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役に立つ薬の情報~専門薬学

薬物の排泄:腎排泄、クレアチニンクリアランス(CLcr)、胆汁排泄

 

薬物の排泄には主に腎臓が関わる「排泄(腎排泄)」と肝臓で行われる胆汁中への「排泄(胆汁排泄)」の二つがある。そのため、薬物の排泄ではこの二つの経路を理解することができれば問題ない。

 

 腎排泄
薬物の排泄を行う上で最も重要となる器官が腎臓である。尿と一緒に薬物を排出することにより、体外へと排泄することができる。

 

腎臓は尿を作る器官であるが、尿を作り出すことによって老廃物を排泄することができる。この時、腎臓の中でも血液をこし取ることによって原尿を作る組織を糸球体と呼ぶ。糸球体を通ることで、ようやく尿が生成する。

 

糸球体で尿が作られた後、この尿は尿細管と呼ばれる管を通ることで膀胱まで続く。この時、尿細管の中でも糸球体を通過したすぐ後に続く尿細管を近位尿細管と呼ぶ。それに対し、膀胱側に位置する尿細管を遠位尿細管と呼ぶ。

 

 腎臓とネフロン

 

つまり、薬物の排泄は「糸球体でのろ過」、「近位尿細管への分泌」、「遠位尿細管からの再吸収」の三つで考えることができる。

 

 腎臓での糸球体ろ過:近位尿細管と遠位尿細管

 

 ・糸球体でのろ過
腎臓は糸球体でろ過を行い、老廃物などをこし取ることで尿を作る。この時、薬物も同様に糸球体でろ過される。薬は体にとって異物であるため、糸球体でろ過されて排泄されるのである。

 

このように、糸球体でろ過を受ける過程が薬物の腎排泄に関わっている。

 

 ・近位尿細管への分泌
糸球体で原尿が作られる時、この尿の中には糖やアミノ酸など私たちの体にとって重要な物質も含まれている。そのため、これらの栄養素を尿中から体の中へ回収する必要がある。

 

この作用を行う部位が近位尿細管であり、糖やアミノ酸などの栄養素を能動輸送によって尿中から体内へと再吸収する。つまり、トランスポーターを利用することによって、能動的に再吸収が行われる。

 

そして、尿中から血液中へ栄養の再吸収を行う働きだけでなく、近位尿細管には異物を血液中から尿中へと分泌する作用もある。薬物などの異物は近位尿細管へ分泌される。

 

 近位尿細管への分泌

 

つまり、薬物の排泄過程には「糸球体でのろ過」だけでなく、「近位尿細管で血液中から尿中へと分泌される過程」も存在する。

 

 ・遠位尿細管からの再吸収
近位尿細管とは逆に、遠位尿細管では薬物の再吸収が行われる。この時の再吸収は受動拡散によって行われる。近位尿細管では能動輸送によって尿中に分泌されるが、遠位尿細管では濃度差に従う受動拡散によって再吸収される。

 

 遠位尿細管からの再吸収

 

このように、一般的な薬は「糸球体でのろ過」、「近位尿細管での分泌」、「遠位尿細管での再吸収」によって腎臓による薬物排泄が行われる。

 

 ・代謝物の排泄と未変化体の排泄
薬が体の中に入った後、二つの形が存在する。一つは肝臓によって代謝を受けた後の形であり、いわゆる代謝物のことである。そしてもう一つは、肝臓によって代謝を受けていない薬として作用するそのままの形である。

 

後者の場合、代謝酵素によって薬の形が変化していないので「未変化体」と呼ばれる。当然であるが、基本的にはこの未変化体が薬としての作用を表す。この時、腎臓は「肝臓で既に代謝を受けた代謝物」と「薬としての作用を示す未変化体」の二つを排泄することができる。

 

なお、これまで説明してきた通り、薬の本体は油に溶けやすい脂溶性であることがほとんどである。そして、代謝酵素の役割は化学物質の水溶性を上げるように構造を変化させることである。

 

そのため、基本的には未変化体よりも代謝物の方が腎臓から排泄されやすくなる。

 

 クレアチニンクリアランス(CLcr)
クレアチニンとは筋肉運動を行った後に残る代謝産物であり、いわゆる老廃物のことである。

 

前述の通り、薬物の腎排泄には「糸球体でのろ過」、「近位尿細管での分泌」、「遠位尿細管での再吸収」と三つの影響を受ける。しかし、クレアチニンはこの中で「糸球体でのろ過」だけを受ける。尿細管での分泌や再吸収は行われない。

 

そのため、尿中からクレアチニンがどれだけ排泄されているかを調べることで、糸球体によるろ過機能を測定することができる。クリアランスは日本語で「排泄」という意味になる。クレアチニンクリアランスとは、「糸球体の機能によって物質を除去させる能力」を指す。

 

 クレアチニンクリアランスの概念

 

ちなみに、腎不全などによって腎臓の機能が低下すると、その分だけ糸球体によるろ過機能も低下していく。つまり、クレアチニンクリアランスの値が低下していく。

 

そのため、クレアチニンクリアランスは腎機能の指標となる。要は、クレアチニンクリアランスを参考にして「腎機能がどれだけ残っているか」を考える目印とするのである。

 

腎機能が正常であれば、クレアチニンクリアランスは100~120mL/minとなる。これが、軽度の腎障害患者ではクレアチニンクリアランス(CLcr)は「50≦~<70」となる。

 

なお、中等度の腎障害患者ではクレアチニンクリアランスは「30≦~<50」であり、高度腎障害・末期腎不全患者ではクリアチニンクリアランスが「<30」となる。このように、クレアチニンクリアランスの値から、その患者さんの腎機能を推測することができる。

 

 胆汁排泄
肝臓では主に薬物代謝が重要となる。しかし、腎臓で行われる尿排泄と同じように、肝臓でも薬物の排泄が行われる。この時の肝臓による排泄機構として胆汁排泄がある。

 

胆汁は肝臓で作られる消化液である。薬物がこの胆汁と共に小腸などの消化管へと排泄されることがある。

 

 肝臓と腎臓での排泄

 

薬が胆汁と共に消化管へ排泄されると、そのまま糞便と一緒に外へ排泄される。糞便と一緒に排泄されるので糞中排泄とも呼ばれることもある。このように、薬物の排泄機構としては腎排泄と胆汁排泄の二種類がある。

 

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