グリコペプチド系抗生物質の性質と特徴
グリコペプチド系抗生物質のカバー
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)へ効果を示す抗生物質として、バンコマイシンが有名です。バンコマイシンはグリコペプチド系抗生物質に分類されます。
グリコペプチド系抗生物質はグラム陽性菌へ使用すると考えてください。つまり、黄色ブドウ球菌や腸球菌、肺炎球菌へ活用されます。ただ、実際はMRSAの治療が基本です。このようなグリコペプチド系抗生物質としては、バンコマイシンやテイコプラニン(商品名:タゴシッド)があります。
なお、グリコペプチド系抗生物質はグラム陰性菌や嫌気性菌へは作用しません。
抗生物質の性質
グリコペプチド系抗生物質は時間依存性の抗菌薬です。つまり、どれだけ血中濃度を上げたとしても、薬の効果は大きくなりません。ただ、PAEが長い(血中濃度が下がっても、細菌の増殖抑制効果が続く)ため、血中濃度がMICより低値になっても慌てて追加投与する必要はありません。
時間依存性でPAEが長いことから、グリコペプチド系抗生物質は「AUC/MIC」を用いて評価します。AUCは薬の総量を表す指標であるため、総合的な薬の使用量が多くなるほど抗菌作用は強くなります。
ただ、グリコペプチド系抗生物質には副作用として腎毒性があります。そのため、むやみに薬の投与量を上げてしまうと、副作用が表れやすくなります。
つまり、「むやみに血中濃度を高くしても薬の効果は上がらないが、腎毒性が起こらない程度にある程度の投与量は確保しなければいけない」という難しい性質をもっています。
血中濃度の測定
そこで、グリコペプチド系抗生物質では血中濃度の測定を行います。抗生物質であるため、ある程度は血中濃度を確保しないと抗菌効果を得られません。このときは、血中濃度を有効域まで到達させる必要があります。
ただ、血中濃度が高すぎると中毒域に達し、副作用が起こります。グリコペプチド系抗生物質は有効域と中毒域が狭いため、血中濃度の測定を行うことで、薬の濃度が適切な範囲におさまっているかどうかを確認するのです。
具体的には、バンコマイシンでもテイコプラニン(商品名:タゴシッド)でも、血中濃度が一番低くなったときの値を測定します。つまり、「次の薬物投与を行う前の値」をみます。薬を投与する直前では、当然ながら薬の血中濃度は最も低くなっているからです。なお、このときの値をトラフ値といいます。
実際に測定するとき、3~4回投与を繰り返した後に測定します。投与開始してすぐに血中濃度を測定したとしても、最初の方は薬物濃度が上がっている途中であり、薬の濃度が安定していません。そこで、血中濃度が安定した3~4回目あたりでトラフ値を測定するのです。
トラフ値の測定では、次の投与の約30分~1時間以内に採血して、血中濃度を測ります。このときの値から、薬の作用を得ながら副作用を回避できているかどうかを確かめます。
副作用
バンコマイシンやテイコプラニン(商品名:タゴシッド)を投与するとき、必ず1時間以上は薬の投与時間を確保しなければいけません。30分未満で投与するなど、速度が速いとレッドマン症候群(レッド・パーソン症候群)と呼ばれる副反応が起こるからです。
レッドマン症候群では、上半身に発疹や痒みを生じるようになります。このような症状が表れないためにも、投与時間(投与速度)をあらかじめ確認しておき、ゆっくりと薬が体内に入るように調節しておかなければいけません。
なお、腎毒性については既に述べましたが、現在ではかなり改善されています。かつては薬の精製度が低く、バンコマイシンは汚い色をしていました。そのため、「ミシシッピー川の泥」と揶揄されるほどでした。ただ、いまでは精製の技術が向上したことで腎障害を引き起こすリスクは格段に減少しています。
グリコペプチド系抗生物質の作用機序
ヒトと細菌では「細胞壁の有無」という点で違いがあります。ヒトは細胞壁をもっておらず、細菌には細胞壁があります。細菌は細胞壁がなければ生きていくことができないため、細胞壁合成を阻害する薬は細菌へ毒性を与えることができます。
細菌が細胞壁を合成するとき、ペプチドグリカンと呼ばれる物質の存在が重要になります。そこで、グリコペプチド系抗生物質はペプチドグリカン前駆体(ペプチドグリカンになる前の物質)の「D-アラニル-D-アラニン部位」に結合し、その働きを阻害します。
これにより、結果として細胞壁合成ができなくなり、細菌の増殖が抑えられます。こうして抗菌作用を示すのがバンコマイシンやテイコプラニン(商品名:タゴシッド)などのグリコペプチド系抗生物質です。
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