ニューキノロン系抗菌薬の性質と特徴
抗菌薬の中でも、ニューキノロン系薬は多用される抗菌薬の一つです。まず、薬を投与したときに、効率よく腸から吸収されて血液中へと移行します。専門用語では、これを「体内動態が良い(薬物動態が良い)」と表現します。
投与した薬のうち、どれだけ薬物が血液中に入ったかを示す指標として、生物学的利用率があります。ザックリと考えれば、「薬の吸収率」だと考えてください。
例えば、セフェム系抗生物質であると吸収率が低く、薬を投与してもあまり腸から吸収されません。一方、ニューキノロン系抗菌薬の吸収率は90~95%にもなります。これだけ効率よく吸収されるため、腸の状態が正常であると、静脈注射でも経口投与でも薬の効果は変わらないとされています。
また、ニューキノロン系抗菌薬は肺や尿道、呼吸器、胆道、前立腺など、組織への移行性が優れています。抗菌薬が効果を発揮するためには、標的とする組織に移行しなければいけません。いくら殺菌作用が優れていたとしても意味がないのです。例えば肺炎を患っているとき、肺への移行性が悪い抗菌薬では病気を治療できません。
さらに、ニューキノロン系抗菌薬は多くの細菌をカバーします。つまり、1剤でさまざまな細菌を殺す作用が知られています。これを、「スペクトルが広い(広域スペクトルの抗菌薬)」と表現します。
このようなニューキノロン系抗菌薬としては、シプロフロキサシン(商品名:シプロキサン)、レボフロキサシン(商品名:クラビット)、モキシフロキサシン(商品名:アベロックス、ベガモックス)、シタフロキサシン(商品名:グレースビット)などがあります。
・広域抗菌薬の使い回し
このように、「体内動態に優れている」「組織移行性が良い」「広域スペクトルである」という性質から、かなり使い勝手の良い抗菌薬です。そのため、ニューキノロン系抗菌薬は乱用されがちな抗菌薬であるともいえます。
抗菌薬の中には、他にもスペクトルの広い抗菌薬が存在します。例えば、マクロライド系抗生物質やセフェム系抗生物質などです。
本来、感染症では病気を引き起こしている細菌を特定したうえで、狭いスペクトルの抗菌薬(狭域抗菌薬)を活用することで治療しなければいけません。抗菌薬の効かない「耐性菌」の出現を抑え、治療効果を最大化しながら副作用を軽減できるからです。
ただ、実際は症状の改善が見られなかったときにニューキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗生物質、セフェム系抗生物質を使いまわしていることが頻繁にあります。これであれば、細菌を特定せず頭を使わなくても治療が可能です。ただ、本来の治療とはかけ離れた間違った使い方であることを認識しなければいけません。
抗菌薬のカバーと使用疾患
多くの細菌をカバーするとはいっても、もちろん特徴があります。ニューキノロン系抗菌薬の特徴としては、「好気性のグラム陰性菌に優れた効果を有する」ことがあります。抗菌薬が効きにくい緑膿菌(グラム陰性桿菌)にも作用します。
なお、初期のニューキノロン系抗菌薬である「シプロフロキサシン」と開発が進んだ「レボフロキサシン」を比べると、肺炎球菌に対するカバーが増えています。このように肺炎球菌へ使用できる、レボフロキサシン以降に開発されたニューキノロン系抗菌薬を特にレスピラトリーキノロンといいます。
これらニューキノロン系抗菌薬としては、以下の疾患に用いられます。
・市中肺炎(日常生活で患った肺炎)
・尿路感染症
・消化管感染症
・前立腺炎
・性行為感染症(淋菌、クラミジアなど)
・皮膚、軟部組織(筋肉や血管など)の感染症
・骨髄炎、関節炎
レスピラトリーキノロンでは気管支炎や副鼻腔炎にも活用されます。
なお、シプロフロキサシンはクラミジアによる感染症に使用できないなど、抗菌薬ごとに微妙な違いがあるため、これは個々に把握しておかなければいけません。
投与方法と相互作用
濃度依存性抗菌薬がニューキノロン系抗菌薬です。つまり、薬物の血中濃度を高くするほど、抗菌作用が強まります。また、PAEが長いという性質をもち、これは血中濃度が下がってもすぐに細菌が増殖を再開するわけではないことを意味します。そのため、血中濃度が下がっても慌てて追加投与する必要はありません。
このような性質をもつため、ニューキノロン系抗菌薬は1日1回の大量投与によって感染症を治療します。高い血中濃度を得ることで抗菌作用を最大化させ、あとは薬の服用を控えることで副作用を軽減するのです。
ただ、併用薬には注意しなければいけません。ニューキノロン系抗菌薬と金属製剤を併用すると、両者がくっつくことで腸から吸収されなくなります。専門用語では、これを「キレートを形成する」といいます。
金属製剤の医薬品は意外と多く、アルミニウムやマグネシウム、鉄、カルシウム、亜鉛などがあります。マグネシウム製剤は便秘の治療薬として多用されますし、鉄製剤は貧血の治療薬、カルシウム製剤は骨粗しょう症の薬として用いられます。特にマグネシウム製剤とニューキノロン系抗菌薬はうっかり併用してしまいがちな組み合わせだといえます。
また、交叉耐性(こうさたいせい)にも注意が必要です。ニューキノロン系抗菌薬では、一つの抗菌薬に対して細菌が耐性をもつと、他のニューキノロン系抗菌薬にも耐性をもつようになります。
例えば、シプロフロキサシンに耐性をもってしまうと、レボフロキサシンにも同時に耐性を獲得してしまいます。だからこそ、ニューキノロン系抗菌薬の乱用は避けなければいけません。
作用機序と副作用
細菌が増殖するためには、DNAの合成が不可欠です。DNAにはすべての生命情報が刻まれている遺伝情報だからです。そこで、ニューキノロン系抗菌薬は細菌のDNA合成を阻害します。これにより、細菌を死滅させることができます。細菌を殺すため、ニューキノロン系抗菌薬は殺菌性抗菌薬に分類されます。
ヒトと細菌のDNA合成を比べたとき、「DNAを合成する酵素」に違いがあります。そこで、細菌に特徴的なDNA合成酵素を阻害すれば、細菌だけに毒性を与えることができます。
ニューキノロン系抗菌薬は、グラム陰性菌ではDNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ)を阻害し、グラム陽性菌ではトポイソメラーゼⅣを阻害します。DNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ)やトポイソメラーゼⅣはDNA合成に関わる酵素の一つです。
なお、ニューキノロン系抗菌薬の副作用は少ないものの、吐き気や頭痛、めまい、イライラ、発疹、光過敏症などが知られています。
また、妊婦・授乳婦や18歳以下の小児に対しては原則使用しないようにされています。これは、軟骨形成障害の可能性があるためです。もちろん、感染症によってはこれらの人であっても使用することがあります。
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