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役に立つ薬の情報~専門薬学

徐放製剤化の利点:DDS(ドラッグデリバリーシステム)

 

 なぜ徐放製剤化を施すのか
何も施していない医薬品であると経口投与として口から薬を服用した後、すぐに薬剤が崩壊して有効成分が放出されるようになる。素早く薬剤が崩壊するため、このような製剤を速効性製剤と呼ぶ。

 

これに対して、薬をゆっくり溶け出すように特殊な製剤化を施した薬が徐放性製剤である。少しずつ医薬品が溶け出していくため、一日での血液中薬物濃度を一定にすることができる。これによって、服用回数を減らすことができる。

 

ただし、薬を徐放製剤化する目的としてはただ単に「一日の服用回数を減らすことができる」という単純なものではない。徐放性製剤は副作用を軽減したり、患者さんの服薬コンプライアンス(薬をきちんと服用したかどうか)を上げたりすることができる。

 

 ・徐放製剤化による副作用の軽減
薬物動態において薬の作用を測定する主なパラメーターとして血中薬物濃度がある。つまり、血液中に含まれる薬物濃度によって、薬がどれだけ作用するかを予測するのである。

 

医薬品には薬の作用が適切に表れる有効域(治療域)が存在する。ただし、薬の血中薬物濃度が低くなるとその分だけ薬の効果がなくなってしまう。この時の領域を無効域と呼ぶ。

 

また、血中薬物濃度が高くなりすぎると副作用が出やすくなってしまう。この時の副作用が表れだす血中濃度が毒性域である。

 

半減期が短い医薬品であると、一日に何回も薬物を服用する必要がある。それだけでなく、この時に薬物を服用したときの血中薬物濃度のピークは必然的に高くなってしまう。

 

これに対して、徐放製剤化した薬はゆっくり有効成分が溶け出していくため、血中薬物濃度を平坦にすることができる。そのため、徐放性製剤は血中薬物濃度が毒性域に到達するリスクを減らすことができる。また、無効域の時間まで減らすこともできる。

 

   徐放製剤化の利点

 

 服薬コンプライアンスの上昇
徐放製剤化を施すことによって、それまで一日三回服用していた薬を一日一回の服用だけで済ませることができる。ただし、通常の薬であれば「服用回数が少なくなる」というだけの認識となるが、精神疾患の治療薬であれば服用回数を少なくする事が大きな意味を持つようになる。

 

精神疾患としてはうつ病や統合失調症が存在するが、その他の精神疾患としてADHD(注意欠陥・多動性障害)がある。小学校でいわゆる「落ち着きのない子供」がいたと思うが、まさにこの落ち着きのない状態がADHD(注意欠陥・多動性障害)である。

 

ADHD(注意欠陥・多動性障害)によって落ち着いて席に座っていることができなかったり、周囲に溶け込めなかったりする。ADHDは発達障害の一つである。

 

このADHDの治療薬としてメチルフェニデートと呼ばれる薬がある。ただし、メチルフェニデートの半減期は約3時間であるため、症状を抑えるためには一日に何回も薬を服用する必要がある。

 

何回も服用する場合であると学校にいる時間に薬を服用する必要があるため、「学校での薬剤管理」や「病気に対する周囲の理解不足」などによって薬の服用コンプライアンスが減ってしまう。つまり、薬が適切に服用されにくくなってしまう可能性が高くなるのである。

 

そこで、このメチルフェニデートに徐放製剤化を施すのである。これによって一日一回だけ、朝、家族が見ている前で薬の服用ができる。学校で周囲の目を気にしながら服薬しなくて済むのだ。

 

このように、精神科領域にとっては「それまで一日に何回も服用していた薬が一日一回で済むようになる」という単純な理由以上の効果が発生する。

 

 徐放製剤化による不利益
DDS(ドラッグデリバリーシステム)によって徐放製剤化した薬は当然ながら利点だけではない。徐放製剤化するということは、薬剤に特殊なコーティングを施すという事になる。そのため、薬を服用するときに噛み砕くなどの行為を行うと大変なことになる。

 

徐放製剤化した医薬品はゆっくり溶け出すように設計しているため、薬を噛み砕いてしまうとこれらゆっくり溶け出すように設計したコーティングが剥がれてしまう。

 

そのため、通常であれば徐々に血中薬物濃度が上がるようになるが、コーティングが剥がれているので急速に血中薬物濃度が上昇してしまう。つまり、その分だけ副作用が表れてしまう。

 

また、患者さんによっては薬を割ったり粉砕したりする場合がある。例えば、ある医薬品を5mg分だけ服用したいが10mgの有効成分を含んでいる規格の錠剤しかない場合、この10mgの薬を半分に割って5mgとして服用することがある。

 

このように、割ったり粉砕することによって薬の細かい容量調節を行う場合がある。

 

この時、徐放製剤化した医薬品は特殊なコーティングを施しているため、錠剤やカプセルを割ったり粉砕したりすることができない。そのままの状態で服用する必要がある。つまり、徐放製剤化による不利益としては「臨機応変な対応ができない」という点がある。

 

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