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役に立つ薬の情報~専門薬学

DDS(ドラッグデリバリーシステム)

 

薬を経口投与として口から投与したとき、この時の有効成分は腸から吸収されて体の中に取り込まれた後に全身を巡る。その後、有効成分が各組織に分布することによって医薬品としての作用を示すようになる。

 

薬にはそれぞれ性質があり、薬の種類によっては「素早く代謝されることによって、すぐに体の中から消失してしまう薬」があれば、「腸からの吸収が悪い薬」もある。

 

そこで、これら医薬品の有効時間を長くしたり吸収を改善したりする必要がある。これを可能にする技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム)である。つまり、DDS(ドラッグデリバリーシステム)の技術によって、医薬品の体内動態を改善させるのである。

 

「必要な薬物を必要な時間、適切な場所」に届けることを可能にする技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム)である。

 

 DDS(ドラッグデリバリーシステム)の種類
「DDS(ドラッグデリバリーシステム)によって体内での薬の動きを制御する」と言われると、とても難しいように思う。しかし、その考え方はとても単純である。

 

DDS(ドラッグデリバリーシステム)は目的ごとに主に三つに分けることができ、それぞれの目的によってDDS技術の方法が異なる。

 

このようなDDS(ドラッグデリバリーシステム)としては以下のようなものがある。

 

放出制御

吸収改善

標的指向化

概要

薬の血中濃度を適切な濃度に保つ 消化管(腸など)や皮膚からの吸収を改善する 目的とする部位へ効率よく薬剤を届ける

方法

・徐放製剤化
薬をゆっくり溶け出させることで、血液中の薬物濃度を一定に保たせる

・プロドラッグ化
有効成分自体の構造を変換し、腸からの吸収改善を行う

・薬剤の修飾
高分子による修飾などを行い、目的とする標的に効率よく薬剤を届ける

・腸溶性製剤
胃では溶けずに腸で溶けるように設計する

・投与経路の変更
腸からではなく、鼻や肺などから薬を吸収させる

・目的部位に直接投与
作用させたい標的部位に直接投与するように設計する

 

 放出制御(コントロールドリリース:CR)
 ・徐放製剤化
半減期の短い薬物の場合、すぐに薬の効果が消失するために何回も薬を服用する必要がある。そのため、薬を服用した後にゆっくり放出するように製剤化を施し、服用回数を少なくさせる。

 

 放出制御(コントロールドリリース:CR)

 

上図での速攻性製剤は何も施していない製剤であり、薬を服用するとすぐに胃内で崩壊する。それに対し、徐放性製剤化を施した薬は腸内でゆっくり溶け出す。これによって、血液中の薬物濃度を平坦にすることができる。

 

またそれだけではなく、服用による血中薬物濃度の日内変動を抑えることができるため、副作用の軽減にも繋げることができる。

 

 ・腸溶性製剤
胃内は胃酸で満たされているため、強い酸性に傾いている。胃酸の正体は塩酸であり、この強酸性条件が不都合な薬物もある。

 

例えば、一部の胃薬(胃潰瘍治療薬)は胃酸によって分解される。そのため、これらの薬が胃の中で溶けると有効成分が分解され、薬としての効果が消失してしまう。そこで、胃では溶けずに腸に達することで初めて錠剤やカプセルが溶け出すように設計する。

 

これによって、胃酸による有効成分の分解を防ぐことができる。このような製剤が腸溶性製剤である。

 

胃と腸ではpHが異なる。胃内は胃酸(塩酸)によって強酸性条件に傾いているが、小腸はアルカリ性に傾いている。そのため、このpHの差を利用することによって腸で薬物を放出させることが可能になる。このようなコーティングを腸溶性コーティングと言う。

 

なお、このような腸溶性製剤によって制御される製剤に限らず、他にも生体の特殊な変化に応じて薬物の放出制御を行うことができる。

 

 吸収改善
 ・プロドラッグ
DDS(ドラッグデリバリーシステム)と言っても、製剤技術を用いたものが必ずしもDDS技術であるとは限らない。有機化学による手法を用いることでもDDSが可能である。この方法の一つとしてプロドラッグがある。

 

薬物の腸からの吸収が悪いと、薬がうまく作用できない可能性が高くなる。吸収率が1%に満たない薬は世の中にたくさんあるが、吸収率が低いほど投与量を増やす必要があり個人差も大きくなる。

 

そこで、有効成分自体の構造を変換することによって薬物の吸収率を改善させるのである。体の中に入った後に酵素などによって代謝され、活性本体として薬として作用するようになる。

 

 シンバスタチンのプロドラッグ化

 

例えば、脂質異常症治療薬としてシンバスタチンがある。この活性本体を上図の右に記しているが、この構造のままでは腸からの吸収が悪い。

 

