薬物の吸収
糖、アミノ酸、ペプチドの吸収
グルコース、アミノ酸、ペプチド、水溶性ビタミンなどの栄養は輸送担体を介して吸収される。以下にその機構を示す。
・グルコース、ガラクトース
D-グルコース、D-ガラクトースは小腸管腔側の膜を二次性能動輸送によって輸送される。小腸管腔側の膜に存在する輸送系をNa+/アルドヘキソース輸送系と呼び、Na+イオン勾配を利用することで能動的にグルコース、ガラクトースを輸送している。
それに対し、血管側における糖の輸送は促進拡散によって輸送される。
・アミノ酸
アミノ酸は小腸管腔側の膜に存在する二次性能動輸送によって能動的に輸送される。このときの輸送に関わるのがNa+/アミノ酸輸送系である。
・ペプチド
ペプチドは小腸管腔側の膜に存在する二次性能動輸送によって能動的に輸送され、血管側には促進拡散によって輸送される。このときの二次性能動輸送にはプロトン勾配が原動力となっており、ペプチドはH /ペプチド輸送系によって能動的に輸送されている。
担体 |
駆動力 |
|
D-グルコース |
Na /アルドヘキソース輸送系 |
Na イオン勾配 |
アミノ酸 |
Na /アミノ酸輸送系 |
|
ペプチド βラクタム系抗生物質 カプトプリル等 |
H /ペプチド輸送系 |
プロトン勾配 |
βラクタム系抗生物質やカプトプリルはペプチド結合をもっている。ペプチド結合をもつため、H /ペプチド輸送系がこのペプチド部位を認識してしまう。そのため、これらの薬物の吸収にはH /ペプチド輸送系が関与している。
非拡散水層
膜の表面には非拡散水層という流動性が抑えられた水層が存在する。薬物が吸収されるには、まず腸粘膜表面まで拡散する必要がある。膜表面まで拡散した薬物は膜を透過して吸収される。
つまり、薬物の吸収には「膜表面に薬物が拡散するまでの過程」と「薬物が膜を透過する過程」が存在する。非拡散水層における透過速度であるが、非拡散水層が厚いほど薬物の吸収が遅くなり、薬物の分子量が小さいほど吸収が速くなる。
膜は脂質二重膜で構成されているため、脂溶性の高い薬物(分配係数Pの高い薬物) であるほど透過性がよい。しかし、非拡散水層はその名の通り水層であるため脂溶性の高い薬物では非拡散水層の透過速度は遅くなってしまう。
そのため、脂溶性の高い薬物(分配係数Pの高い薬物) の透過速度は非拡散水層透過律速となっている。それに対し、脂溶性の低い薬物の吸収速度は膜透過律速となっている。
・P-糖タンパク
腸管粘膜にはP-糖タンパクという輸送担体が存在し、この輸送担体によって腸管腔内へと排出される薬物が存在する。たとえ薬物が吸収されたとしてもP-糖タンパクによって再び腸内へと戻されるのである。
これらの薬物は当然であるが吸収が悪くなる。P-糖タンパクを介して分泌される薬物としては以下のものがある。
・シクロスポリン ・ベラパミル ・ジゴキシン ・キニジン
さまざまな吸収部位
・腸からの吸収
多くの薬物は腸から吸収される。腸から薬物が吸収される場合、門脈を通って肝臓を通過する。そのため、初回通過効果を受ける。
・胃からの吸収
胃は持続時間が長く、血管系に富んでいるが、薬物の吸収に適していない。
・口腔からの吸収
初回通過効果を受けない。吸収に適しており、ニトログリセリンの舌下錠などに利用されている。薬物の吸収は受動拡散であり、pH-分配仮説に従う。
・直腸からの吸収
直腸からの吸収は初回通過効果を受けない。また、小腸ほどではないがある程度の薬物吸収が期待できる。薬物の吸収は受動拡散であり、pH-分配仮説に従う。
・鼻腔からの吸収
鼻腔は初回通過効果を受けない。また、イオン形でも吸収されやすく、イオン形に対するバリアー能が低い。比較的高分子な薬物でも吸収する。
鼻から吸収されるとき、分子量6000程度の薬物はさすがに吸収されにくい。そのため、界面活性剤などで改善する。下に鼻からのインスリン吸収を示す。
