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役に立つ薬の情報~専門薬学

治療法が激変した関節リウマチ

 

 関節リウマチと高額医療
高額医療で問題となる分野としては関節リウマチも有名です。関節リウマチでもグリベックと同じように、特定の分子だけを狙い撃ちする分子標的薬が使用されます。ただし、グリベックのような低分子化合物ではなく、関節リウマチでは生物学的製剤と呼ばれるバイオ医薬品が主となります。

 

そこで、関節リウマチではどのような問題が起こっているのか確認していきます。

 

そもそも関節リウマチはどのような病気かというと、手や足の関節に炎症が起こり、激しい痛みや関節の変形などによって運動機能が落ちてしまう病気です。関節破壊だけでなく心臓や肺、皮膚など全身に症状が及ぶ場合もあるため、適切な治療を行わなければさまざまな病気を合併してしまいます。

 

主に30~50代で発症し、男性よりも女性の方が3~4倍も患者数が多いとされています。関節リウマチが起こる詳しい原因は不明ですが、免疫の異常によって起こると考えられています。

 

私たちの体に備わっている免疫系は細菌感染から身を守るために重要な役割を果たしています。適切に免疫が働いている場合は問題ありませんが、人によっては免疫系が暴走してしまうことがあります。具体的には、本来は無害であるものを敵と認識して攻撃をはじめるようになります。

 

花粉症がこの例であり、通常スギ花粉は私たちにとって無害です。しかし、免疫が花粉を異物として認識すると、花粉を排除するためにくしゃみや鼻水が出るようになり、涙によって花粉を洗い流そうとします。

 

そして、人によっては免疫が自分自身を攻撃してしまうことがあります。関節リウマチがこの状態であり、関節の中でも滑膜と呼ばれる部位を免疫系が攻撃しはじめます。これによって炎症が起こり、この炎症が関節全体に広がることで関節破壊が進行していきます。

 

このように、体内の免疫が自分自身の組織を攻撃してしまう病気を自己免疫疾患と呼びます。

 

 抗リウマチ薬の考え方
免疫の過剰反応によって関節リウマチなどの自己免疫疾患を発症するため、これらの症状を鎮めるためには免疫の働きを抑える必要があります。

 

関節リウマチの治療には抗リウマチ薬が使用されますが、抗リウマチ薬は免疫細胞の働きを抑えることによって関節リウマチを治療します。鎮痛剤ではその場凌ぎで痛みを抑えることはできますが、関節破壊まで止めることはできません。そのために関節リウマチの治療では抗リウマチ薬が重要になります。

 

ただし、抗リウマチ薬は効果が表れるまでに時間がかかり、1~3ヶ月の期間が必要になります。同じ薬であっても、人によって効果が表れる人とそうでない人がいますし、それまで効果を表していた薬が急に効かなくなることもあります(エスケープ現象)。

 

そのような中、抗体を用いた医薬品である生物学的製剤が関節リウマチの治療に用いられるようになりました。

 

炎症が起こるためには、「炎症を引き起こすシグナル」が大きく関わっています。この炎症の引き金になるシグナルの働きを抑えることができれば、関節などで起こっている炎症を鎮めることができます。

 

生物学的製剤では、まさにこの「炎症を引き起こすシグナル」だけを認識し、その働きを阻害するように設計されています。その結果、炎症をストップさせることができます。

 

特定の分子を狙い撃ちして阻害するため、生物学的製剤は分子標的薬に分類されます。その効果は劇的であり、早い方では薬を使用した日の夜から関節痛がおさまることを自覚することもあります。中には関節リウマチの症状がなくなるまでに回復する人も出現するようになりました。

 

このように関節リウマチの治療に革命を起こした生物学的製剤ですが、経済的な負担が大きい薬でもあります。

 

 高額な関節リウマチ治療薬
生物学的製剤など、バイオ医薬品の特徴としては例外なく高額であることが挙げられます。例えば、国内初の関節リウマチに対する生物学的製剤としてレミケード(一般名:インフリキシマブ)があります。

 

この薬が発売された当初の値段は1本だけで11万円以上であり、1回の治療に2本必要となるために薬代だけで22万円を超える治療費が必要でした。3割負担であってもかなりの額になります。

 

会員数約2万人のリウマチ友の会が発表したリウマチ白書や学会での報告によると、2010年での生物学的製剤を利用している人は29.1%にのぼり、5年前の4.5%に比べて大幅に増えていることが分かります。

 

3分の1程度の方が生物学的製剤を使用しており、それに伴って「1年前と比べてリウマチの症状が消えた方」は倍増し、関節リウマチの症状が良くなった方が増えています。

 

一方、一ヶ月の医療費負担が3万円以上である方も倍以上に増加しています。そのために36%の方は「負担が大きく、生活を切り詰めて治療を受けている」という報告もあり、経済的な不安も大きいことが分かります。

 

生物学的製剤を利用していた方が薬の使用を中止した理由の大半は副作用によるものですが、経済的理由による中止も11.0%ありました。このように、たとえ有効な薬があっても金銭面で使用できない方がたくさんいます。

 

なお、生物学的製剤は関節リウマチに対して高い効果を有していることもあり、生物学的製剤の売上は好調です。先に紹介したレミケードでは、国内だけで2012年の売上が800億円を超えています。

 

世界ではいくつもの生物学的製剤が売上の上位に食い込んでいることから、高い薬価にも支えられて多くの利益を生み出す薬に成長しています。

 

そのために「これまで注目されていなかった分野の医薬品開発が積極的になった」という意味では大きな意味がありますが、金銭的負担という面では新たな問題も生み出しました。

 

なお、今回は関節リウマチを例として挙げましたが、難病と呼ばれている人達は同じように経済的な問題を抱えている人が多いです。

 

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