消毒薬について
滅菌と消毒
感染症を予防するためには、対象となる病原微生物を殺すことが大切となる。これらの対策は、予防以外に感染症の拡大などを未然に防ぐ役割も担っている。
このような「病原微生物を殺す」という概念であるが、「滅菌」と「消毒」の二つの考え方がある。
・滅菌
滅菌とは、「対象とする病原微生物を含め、その他全ての微生物を殺すことで無菌の状態にすること」を指す。つまり、菌を完全にゼロの状態にする。
・消毒
消毒とは、「対象とする病原微生物の数を減らし、感染性をなくすこと」を指す。つまり、対象とする病原微生物以外は考慮しない。
例えば、インフルエンザを予防したいと考える。インフルエンザウイルスへの対策を考えることで、インフルエンザを予防できる。
このとき、インフルエンザウイルスを含めて、全ての微生物を殺す処理が滅菌である。
それに対して消毒では、インフルエンザウイルスの数が減り、感染性がなくなりすれば良いと考える。他の微生物までは考慮しない。
・なぜ、消毒薬が大切か
滅菌を行う方法としては、高圧蒸気滅菌やエチレンオキサイドガス、紫外線滅菌などがある。
医療器具に行う処理として、滅菌が本当は望ましい。しかし、一般家庭や老人施設などには、前述のような「高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス」などの装置は普通に考えて存在しない。
そのため、「無菌状態とまではいかないにしても、病原微生物を減らして感染性をなくす」という考え方が非常に大切となる。そのため、手軽に消毒を行うことができ、感染性リスクを減らすことができる消毒薬が重要となる。
医療器具と消毒薬
医療器具はそのリスク分類によって三つに分けられる。このリスク分類は、「どれだけ感染のリスクが高いか」による。
リスク分類 |
処理法 |
対象器具 |
|
クリティカル器具 |
滅菌 |
無菌組織や血管に入るもの |
手術器、注射器 |
セミクリティカル器具 |
高水準消毒 中水準消毒 |
粘膜や傷のある組織に 接触するもの |
内視鏡、麻酔器材 |
ノンクリティカル器具 |
低水準消毒 |
正常な皮膚に接触するもの |
モニター類、床、壁 |
クリティカル器具には手術器や注射器などがあり、直接体内に入るために感染のリスクが高い。そのため処理方法も滅菌が適応され、より厳密なものとなる。
それに対して、モニター類などの医療機器や床・壁などの環境はクリティカル器具・セミクリティカル器具より感染リスクが低いため、低水準の消毒で十分であると考えられる。
消毒薬の種類と抗微生物スペクトル
以下に「消毒薬の種類」と、どの種類の微生物を殺菌することができるかの「抗微生物スペクトル」を載せる。一見すると、ごちゃごちゃしていて何が言いたいのか分からない表であるが、考え方をきちんとしていれば全く難しくない。
分 類 |
成分名 |
抗微生物スペクトル |
適応対象 |
|||||||||||||
一 般 細 菌 |
M R S A |
緑 膿 菌 |
結 核 菌 |
真 菌 |
芽 胞 |
ウイルス |
器具 |
環 境 |
手 指 ・ 皮 膚 |
粘 膜 |
||||||
中 型 サ イ ズ |
小 型 サ イ ズ |
H I V |
H H C B V V |
金 属 |
非 金 属 |
|||||||||||
高 水 準 |
グルタラール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | - | - | - |
フタラール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | - | - | - | |
過酢酸 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | - | - | - | |
中 水 準 |
次亜塩素酸ナトリウム | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | - | ○ | △ | △ | △ |
ポピドンヨード | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | - | - | - | - | ○ | ○ | |
消毒用エタノール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | - | ○ | △ | ○ | - | ○ | ○ | △ | ○ | - | |
イソプロパノール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | - | ○ | - | ○ | - | ○ | ○ | △ | ○ | - | |
低 水 準 |
塩化ベンザルコニウム | ○ | △ | △ | - | - | - | △ | - | - | - | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
塩化ベンゼトニウム | ○ | △ | △ | - | - | - | △ | - | - | - | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
グルコン酸 |
○ | △ | △ | - | - | - | △ | - | - | - | ○ | ○ | ○ | ○ | - | |
塩酸アルキルジアミノ |
○ | △ | △ | - | - | - | △ | - | - | - | ○ | ○ | ○ | ○ | △ |
○:有効 △:やや有効 -:無効
消毒薬には、その強さに応じて「高水準・中水準・低水準」の三つに分類される。これは、それぞれの微生物を殺す強さである「抗微生物スペクトルの広さ」によって分けられる。
・抗微生物スペクトルの広さ
表の中でまず初めに注目するポイントは、抗微生物スペクトルの「一般細菌」の覧である。この覧を見ると、全ての消毒薬で○が付いている。
つまり、「通常の細菌に対しては、どの消毒薬を使用しても良い」ということが分かる。
夏の食中毒としては「腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌(O-157など)」が考えられるが、これらの消毒を行うときはどの消毒薬を使っても問題ない。
注意点としては、「これら通常細菌以外の特殊な微生物(結核菌やウイルスなど)を殺すときに、どの消毒薬を使用するかを考える必要がある」ということである。
例えば、冬に起こる食中毒はノロウイルスによるものが圧倒的に多い。冬の食中毒はウイルスによって起こるため、同じ食中毒であっても夏と冬では対策が異なることが分かる。
夏の食中毒対策と違い、冬の食中毒対策はウイルスを殺すすることができる消毒薬を選ばなければならない。
要は、「通常の殺菌であれば、何を使用しても良い」という事と、「特殊な微生物を殺す場合は、それぞれの用途に合った消毒薬を使い分けること」の二つを確認することができればよい。
・適応対象
上に示した消毒薬の表について、もう一つ「適応対象」という重要な要素がある。これは、それぞれの消毒薬がどのような医療器具に使用できるかを示している。
消毒薬によっては「人体に使用できないもの」、「金属には適応できないもの」など、それぞれに特徴がある。そのため、「どのような医療器具を消毒したいかによって、消毒薬を使い分ける」ということも必要となる。
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