受動拡散(単純拡散)と能動輸送
受動拡散(単純拡散)
薬がどのような法則に従って吸収されていくかと言うと、とても単純な理論の上で成り立っている。それは、「高い方から低い方へ流れる」という当たり前の考えである。
なぜ川が流れているかと言えば、「高い位置にある山」から「低い位置にある海」へと水が移動しているからである。高い場所にある物質は低い場所へと移動していく。
これと同じように、「高い濃度の液体」と「低い濃度の液体」を混ぜ合わせると、二つの濃度は均一になる。そしてこれは、膜で仕切っても同様である。「高い濃度の液体」と「低い濃度の液体」を膜で仕切ったとしても、同じように濃度を均一にするように力が働く。
つまり、高濃度側から低濃度側へと物質が移動していくことになる。この考えに基づいて薬が吸収されていく過程を受動拡散(単純拡散)と呼ぶ。
薬を服用した場合、その薬の濃度は腸管内(小腸側)で高くなっている。それに対し、当たり前であるが体内の薬物濃度は低くなっている。そのため、腸の中で薬の濃度が高くなっている状態であると、この薬は濃度の低くなっている体内側へと自然に移動していくことになる。
受動拡散は腸管内側と体内側の濃度差が大きいほど吸収速度が速くなる。その分だけ、薬の濃度を均一にしようとする力が強くなるのである。
なお、ほとんどの医薬品はこの受動拡散によって吸収される。さらに、膜は脂質二重膜で構成されているため、脂溶性が高い医薬品であるほど膜を通過しやすくなる。そのため、受動拡散で吸収される薬である場合、脂溶性が高いほど膜透過がスムーズになる。
能動輸送
薬の本体は脂溶性物質であることが多い。もっと分かりやすく言えば油の塊である。そのため、比較的容易に脂質の膜を通過することができる。
それに対して、糖やアミノ酸、水溶性ビタミンは体に必要不可欠な物質であるにも関わらず、油に溶けにくい水溶性物質である。水に溶けやすい性質であるため、受動拡散によって吸収されにくい。
脂溶性物質であれば、腸管内と体内との間に生まれる濃度差によって物質の移動が起こる(受動拡散:単純拡散)。脂溶性物質なので脂質の膜を容易に通過することができるのである。しかし、水溶性物質はそもそも脂質の膜を通過することができないため、たとえ濃度差があっても物質の移動が起こらない。
これが、水溶性物質は受動拡散による吸収が起こりにくい理由となる。
そこで、濃度差や脂溶性に関係なく物質を輸送する機構が存在する。このような輸送系として能動輸送がある。能動輸送はエネルギーを消費することによって、能動的に物質を輸送する機構である。
受動拡散の場合、単なる濃度差によって自然条件下で物質の移動が起こる。それに対し、能動輸送では自然条件下で起こらないような物質の輸送を行う。そのためにエネルギーが必要になる。
この時、能動輸送を行う組織をトランスポーター(担体)と呼ぶ。このトランスポーターが糖やアミノ酸、水溶性ビタミンなどの物質を腸管内から体内へと能動輸送するのである。
・トランスポーターを利用して吸収改善を行った薬
アミノ酸は生体内にとって必須の栄養素であり、能動輸送によって体内へと吸収される。そこで、この性質を利用して薬の吸収を改善させた薬がある。このような薬に抗ウイルス剤であるバラシクロビル(商品名:バルトレックス)がある。
バラシクロビルは体の中で代謝を受けることによって、薬としての作用を表すようになるプロドラッグである。バラシクロビルは生体内で代謝された後、アシクロビルと呼ばれる抗ウイルス作用を示す物質へと変換される。
このバラシクロビルとアシクロビルの構造を見比べると、その違いとしては「構造式の中にアミノ酸が含まれているかどうか」であることが分かる。アシクロビルの構造にアミノ酸の一つであるL-バリンを結合させることによって、バラシクロビルの構造式へと変換される。
前述の通り、腸にはアミノ酸を効率よく取り入れるためにトランスポーターが存在する。バリンはアミノ酸の一種であるため、バラシクロビルに結合しているバリンがトランスポーターに認識される。その結果、バラシクロビルは能動輸送によって効率よく体内へ取り込まれるようになる。
このようにして、体内のトランスポーターを利用することで腸からの薬物吸収を改善させることもできる。体内で代謝されることでバリンの構造がばずれ、アシクロビルへと変化することで抗ウイルス作用を示すようになる。
細胞外への排出
糖やアミノ酸などの栄養は能動輸送によって積極的に体内へと取り込まれる。それに対し、毒性を有する物質に対しては積極的に体外へと排出しなければいけない。そこで、これら毒性をもつ物質を体外へ排出するトランスポーターも存在する。
アミノ酸などの栄養はエネルギーを使ってでも体内へ取り込まなければいけない。同じように、毒性物質もエネルギーを使用してでも体外へと排出する必要がある。このように、細胞内へと入ってきた物質を細胞外へ放出する主なトランスポーターとしてP-糖タンパク質(P-gp:P-glycoprotein)がある。
薬の吸収を考える上でこの機構はとても重要となる。なぜなら、P-糖タンパク質によって体外へ排出されると薬の吸収が悪くなってしまうからである。
P-糖タンパク質によって認識される薬としては抗がん剤や免疫抑制剤(シクロスポリン)などがある。そのため、これらP-糖タンパク質に認識される薬物は必然的に薬の吸収率が低下してしまうことに注意しなければいけない。
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