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役に立つ薬の情報~専門薬学

体の中での薬の動き:薬物動態(吸収・分布)

 

薬を服用した時、その薬が「体の中でどのような動きをするか」、「どのように分布し、代謝されていくか」などを知る学問に薬物動態学(やくぶつどうたいがく)と呼ばれる学問があります。薬を知る上で、体の中での薬の動きを知ることはとても重要です。

 

薬を口から飲んだ時、主に以下のような過程をたどります。

 

 薬物動態の流れ

 

それでは、それぞれの要素に分けて説明していこうと思います。

 

 吸収
私たちは栄養を食物から摂取します。この食物はさまざまな消化液によって分解され、栄養分として腸から吸収されます。吸収された栄養は血液中に入り、全身を巡ることで栄養を必要な場所へ届けます。

 

薬も同じであり、口から飲んだ薬が作用するためには腸管から吸収されて血液中にのる必要があります。つまり、基本的には腸から吸収されなければ薬としての効果を発揮することができません。

 

腸から吸収される必要があるため、薬を口から服用したとしても全ての薬が吸収されるとは限りません。それどころか、腸からの吸収率が100%の薬はほとんどありません。

 

なお、口から服用する内服薬の多くは腸からの吸収が問題となりますが、必ずしも薬は口から飲むとは限りません。この例としては、注射薬があります。注射薬は直接体内に入れるため、投与した全ての薬が体の中に入ることになります。

 

お尻から挿入する坐剤であれば、直腸からの吸収を考慮します。同じように舌の下に入れて溶けるのを待つ舌下錠であれば、腸管からの吸収を考える必要はありません。

 

 腸から吸収される必要のない薬

 

また、そもそも腸から吸収される必要の無い薬も存在します。例えば、「便秘を改善する薬」や「腸機能を整える整腸薬」が該当します。

 

腸管にある便そのものに作用する便秘改善薬や腸内細菌を正常状態に戻す整腸薬であれば、むしろ腸から吸収される方が不都合となります。

 

 ・特殊な服用方法の薬
薬によっては特殊な服用方法をするものがあります。これは、薬の服用する条件によって腸からの薬の吸収が異なってしまうためです。  例えば、起床直後に服用する薬があります。これは、食物やジュースなど水以外のものと一緒に服用すると腸からの吸収が極端に落ちてしまうためです。このように、薬によっては食事と一緒に飲んではいけない医薬品も存在します。

 

 分布
腸管から吸収された薬は血管内へ移動し、全身を巡ります。全身を巡った薬剤はそれぞれの臓器に到達し、疾患部位を治療します。そのため、薬は体内へ吸収されるだけではなく、標的とする部位へたどり着く必要があります。

 

例えば、心臓病の薬であれば心臓に到達して作用する必要があります。骨粗しょう症の薬であれば、骨に作用しなければいけません。

 

そのため、思いもよらない臓器に作用することで、画期的な新薬が生まれることもあります。ED治療薬シルデナフィルがこの例であり、シルデナフィルはもともと狭心症の治療薬として開発されました。しかし、シルデナフィルの狭心症の改善作用は乏しかったのです。

 

しかしながら、シルデナフィルの狭心症改善作用が弱かった代わりとして、臨床試験を通してED改善作用が確認されました。

 

つまり、心臓に分布することによる狭心症の作用は弱かったけれども、陰茎に分布することによるED改善作用をもっていたのです。このように、どの臓器に分布するかによって薬としての効果が大きく異なることもあります。

 

なお脳に作用する薬であれば、この「薬の分布」を特に考慮する必要があります。

 

 ・脳のバリアー機構
脳は人間にとって最も重要な器官の一つです。神経細胞が密に連なる集合体として脳は存在し、全ての指令は脳から発せられます。脳を守るための保護機能として思い浮かぶものに「頭蓋骨」がありますが、これ以外にも脳には保護機構が存在します。

 

腸から吸収されるものとしては、栄養素以外に「毒素などの有害物質」があります。薬も人間にとっては異物であり、本来は体内に存在しない物質です。そのため、脳はこれら異物の影響を出来るだけ受けにくいように設計されています。

 

具体的には、「全身を巡る血液」と「脳を満たしている液」の間には物理的なバリアー機能があります。このバリアーによって異物が脳の中へ入るのを防いでいます。このバリアー機能を血液脳関門(BBB)といいます。

 

 血液脳関門(BBB)

 

そのため、「眠気を起こす睡眠導入剤」や「脳内の神経伝達物質を是正する抗うつ薬」など、脳に作用する薬は血液脳関門を通過するように設計する必要があります。

 

 ・ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)
薬学分野に中に「薬物を適切な量、適切な時間で適切な場所に届ける」という技術が存在します。この技術をドラッグ・デリバリー・システム(DDS)といいます。

 

そして、このドラッグ・デリバリー・システムの技術の一つとして「標的とする臓器へピンポイントで薬物を届ける」という技術が存在します。

 

目的とする標的にのみ薬を届けるため、薬の効果を最大限に発揮させることができます。また、他の臓器に作用しないため、薬の副作用を軽減することもできます。

 

腸から吸収された薬は全身を回るため、目的とする標的に達して作用する薬はごく微量です。そのため、標的臓器に作用する薬物量を考慮して全体の投与量が決まります。ドラッグ・デリバリー・システムを活用すれば、薬剤を「必要な時」、「必要な量」、「必要な場所」に届けることができます。

 

そして、このドラッグ・デリバリー・システムが活用されている例として抗がん剤があります。抗がん剤は通常の細胞にまで作用するため副作用が表れます。そこで、がん細胞にのみ薬が作用するように設計します。

 

がん細胞は急速に増殖します。通常の細胞より増殖速度が速いため、がん細胞は形が不規則で不完全なまま成長します。そのため、がん細胞の膜には通常の細胞にはない小さな穴があります。

 

 ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)

 

そこで、薬物を粒子で包んでしまいます。粒子で包まなければ、薬は通常の細胞にまで作用します。粒子で包んでしまえば、全体のサイズが大きくなるため通常の細胞は通り抜けません。

 

しかしながら、がん細胞には前述の通り小さな穴があいているため、薬を粒子で包んだとしてもがん細胞の膜を通り抜けることができます。この考えにより、がん細胞にのみ薬を届けることが可能になります。

 

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