医療費の助成が難しい理由
何でも助成をすれば良いのか
医療費が高額になってしまう病気として、白血病や関節リウマチが知られています。もっと言えば、薬の値段が異常に高額であるため、経済的な理由によって服用を止めてしまう方が後を絶ちません。
怠惰な生活によって糖尿病や高血圧を発症したのであれば、厳しい言い方をすればその人自体に甘さがあります。しかし、白血病や関節リウマチは日々の生活が不衛生だから発症したのではありません。注意すれば防ぐことのできる病気でもないため、患者さん自体に責任はありません。
それでは、不運にもこれらの難病を発症してしまった人達に対して全て医療費助成をすれば良いかというと、話はそこまで単純ではありません。特定疾病として透析が必要な腎臓病やエイズ、血友病など、自己負担の限度額が月一万円に設定されている病気は存在しますが、全ての病気にこの制度を適応するのは難しいです。
ジェネリック医薬品の推進など政府が必死に医療費削減を行っているように、日本の医療費は膨れ上がっています。そのため、むやみに医療費を増大させるわけにはいかないという本音があります。
高額療養費に関していえば、2010年には支給額が約2兆円にものぼっています。10年前に比べて2倍以上に増えており、あらゆる対策を施しても医療費が伸び続けているのが現状です。ここでさらなる助成を認めてしまえば医療費がさらに増大してしまいます。
そして、一度でも認めてしまえば「やはり医療費の助成を止めます」と後戻りすることが難しくなります。
そうはいっても、特定疾病に指定されている人工透析で考えると、患者数は2011年に30万人を超えて国家負担は1兆円を軽く凌ぎます。この額に比べると、グリベック(白血病の治療薬であり、一日の薬代が一万円を超える)を使用している患者さんの負担は無理ではないといわれることもあります。
医療保険制度の仕組み
日本の医療保険制度は世界的にも優れており、最も権威があるといわれている雑誌でも特集が組まれるほど国際的に評価されています。
保険はリスクに備えるために存在しますが、医療保険は病気や怪我などのリスクに対する仕組みです。事故に遭遇したり難病を発症したりと、いつ不幸が起こるか分かりません。ただ、実際に不幸が起こった時の医療費は膨大になるため、一人でお金を用意して支払うのは困難です。
そこで保険として全員でお金を出し合うことにより、予め貯めておきます。そして、もし保険者の誰かに不幸が起こったとき、貯めていたお金を使って助け合うシステムが保険です。
日本では国民全員が医療保険に加入することが義務付けられており、これを国民皆保険制度と呼びます。これによって全ての国民が平等に医療にアクセスでき、日本全国どの医療機関を受診しても同じ治療費で済みます。
これだけの制度であるにも関わらず、海外に比べると日本の医療費は比較的低い水準に抑えられています。高齢化が進んでいる日本ですが2008年の医療費はGDPの8.5%であり、OECD諸国では20位という低い水準です。
国民全員が3割負担という安い金額によって高度な医療を受けられる背景には、世界的に誇ることができる医療保険制度があるのです。ただし、このような制度でも万能ではありません。先に述べてきた通り、新薬開発で病気が治るようになったとしても、お金という面で新たな問題を生み出すこともあるのです。
この状況を改善するための例として、「費用対効果」という考え方があります。医療財源は限られているため、医療費を必要なところに対して重点的に使っていくという考え方です。
費用対効果の考え方
例えば、風邪薬や湿布薬などの緊急性の低い薬は全額自己負担となり、がんや難病など優先度が高い病気は自己負担額を抑えるようにします。薬の値段を考慮して、本当にその値段に見合うだけの効果が得られるのか評価するのです。
日本でもようやく費用対効果の議論が始まっていますが、ドイツやフランス、カナダ、オーストラリアなどでは既に費用対効果の考えが導入されています。韓国やタイなどのアジアにも広がっています。
ただし、英国では費用対効果の導入に力を入れるあまり、抗がん剤や認知症治療薬の新薬が給付対象から除外されたことがあります。薬の効果に対して値段が高すぎると判断されたのです。これによって薬を使えなくなる患者さんがたくさん出現し、訴訟にまで発展したという事例があります。
医療の費用対効果という考え方にはこのような問題がありますし、日本と海外では医療制度の状況が異なります。医療へのアクセスを抑制することになるため、病気を悪化させやすい環境になってしまう恐れもあります。
そのために課題は多いですが、医療費の削減という目的だけではなく、限られた医療費の有効利用という観点で費用対効果という考えも有効です。
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