体の中での薬の動き:薬物動態(代謝・排泄)
代謝
私たちの体には毒物を解毒する機能が備わっています。自然界の食物には様々な化学物質が含まれており、その化学物質の中には有害物質も含まれています。これら有害物質を無効化するために解毒機能があり、同じように薬も代謝されることで薬としての機能を失っていきます。
薬は主に肝臓で代謝されます。肝臓は異物を無毒化するための代謝酵素をいくつも保有しており、自然界には存在しない化学物質であっても分解する作用をもっています。
口から飲む経口薬を一回だけ服用した場合、血液中の薬の濃度は下の左図のように推移します。 薬の濃度が下がっていくのは、薬物の代謝・排泄が行われたためです。
ここで、複数回に分けて薬を服用すれば上の右図のような血液濃度推移となります。
・素早く代謝・排泄される場合
薬が代謝・排泄される速度が速い場合、薬の効果も素早く消失してしまうことになります。そのため、薬の効果を持続させるためには何回も薬を服用する必要があります。つまり、その分だけ患者さんの負担が増えます。
服用が煩雑でない薬であれば大きな負担とはならないかもしれませんが、注射薬や特殊な薬であれば負担が大きくなります。
その代わりすぐに薬が体から消失するため、副作用が起こった場合は有害な影響を最小限に抑えることができます。
・代謝・排泄される速度が遅い場合
代謝・排泄される速度が遅い薬であれば、薬を投与する回数が少なくて済みます。そのため、服用のしやすさが大幅に向上します。
ただし、この場合は副作用が発生した時に問題となります。有害事象が起こって薬を止めたとしても、代謝・排泄速度が遅いので薬の作用が長い間続くことになります。
そのため、副作用から回復するためには何日もの時間が必要となります。
排泄
薬物は最終的に体の外へ排泄されます。この排泄機構としては、主に「糞中排泄」と「尿中排泄」があります。つまり、「便と一緒に排泄されるか」と「尿と一緒に排泄されるか」の二つです。麻酔薬など薬物が気体の場合、肺から排泄されることもあります。
糞中から排泄される場合、肝臓の影響を受けます。つまり、糞中から排泄されるということは、肝臓によって薬の代謝や消化管への排泄(胆汁排泄)が行われているということを意味します。このように、薬の排泄には肝臓が大きく関わっています。
それと同じように、薬の排泄には腎臓も大きく関わっています。薬物排泄のメカニズムとして「尿と一緒に排泄される」という機構を紹介しましたが、尿は腎臓で作られています。
腎臓は「肝臓によって薬が代謝された物質」と「肝臓で代謝されていない未変化体の薬」の両方とも尿として体外へ排泄します。
このように、薬物の排泄には「肝臓」と「腎臓」の二つが大きく関わっていることを認識していただければと思います。薬によって「主に肝臓によって排泄される薬」があれば、「主に腎臓によって排泄される薬」とさまざまな機構が存在します。
・肝臓、腎臓の機能が弱っている人の場合
薬の副作用を考える場合、肝臓や腎臓が弱っている人は特に注意する必要があります。なぜなら薬の血液中の濃度が高まり、副作用が強く出てしまう恐れがあるためです。
前述の通り、薬は肝臓・腎臓によって代謝・排泄されます。この二つの臓器の機能が弱い場合、薬の代謝・排泄が通常の人よりも遅いことが考えられます。
そのため、通常の人と同じ薬物量を投与してしまうと、薬の作用が強く出すぎてしまいます。
肝硬変や腎機能障害などの疾患を患っているために肝臓・腎臓の機能が弱っている患者さんでは、「薬の投与量を減らす」などの対策を行う必要があります。
このように、ただ薬を投与すると言っても、患者さんに合わせて考えなければいけないことはたくさんあります。
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