エンピリックセラピーとディ・エスカレーション
感染症を治療するとき、抗菌薬は欠かすことができません。ただ、抗菌薬は種類が多く、その数も膨大です。また、感染症を引き起こす細菌も無数に存在します。
抗菌薬によって、作用することのできる細菌は異なります。専門的に表現すれば、「感受性が異なる」となります。そのため、感染症ごとに適切な抗菌薬を選択しなければ、感染症を治療することはできません。
ただ、多くの場合は原因菌を特定できない場合が多いです。そこで多くの医師は「さまざまな細菌に作用を示す薬(広域スペクトルを示す抗菌薬)」を投与します。こうすれば、頭を使わなくても感染症を治療できる可能性が高いです。
しかし、それを繰り返しているだけではいけません。薬の副作用や耐性菌の問題があるため、適切な薬を選ぶ必要があります。このときは初期治療と最適治療に分けて考えることで、副作用を抑えながら抗菌薬の治療効果を最大限に引き出せるようになります。
エンピリックセラピー(エンピリック治療)
感染症を発症したとき、「原因菌を特定した後に薬を用いる」のが原則です。下手に薬を使用すれば耐性菌が生まれやすくなるだけでなく、そもそも原因菌に対して適切な薬を選んでいない可能性もあります。
しかしながら、実際のところ原因菌が分からないことは多いです。その場合、検査をすることで原因菌を確認します。ただ、容体が悪いために一刻を争う場合、検査結果が出るまで何日も放置するわけにはいきません。このような場合、よく分からないまま抗菌薬を投与します。
このときは経験的に薬を使用することから、エンピリックセラピー(エンピリック治療:経験的な治療)と呼ばれます。原因菌が不明であり、さらに重症患者で早急な治療が必要な場合にエンピリックセラピーが行われます。
エンピリックセラピーでは、広域スペクトルの抗菌薬が使用されます。この薬なら、原因菌をカバーしている可能性が高いからです。一方、狭域スペクトルの抗菌薬(少ない数の細菌にしか効果を示さない薬)であると、原因菌をカバーしている可能性が低いため、エンピリックセラピーでは用いられません。
ディ・エスカレーション
ただ、原因菌が判明した後も広域スペクトルの抗菌薬を使い続けるのは適切ではありません。細胞培養などで原因菌が分かった後は、最適な抗菌薬へと切り替える必要があります。これを、ディ・エスカレーションといいます。最適治療と呼ばれることもあります。
ディ・エスカレーションでは主に狭域スペクトルの抗菌薬が使用されます。狭い範囲の細菌に対して効果を示す薬を用いることは、大きなメリットがあります。
抗菌薬は腸内細菌まで影響を与えますが、働きかける細菌の種類が少なければ、その分だけ腸内細菌の分布を乱すことがありません。つまり、副作用を軽減できます。
また、原因菌に対して大きな効果を示す薬を選んで投与するため、感染症から素早く立ち直れるようになります。つまり、治療効果が最大化します。さらには薬の使用量を減らし、治療期間を短縮できるので耐性菌の出現も抑えることができます。
このように考えると、ディ・エスカレーションの効果は大きいです。たとえエンピリックセラピーで優れた結果を得ることができたとしても、ディ・エスカレーションを実施するのが基本です。
例えば、A群溶連菌に対してペニシリン系抗生物質は優れた効果を示します。そのため、検査によってA群溶連菌の感染が疑われた場合、すぐにペニシリン系抗生物質へとディ・エスカレーションします。これらを行うことで、抗菌薬の副作用を抑えながら感染症の治療効果を最大限に発揮させることができます。
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