薬と副作用:なぜ医薬品によって副作用が起こるのか
この世に副作用の無い薬は存在しません。薬は私たちの体に何かしらの作用を行います。そのため、「副作用がない」ということは「薬としての効果もない」ということを意味します。
薬の副作用が起こる機序としては、主に次のようなものがあります。
① 薬に対する過敏症
② 薬の適正量を超えて、薬を使用した場合
③ 本来とは異なる場所に薬が作用する
④ 薬物や食品との相互作用
以下に、それぞれの機序について詳しく確認していきたいと思います。
薬に対する過敏症
薬の量が正常であったとしても、その薬に対して体が過敏な状態であると健康被害が起きてしまいます。そのため、わずかな量で有害事象が発生してしまいます。
薬の適正量を超えて、薬を使用した場合
薬には適切な服用量があります。この適切な量はたとえ同一人物であっても、年齢や体重の変化に伴って変化していきます。適正量を超えて薬を使用した場合、副作用が表れます。
薬としての「有益な効果が表れる有効域」と「副作用が表れる毒性域」を模式図化すると、下図のようになります。
血液中の薬の濃度が低すぎる場合、薬としての効果が表れません。しかしながら、投与量を多くしすぎてしまうと副作用が表れてしまいます。
このように薬の血液中の濃度が無効域より高く、毒性域より低い水準で推移させる必要があります。
・有効域と毒性域が狭い薬物
有効域と毒性域が広い薬であれば良いのですが、有効域と毒性域が極端に狭い薬も存在します。抗がん剤がその代表であり、感染症に対抗する抗菌薬にもこのような薬が存在します。
昔から使われている抗血液凝固薬(血液をサラサラにして、固まりにくくする薬)としてワルファリンがありますが、ワルファリンも有効域と毒性域が狭い薬の一つです。
ワルファリンは血液が固まるのを防ぎますが、血液が固まりにくいということは「出血が起きた時に血が止まらない」ということを意味しています。そのため、ワルファリンの重大な副作用として出血があります。
出血と一言で言っても、脳内出血などの重篤な症状から臓器内出血、粘膜出血などさまざまです。
そのため、ワルファリンを使用する場合は「薬の効果が適切な域で留まっているかどうか」を定期的に試験する必要があります。
本来とは異なる場所に薬が作用する
薬は血液によって全身を巡るため、目的とする臓器以外にもさまざまな場所に分布します。そのため、本来とは異なる場所に薬が作用することがあります。
例として、初期に開発された抗うつ薬を挙げようと思います。抗うつ薬は脳に作用することで神経伝達物質を是正します。脳だけに作用すれば良いのですが、抗うつ薬の中には副作用として「口に作用することによる口渇」や「腸に影響を与えることによる便秘」などがあります。
今回は初期の抗うつ薬を挙げましたが、現在ではこのような副作用が表れにくい抗うつ薬が開発されています。
薬物や食品との相互作用
かぜで医療機関を受診したとしても、「熱を下げる薬」や「痰を切る薬」、「咳を鎮める薬」など症状に合わせて何種類かの薬が処方されます。薬が一種類しか処方されないということはまれであり、一度に複数の薬を服用することが多いです。そのため、薬同士での影響を考慮する必要があります。
薬は主に肝臓によって代謝されます。代謝酵素にはいくつか種類がありますが、異なる薬が同じ代謝酵素によって代謝されることがあります。
この場合、薬同士で代謝酵素の取り合いを行ってしまうため、どうしても薬の代謝が通常よりも遅れてしまいます。酵素は二つの薬を同時に代謝する必要が出てくるからです。これにより、血液中の薬物濃度の上昇によって副作用が強くでてしまいます。
また、薬の作用が弱くなってしまうこともあります。例えば、喫煙をすると肝臓の特定の酵素が増えることが知られています。
実際、喫煙患者では喘息治療薬であるテオフィリンの効果が弱くなることが知られています。これは、喫煙によってテオフィリンを分解・代謝する酵素が増えたためです。
薬と薬との相互作用だけでなく、食品と薬との相互作用も考慮する必要があります。この代表的なものとしては納豆とワルファリン(抗血液凝固薬)があります。
ワルファリンはビタミンKを阻害することで薬としての効果を発揮します。そのため、納豆などビタミンKを多く含む食品を食べた場合、ワルファリンの作用が弱まってしまいます。これは、ビタミンKが過剰になっているためです。
血液凝固に関わるビタミンKだけでなく、納豆に含まれるビタミンKにまで作用してしまうのです。
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