薬物動態のADME(吸収・分布・代謝・排泄)とは
薬学を学ぶ上で、薬を服用した後に「その薬が体の中でどのような動きをするのか」を理解することはとても重要である。このような分野を薬物動態学と呼び、これは薬学特有の学問の一つである。このように言うと、薬物動態学はとても難しい学問のように思える。しかし、基本的な考え方はとても単純である。
薬を口から服用すると、その薬は腸から吸収されて血液にのることで全身を巡る。この時、血液中の薬物濃度は上昇していく。その後、薬は代謝・排泄によって徐々に血液中から消失していく。つまり、この過程では血液中の薬物濃度は下がっていく。
このように、薬を服用すると「血液中に存在する薬の濃度が上がっていき、ある時を境に薬の濃度が下がっていく」というだけなのである。
ただし、薬物動態は当然ながらこれだけではない。薬の代謝・排泄される速度が速い医薬品があれば、遅い医薬品もある。この時のグラフを考えると、下図のようになる。
代謝・排泄の速度が速ければ、その分だけ血液中に存在する薬の濃度は素早く消失していく。それに対して、代謝・排泄の速度が遅い薬であれば、なかなか血液中の薬物濃度が下がらない。これが、薬物動態の簡単な概要となる。
この時、「薬の吸収される場面がどのようになっているか」、「医薬品の代謝過程に何が関わっているか」などを細かく見ていくことで、薬物動態としての学問が成り立っている。
ADME(アドメ:吸収・分布・代謝・排泄)
薬物動態を考える上で最も重要となるパラメーターに血中薬物濃度(血中濃度)がある。つまり、「血液の中にどれだけその薬が含まれているか」という事が重要となる。
そのため、薬物動態を学ぶ上で基本的には血中薬物濃度の値に注目しておけば問題ない。薬が新しく投与されると血中薬物濃度は上がり、時間が経てば血中薬物濃度は下がる。
薬を投与した時、全ての薬は「吸収」、「分布」、「代謝」、「排泄」という過程を経る。そのため、薬物動態を理解するためにはこの四つの過程を学べば良いことが分かる。つまり、この四つの過程をきちんと学び、組み合わせて考えることさえできれば薬物動態は完璧となる。
なお、これら四つの過程は英語でそれぞれAbsorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄)と表される。そのため、これら四つの頭文字をとってADME(アドメ)と表現される。
体の中での薬の動きを「薬物動態」という言葉で表されるが、同じ意味でADMEとも表現される。
・吸収
薬物動態として血中薬物濃度を考える上で、まずは薬が体内に吸収されなければいけない。そのため、最初の過程として「吸収」が重要になる。
経口投与として口から薬を服用した場合、その薬の多くは腸から吸収される。そのため、薬物動態では「腸からどのように薬が吸収されていくか」という過程が重要になる。
たとえ試験管レベルで薬として作用が強かったとしても、そもそもその薬が吸収されなければ作用することができない。そのため、試験管レベルで作用の強い薬を創出したとしても、動物実験では作用が強くないことも頻繁にある。この理由の一つとして、「薬の吸収が悪い」という事がある。
なお、静脈注射のように直接薬を体内に投与する場合であれば、薬物動態で重要となる「吸収」の過程を飛ばすことができる。
・分布
たとえ薬が吸収されて体内に入ったとしても、その薬が適切に効果を表すかどうかは分からない。薬が体内に入った後、その薬が目的とする臓器に到達して作用する必要があるためである。
例えば、うつ病は脳内の神経伝達物質に異常が起こっている。そのため、うつ病を改善する抗うつ薬は脳に作用する必要がある。
しかし、全ての薬が脳に作用するとは限らない。血液脳関門などの関係で薬が脳内に到達していない事も考えられる。そのため、薬が吸収されただけでは不十分であり、薬が作用するためには必要な臓器に到達させる必要がある。抗うつ薬の場合、脳に分布させなければ意味がない。
他にも、心臓病の薬は心臓に到達することでようやく薬としての作用を発揮することができる。この薬が腎臓や肺に分布しても、心臓病を治療することはできない。
このように、標的とする臓器にきちんと薬が分布しなければいけない。薬が体内に入った後、どのような組織に移行するかを考える過程が「分布」である。
・代謝
薬は体内にとって異物である。そのため、これらの薬は効力をなくすために代謝を受ける。薬としての作用を表す言葉として「活性」という単語がある。代謝ではこの薬の活性をなくすので、「薬物の不活性化を行う」と表現する。
薬物の代謝は主に酵素によって行われる。この時に重要となる酵素としてシトクロムP450(CYP450)がある。なぜこの酵素が重要であるかと言うと、薬物代謝に関わる物質のうちシトクロムP450が全体の約9割を占めているからである。
シトクロムP450はほとんどの薬物代謝に関わっている酵素であるため、必然的に薬物動態を考える上で重要な酵素になる。 そして、このシトクロムP450は肝臓に存在している。つまり、代謝を考える上で基本的には「肝臓」と「シトクロムP450」の役割を理解できれば問題ないことが分かる。
・排泄
酵素などが作用することによって薬の構造を変化させる過程が代謝である。それに対し、薬物を体の外に出す過程を排泄と呼ぶ。この排泄過程には主に腎臓が関与しているため、腎臓の機能を学ぶことで「排泄」を理解することができる。
腎臓は尿を作ることで老廃物を体外へと排出する。これと同じように、体内に入った薬物も尿と共に排泄される。そのため、腎臓が尿を作り出す過程を理解することで、薬物の排泄過程を学ぶことができる。
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