薬価(薬の値段)が高くなる理由
なぜ薬価が高くなるのか
薬の中には、異常に値段の高い薬が存在します。白血病治療薬グリベックが有名であり、薬代が一日だけで一万円以上します。 普通に考えて、一日の薬代が一万円を越すのは常識はずれのように思えます。それでは、どのようにして値段が決められるのか簡単に学んでいきます。
通常、商品の値段は企業が好きなように決めることができます。しかし、日本の場合は製薬企業が自由に薬の値段をつけることができません。政府が薬の値段を決定しますが、この時に「新規性があるか」また「類似薬の値段はどれくらいか」などを考慮して薬価(薬の値段)を決めます。
この中でも、「市場規模」が特に薬の値段に影響を与えます。もっと分かりやすくいえば、患者数が少ない病気であるほど値段が高くなります。
日本では患者数が5万人未満の病気を希少疾病と呼び、「患者数が少ない病気」と判断されます。この希少疾病に対する薬をオーファンドラッグと呼びます。
新薬開発とオーファンドラッグ
オーファンドラッグは対象患者数が少ないために開発リスクが高く、利益の確保が難しい薬です。そのため、社会的必要性が高い場合であって積極的には開発されません。オーファンドラッグであるとドラッグラグも起こりやすくなります。
これを回避するため、オーファンドラッグを開発する場合は研究開発の助成金交付、税制上の優遇、優先的な審査などを受けることができます。そして、オーファンドラッグはどの国でも高い薬価がつきやすくなります。
グリベックに関していえば、2010年に国内だけで売上が400億円を超えるなどと好調です。新規患者が年に約1200人しか現れませんが、グリベックによって生存期間が飛躍的に伸びたことが大きな売上に繋がっています。
それまで数年で亡くなるしかなかった人がより長く症状を安定させることが可能になったため、これからも患者数が伸び続けることになります。一生飲み続ける薬であることもあり、売上は上昇していくしかありません。
分子標的薬によって儲かる分野にかわった希少疾病
儲かる薬には「一生飲み続ける薬」という条件があります。当たり前ですが、病気が治ってしまえば、薬を飲んでくれなくなります。そのため、完全には病気を治療できないが、「薬を服用し続けている間は症状を抑えてくれる」という性質をもつ医薬品が最も儲かります。
これが、糖尿病や高血圧の治療薬が売上上位にくる理由の一つです。
そのような意味では、慢性骨髄性白血病の寿命を劇的に伸ばすことに成功し、患者数を増やしつつも一生服用しなければいけないグリベックは大きな成功をあげた薬になります。薬価が非常に高いこともあり、オーファンドラッグであるにも関わらず莫大な利益を出すことを可能にしました。
抗がん剤といえば、従来はあまり積極的に医薬品開発が行われない分野でした。しかし、グリベックをはじめとする分子標的薬が注目されるようになり、抗がん剤に対しても積極的に開発が行われるようになっています。
分子標的薬は値段が高いという共通点があります。また、治療効果が高いために、病気によっては大幅に延命させることも可能になっています。そのため、大きな利益を出すことができます。
イレッサ訴訟などの薬害事件で問題となったイレッサも同じように分子標的薬であり、一年間に国内で100億円以上の売上があります。
それでは薬価を下げればこれらの問題が解決するのかというと、必ずしもそうではありません。
前述の通り、オーファンドラッグの開発は製薬企業にとって大きなリスクとなります。発病原因が分かっておらず、創薬手法が確立されていない場合がほとんどです。患者数が少ないため、臨床試験を行うために十分な患者数を集めることも難しいです。
オーファンドラッグはただでさえ利益の確保が難しいため、下手に薬価を下げるとオーファンドラッグの開発から製薬企業が手を引いてしまうことになります。その結果、本当に新薬を必要とする人に薬が届けられなくなります。そのため、安易に薬価を引き下げてしまうことも問題です。
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