図を見てわかるとおり、界面活性剤によって吸収が改善されたことが分かる。界面活性剤であるNa glycocholate、POE 9 lauryl、saponinは同程度の吸収促進効果である。
しかし、界面活性作用は「POE 9 lauryl、saponin >> Na glycocholate」となる。つまり、Na glycocholateの界面活性作用は他の二つに比べて低い。それにも関らず、同程度の吸収促進効果を有しているのである。
これは、Na glycocholateがロイシンアミノペプチダーゼを阻害する作用があるためである。ロイシンアミノペプチダーゼはインスリン分解に関わっている。
・肺からの吸収
吸収がきわめて速く、初回通過効果はない。ただし、PGや5-HTなどは主に肺で代謝されるため、初回通過効果を受ける。なお、正確な量の吸入が困難である。
肺からの吸収は粒子径の影響を受け0.5~1μmの粒子径では肺胞から、それ以上の大きさでは気管、気管支から吸収される。
・皮膚からの吸収
皮膚は角質によってバリアーとなっている。皮膚から薬物が吸収される場合、細胞間隙を通過する必要がある。そのため、薬剤添付後に薬が効くまでラグタイムがある。
ただし、汗腺や皮脂腺などの付属器官による吸収は角質のバリアーをスキップして吸収される。しかし、付属器官の有効面積は0.1%くらいであり、吸収の寄与率は低い。
皮膚からの吸収は水分が保持されることによって薬剤の透過性がよくなる。薬剤を塗布した後にフィルターなどで密封し、透過性を増加させる方法を密封療法という。また、疎水性物質を用いると、水分の蒸発を防ぐことができる。
薬物吸収の胃による影響
胃内容物排泄速度を表すものにGERがある。空腹であればGERは増加し、食物があればGERは低下する。つまり空腹時の場合、薬物は素早く腸へ移行する。それに対し食事後などの場合、薬物はなかなか腸へ移行しない。
下にジクロキサシリン服用後の血清濃度を「朝食一時間前に服用した場合」と「朝食後に服用した場合」で示す。
図のように、朝食を取った方がジクロキサシリン服用後のAUCと利用速度が減少する。なお、AUCとは総薬物量のことである。
また、利用速度だけでなく朝食を取った方が利用効率も減少している。これは、胃酸などによって薬物が分解されたためと考えられる。
ただし、全ての薬物が食物によって利用効率が減少するわけではない。例外として、下にリボフラビンの朝食後服用と絶食後服用における尿中排泄量を示す。※尿中に排泄されるということは、それだけ薬物が吸収されたということである。
リボフラビンは十二指腸で吸収される。絶食後服用ではGERが速く、薬物は速やかに移行される。そのため、薬物吸収に飽和現象が見られ、わずかしか吸収されない。
それに対し、朝食後服用ではGERが低く、薬物はゆっくりと移行される。そのため、リボフラビンは効率よく吸収されるのである。
リンパ管への移行
薬物を静脈内投与した場合、分子量の大きさに関係なく全ての薬物が血液中に入る。しかし、筋肉内注射や皮下注射の場合、薬物の分子量によっては血中ではなくリンパ管へ移行する。
分子量5000以下の薬物は毛細血管へと移行する。しかし、分子量5000以上の薬物はリンパ管へと移行する。
経口投与の場合ではほとんどの薬物が血中へと移行し、一部がリンパ管へと移行する。リンパ管へと移行した薬物は門脈を通らない。そのため、初回通過効果を回避することができる。
経口投与によってリンパ管へ移行する薬物は主に脂溶性物質であり、トリアシルグリセロール、コレステロール、ビタミンAなどがある。リンパ管での流速は血流と比べて遅いため、リンパ管へ移行した薬物が全身をめぐるには時間がかかる。
投与形態 |
薬物の移行部位 |
静脈内注射 |
全て血中へ移行 |
筋肉内注射、皮下注射 |
分子量5000以下の薬物は毛細血管へと移行。 |
経口投与 |
脂溶性の高い薬物は一部リンパ管へ移行する |
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