そこで、この構造を環の状態へと変換(環化)させることによって腸からの吸収を大幅に改善させたのである。この薬がシンバスタチンである。シンバスタチンは腸から吸収された後に体内の酵素で代謝され、コレステロール合成抑制作用を示す活性本体へと変換される。

 

他にも、アミノ酸の一つであるL-バリンを結合させることによって腸からの吸収を改善させた医薬品がある。抗ウイルス薬の一つにアシクロビルがあるが、この薬にバリンを結合させた薬がバラシクロビルである。

 

腸にはアミノ酸を効率よく取り入れるためにトランスポーターが存在する。アシクロビルにバリンを結合させたバラシクロビルはこのトランスポーターに認識され、能動輸送によって効率よく体内へ取り込まれる。

 

 

 

体内へ取り込まれた後にバリンが切断され、抗ウイルス作用を示す有効成分であるアシクロビルが生成する。

 

 ・投与経路の変更
ほとんどの薬は経口投与として口から服用する。口から投与された薬は腸から吸収され、全身を巡るようになる。ただし、全ての薬が腸から吸収されるとは限らない。むしろ、腸などの消化管は肺や鼻などに比べて薬物の吸収が難しい投与部位である。

 

食べ物は口から摂取するが、この食物の中には毒素などが含まれている可能性もある。そのため、何でもかんでも腸から吸収したのでは不都合になる。これら毒素の吸収を抑えるため腸から吸収される物質は限られており、もともと体にとって異物である薬も同じように腸から吸収されにくい。

 

そのため、実際に薬を動物に投与してみても腸から全く吸収されないことは頻繁にある。

 

しかし、前述の通り肺や鼻は小腸などの消化管に比べて薬物が吸収されやすい部位である。例えば、ペプチドなどの高分子が腸から吸収されることは考えられないが、鼻からであればペプチドなどの高分子であっても薬が吸収される。

 

このように、腸から投与すると全く効果のない薬であっても、投与経路を変えると効果を発揮するようになる薬も存在する。

 

 標的指向化
・薬剤の修飾
腸から吸収された薬は全身を巡るが、この薬は体内のあらゆる組織へ分布する。ただし、実際に医薬品として効果を表す場合は特定の組織に作用するだけで十分な例が多い。

 

例えば、うつ病は脳内の神経伝達物質に異常が起こっている。そのため、うつ病の薬は脳に作用することでその作用を発揮する。しかし、実際には全身を巡ることによって肝臓や心臓など、体のあらゆる組織にまで分布して作用することになる。

 

本当は脳にだけ作用すれば良いのだが、その他の組織にまで分布するために副作用が表れてしまう。

 

そこで、目的とする標的にのみ薬を届けるように設計すれば副作用を軽減し、より薬の効果を高めることができるはずである。これを実現した技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム)である。

 

このような「薬剤を特定の標的に作用する技術」が応用されている主な例として抗がん剤がある。

 

がん細胞の特徴の一つとして「増殖速度が速い」という事がある。そのため、がん細胞の周辺は不規則で不完全な血管が形成されている。もっと分かりやすく言うと、がん細胞には正常細胞にはない大きな穴が開いている。

 

そのため、ある特定の大きさの粒子はがん細胞にのみ集まる性質をもつようになる。

 

正常細胞はきちんとした血管壁によって粒子が通り抜けることができない。しかし、がん細胞では不完全な血管壁によって穴が開いている。そのため、粒子がこの穴を通り抜けてがん細胞にのみ蓄積するのである。

 

このように、不完全な血管壁が形成されることによって、ある程度の大きさをもつ粒子ががん細胞にのみ集積するようになることをEPR効果と呼ぶ。

 

 EPR効果

 

医薬品の多くは小分子であるが、この小分子に高分子を修飾させることによって粒子にする。これによって、正常細胞は通過しないが、がん細胞にのみ集積する大きさに設計するのである。

 

このような薬物の表面を修飾する高分子の例としてポリエチレングリコール(PEG)がある。

 

・目的部位に直接投与
薬は経口投与や注射によって薬を投与すると、有効成分が全身を巡ることで様々な臓器に作用する。ただし、投与方法によっては目的部位に直接投与できる場合がある。この例の一つとして吸入薬がある。

 

吸入薬は薬剤を口から吸い込むことによって肺や気管支に直接薬剤を届けることができる。気管支喘息では気道に炎症が起こっているが、薬剤を吸入薬として吸い込むことによって目的部位に直接投与することが可能になる。

 

副作用の強い薬としてステロイドがある。ただし、吸入薬としてのステロイドであれば気管支や肺だけに作用させることができる。そのため、強力に炎症を抑えつつ副作用も少なくさせることができる。

 

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