生態系:薬剤と環境ホルモン
薬剤散布
薬剤を散布すると、どんな現象が起こるでしょうか。ただ森から動物の姿が消え、川には死んだ魚が浮いている……、というだけではありません。薬剤散布によってある特定の虫が大量発生する可能性があります。
農業を営んでいる人が害虫を駆除したいと思います。その最初の選択肢として「殺虫剤を撒くこと」を考えると思います。しかし、この薬剤による効果は最初だけであり、その後は薬剤を散布した分だけ害虫が発生し、生産量が落ちたという報告が実際にあります。
この理由は、ただその害虫が薬剤(農薬)に対して抵抗性があったというだけではありません。
薬剤を散布すると、害虫以外のほかの昆虫まで殺してしまいます。そして、薬剤によって多く殺された昆虫が「害虫の天敵」であったらどうでしょうか。
害虫だけを駆除できれば理想的ですが、無差別に攻撃する薬剤を選んだとすれば、害虫をコントロールする捕食者まで駆除されてしまいます。すると、害虫には天敵がいなくなってしまいます。その結果、害虫の大量発生を招きます。
これらの害虫は天敵を心配する必要がありません。そのため、害虫は子孫を残すことだけにエネルギーを費やせばいいのです。これも薬剤を散布することで、結果として害虫の大量発生を招く原因の一つとなります。
これらの薬剤を使用し続けると、最終的に害虫は耐性を獲得しまうこともあります。耐性を獲得するのはウイルスや細菌だけではありません。
ここまでになると、薬剤を散布しても害虫はほとんど死ぬことはないが、その天敵だけはよく効果があらわれるという状況になってしまいます。このように、薬剤が生態系にまで影響することがあるのです。
子供への影響
昔は胎盤によって有害な化学物質は胎児まで影響しないというのが常識でした。しかし、この常識は「水俣病」や「サリドマイド事件」を考えれば間違いだと容易に理解できます。
胎盤を通り抜けた薬物がおなかの中に子供に悪い影響を及ぼしたとします。すると、その子供にはさまざまな異常が見られるようになります。
また気をつけないといけないのは、これらの影響は母乳からの害も考えられることです。DDTやPCB、ダイオキシンなどの環境汚染物質は脂肪に溶けやすく、長い間体外に排出されずに残ってしまうことがあります。
母乳は脂肪などの栄養が濃縮されています。つまり母乳から薬剤が子供に伝わってしまうわけです。
妊婦が汚染された食物を食べたとすれば、すぐに胎盤や母乳を通して子供に影響します。
胎児期の子供はとても化学物質に対して敏感です。そのため、大人ではまったく問題とならない量の化学物質でも、胎児期の子供には重大な障害をもたらすことがあります。
ヒトに影響を及ぼした薬害として「DES」があります。DESにはホルモンとしての作用があり、女性ホルモンと同じ働きをしました。さらに悪いことに、このDESは流産を防止するだけでなく、「快適に妊娠期を過ごす薬」として広く使用されました。このため多くの人々が薬害の被害を受けることになりました。
具体的なDESを使用しての薬害には、生殖器の奇形や10代など早い時期からのがんの発生があります。
これら胎児への影響はホルモンに限りません。つまり全ての有害物質が少量でも妊婦期に体のなかに入ることは、胎児にとってとても危険なのです。
なお、日本を含む先進諸国では、DDTなどの残留性化合物に生活の中で接することはほとんどなくなりました。
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