薬物の体内動態:全身クリアランス・半減期
記号の認識
Cp:血漿中の薬物濃度
Cp0:投与直後の血漿中の薬物濃度
D,X0:投与量
Xel:消失量
X:体内薬物量
Vd:分布容積
kel:薬物消失速度定数
ke:薬物排泄速度定数
km:薬物代謝速度定数
全身クリアランス(CLtot)
全身クリアランス(CLtot)とは、簡単に言えば「薬物を体外に排泄する能力」のことである。もっと詳しく言えば、「ある一定の時間に薬物が代謝・排泄される量を体積に換算したもの」である。なお、CLtotの単位は(mL/min)である。
※CLtotの単位は(容積/時間)であれば、別に(mL/min)でなくても(L/hr)でも(L/day)でもなんでもよい。
例えば、「CLtot = 1.0(mL/min)」だったとする。ここで、1分経過したとすると1.0(mL)分の容積に含まれている薬物が代謝・排泄されることになる。
どれだけ代謝・排泄されたかはそのときの血中濃度によって異なる。もし、1mL中に2mg分の薬物が含まれているなら1分で2mgが代謝・排泄されることになるし、1mL中に5mg分の薬物が含まれているなら1分で5mgが代謝・排泄されることになる。
このように血中濃度が変われば、薬の消失速度も変化する。そして、クリアランスとは血中濃度と消失速度を関係づけさせるためのパラメータである。
全身クリアランスは次の式によって表わされる。
薬物は代謝・排泄によって消失するが、このときの消失速度は「dXel/dt」と表すことができる。なお、Xelとは消失量のことである。また、肝(代謝)による消失量をXm、腎(排泄)による消失量をXeと表わすと、次の式が成り立つ。
Xel = Xm + Xe
代謝・排泄の大部分は肝や腎で行われるため、XmとXeを足すと当然ながらXelとなる。
なお、CLtotの単位は(mL/min)であることより、次の式が成り立つことも分かる。
CLtot = Vd・ k
※Vd(L) → 分布容積 、 k(/min) → 消失速度定数
・定常状態の場合
定常状態とは「投与速度(dD/dt)=消失速度(dXel/dt)」の状態のことである。つまり、薬物が体内に入る速度と代謝・排泄される速度が等しいのである。
投与速度は「薬物投与量D」、どれだけ吸収されたかを表す「バイオアベイラビリティF」、次の薬物投与までの時間である「投与間隔τ(タウ)」によって次のように表わされる。
投与速度(dD/dt) = D・F/τ
また、消失速度は前述の全身クリアランスCLtotの式を変形して次のように表わすことができる。
消失速度(dXel/dt) = CLtot・Cp
ここで、定常状態では「投与速度=消失速度」となるので、次のように表すことができる。
D・F/τ = CLtot・Cp
定常状態では、この式が成り立っている。また、この状態では血中濃度(Cp)が一定となる。
投与速度(dD/dt)はこれが点滴による投与であれば、そのまま点滴速度(k0)に置き換えることができる。
※ここでは、血中濃度Cpを目的血中濃度Cpssとして表わしているが、血中濃度という点で両者は全く同じものである。
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☆例題1
体重60kgの男性に薬物を点滴静注投与する。血中濃度を5(μg/mL)に維持したい。この薬物の全身クリアランス(CLtot)が60(ml/min)のとき、点滴速度(k0)はいくらにすればよいか。
・解答
目的血中濃度=5(μg/mL) =0.005(mg/mL) 、全身クリアランス=60(mL/min)なので、
0.005 = k0/60
k0 = 0.005 × 60 = 0.3(mg/min)
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このような計算により、薬物の投与速度を設計することができる。
AUC
薬の添付文章全てに全身クリアランスが記載されていればいいが、必ずしもそうでない場合がある。この場合は自分で全身クリアランスを求めなければならない。このとき重要となるのがAUCである。なお、AUCとは「利用された総薬物量」のことである。
縦軸に血中濃度(Cp)、横軸に時間(h)を取ってグラフを書く時、次のようなグラフを描くことができる。
このとき、図の青線で示した面積分がAUCである。つまり、濃度(Cp)を時間(t)で積分した値がAUCとなる。濃度と時間の積がAUCであるため、単位は[(mg/L)・h]となる。
※薬物血中濃度の推移は「濃度-時間曲線」で描かれる。そのため、AUCの単位は比較的想像しやすいはずである。
AUCの単位を見る限り、投与量(mg)をAUC[(mg/L)・h]で割るとCLtot(L/h)の単位と等しくなる。つまり、次式が成り立つ。
CLtot(L/h) = Dose(mg)/AUC[(mg/L)・h]
このように、CLtotの値が記載されていないのなら、AUCの値から全身クリアランス(CLtot)を求めればよい。
なお、AUCは台形公式から導き出すこともできる。ある時間ごとに区切りをつけ、それぞれを台形とみなして面積を計算し、全て足し合わせるという原始的な方法である。
上の図のようにそれぞれの時間で区切り、台形を作る。そしてそれぞれの面積を全て計算し、足し合わせればAUCを求めることができる。この場合では「AUC = S1+S2+S3+S4+S5+S6+S7」でAUCを求めることができる。
半減期(t1/2)
時間が経てば薬物は代謝されていく。そのため、当然ながら血中濃度は徐々に減少していく。そして、薬物が一次速度で減少するとき、ある濃度から半分の濃度になるために要する時間を半減期(t1/2)という。
下の図の場合、どちらの時間をとっても半減期である。
一次速度で減少するため、「t1/2 = ln2/k = 0.693/k」となる。なお、kは速度定数のことである。
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