薬には「時間依存性」と「濃度依存性」の二種類があるためである。

 

抗菌薬によって、その抗菌作用が何に依存するかが異なる。時間依存性の抗菌薬の場合、「MICの値よりも高い濃度推移を維持した時間」が重要となる。

 

そのため、この種類の抗菌薬ではCmax(最高血中濃度)の値は関係なく、MICよりも高い血中濃度で長時間作用させることが抗菌薬の作用を最大化させることができる。また、これを行うことによって、耐性菌の発生を抑えることにも繋がる。

 

それに対し、濃度依存性の抗菌薬ではCmax(最高血中濃度)が重要となる。どれだけ高い血中濃度になったかを考える必要があり、長時間作用させることは耐性菌を発生させやすくする要因になる。

 

このように、抗菌薬でも「時間依存性」と「濃度依存性」では考え方が全く異なる。そのため、PK/PD理論において抗菌薬の中でも「時間依存性」と「濃度依存性」によって使用されるパラメーターが異なる。この時、抗菌薬の特性とPK/PDで重視されるパラメーターは以下のようになる。

 

抗菌薬の特性

PK/PDパラメーター

抗菌薬の種類

濃度依存性殺菌作用と

長い持続効果(PAE)

AUC/MIC or Cmax/MIC

キノロン系、
アミノグリコシド系

時間依存性殺菌作用と

短い持続効果(PAE)

Time above MIC

ペニシリン系、
セフェム系、
カルバペネム系

時間依存性殺菌作用と

長い持続効果(PAE)

AUC/MIC

クラリスロマイシン、
アジスロマイシン、
テトラサイクリン系、
バンコマイシン

 

PAE(持続効果)とは、「MICの値より低い濃度になっても抗菌薬の作用が持続する作用」を指す。

 

通常、菌が抗菌薬に触れると増殖が抑制される。その後、抗菌薬に触れなくなると菌の増殖が開始される。ただし抗菌薬の種類によっては、抗菌薬を取り除いたとしても菌の増殖抑制効果が残っている場合もある。

 

つまり、一度抗菌薬に触れたことにより、この抗菌薬の濃度がゼロになったとしても菌の増殖を抑える作用が残っているのである。このような効果がPAE(持続効果)である。

 

これらの知識を踏まえた上で解説していくが、濃度依存性の抗菌薬では「一瞬でも良いので、どれだけ高い血中濃度になったか」が重要となる。そのため、AUC/MIC(AUCに対するMICの割合)やCmax/MIC(最高血中濃度に対するMICの割合)が重要になる。

 

それに対して短い持続効果(PAE)をもつ時間依存性の抗菌薬の場合、単純に「MICより高い血中濃度をどれだけの時間維持したか」が重要になる。そのため、Time above MICが重視される。※above:「~より上の」という意味である。

 

また、時間依存性の抗菌薬の中でも長い持続効果(PAE)をもつ場合、持続効果(PAE)の作用も考慮するために「どれだけの薬が利用されたか」を表すAUCを使用する。そのため、AUC/MICを重視するのである。

 

このように、抗菌薬の特性によってPK/PDのパラメーターで使用される値が異なる。

 

 濃度依存性抗菌薬のPK/PD
キノロン系など濃度依存性の抗菌薬でPK/PDを考える場合、MIC以外に二つのパラメーターを考慮する必要がある。このようなパラメーターとしてMPC(耐性菌出現阻止濃度)MSW(耐性菌選択濃度域)がある。

 

抗菌薬を考える上で重要となる要素として、耐性菌の出現がある。できるだけ耐性菌の出現を抑え、感染症を治療しなければいけない。そこで登場する概念がMPCとMSWである。

 

 濃度依存性抗菌薬のPK/PD

 

菌の増殖を抑えるためには、MICより抗菌薬の濃度を高くすれば良い。ただし、耐性菌の場合はMICよりも多少抗菌薬の濃度が高かったとしても、生き残って増殖することができる。

 

そこで、実際のところMICより抗菌薬の濃度が高いだけでは不十分であり、これら耐性菌の増殖まで抑えるように抗菌薬の濃度を調節する必要がある。そこで、MPC(耐性菌出現阻止濃度)が出てくる。この濃度よりも高い血中濃度にすることにより、耐性菌の出現を抑えるのである。これにより、耐性菌を含めて殺菌することができる。

 

そのため、MSW(MICとMPCの間の濃度)では「通常の菌は殺菌されるが、耐性菌は生き残ってしまう濃度」と考えることができる。そのため、中途半端にMICより高い濃度であると、耐性菌の出現を促進させることになる。

 

これらの理由から、濃度依存性の抗菌薬は「高濃度で短期間投与により、MPCの値を超えるように投与量を調節する」という事を考えなければいけない。

 

 濃度依存性抗菌薬の正しい投与方法

 

 時間依存性抗菌薬のPK/PD
時間依存性の抗菌薬は基本的に「どれだけの時間、MICの値より高い濃度で推移したか」について考える。MICより濃度が高くても殺菌効果は上がらないため、Cmax(最高血中濃度)ではなくて血中濃度推移を考えるのである。そのため、投与量ではなく投与回数の方が重要視される。

 

例えば、薬を投与する事によって次のような血中濃度推移を描く薬があるとする。

 

 時間依存性抗菌薬のPK/PD

 

このとき、左図であれば多くの時間でMICよりも血中薬物濃度が低くなっている。この場合であると、抗菌薬の作用を発揮させることができない。

 

そこで、一回の服用量を減らす変わりに、一日の中での服用回数を増やしてやる。すると、右図のようにMICよりも高い血中濃度で推移する割合が増える。これによって、薬の作用を高めるのである。

 

ここでさらに服用回数を多くすると、下図のように抗菌薬の作用をより最大化させることができる。

 

 時間依存性抗菌薬の複数回投与

 

 PK/PD理論に基づく創薬研究
このようにPK/PD理論について学習してきたが、実際にこの理論に基づいて使われている薬がある。このような医薬品としてニューキノロン系抗菌薬であるレボフロキサシン(商品名:クラビット)がある。

 

ニューキノロン系抗菌薬は広く使用される薬であるが、耐性菌の出現が深刻な問題となっている。そこで、この耐性菌の出現を防ぐためにPK/PD理論を用いる。

 

抗菌薬の中でもニューキノロン系抗菌薬は濃度依存性の抗菌薬である。つまり、Cmax(最高血中濃度)の値が高いほど殺菌作用が強くなり、その分だけ耐性菌の出現も抑えることができる。

 

そこで、この薬は500mgという高用量を一日一回服用する。このような使用方法を行うことにより、薬の効果を最大化させるのである。さらに、MPCの値を超えさせることによって耐性菌の出現も抑えることができる。

 

PK/PD理論を知らなければ、「どのようにすればニューキノロン系抗菌薬の耐性菌出現を防ぐことができるか」また「なぜレボフロキサシンはこのような使い方をするのか」を理解することができない。

 

なお、このようにPK/PD理論は抗菌薬で考えると分かりやすいが、このようなPK(薬物動態)とPD(薬力学)を合わせて薬の作用を測る概念は抗菌薬以外にも抗がん剤など、多くの場面で使用される。

 

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