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セフェム系抗生物質の性質と特徴

 

抗生物質としてペニシリンは有名ですが、同じように古くから知られている抗生物質にセファロスポリンがあります。セファロスポリンの構造をもとにして開発された抗生物質を総称して、セフェム系抗生物質といいます。ペニシリン系抗生物質と同様に、セフェム系抗生物質ではβ-ラクタム環を有しています。

 

セフェム系抗生物質は臨床現場で頻繁に用いられる薬の一つです。その分類では第一世代、第二世代、第三世代、第四世代と分類されます。第五世代セフェムまで登場しており、その分類についてきちんと理解しておく必要があります。

 

 世代ごとのセフェム系抗生物質の分類
セフェム系抗生物質では、前述の通り世代ごとに分けられます。このときの世代は何なのかというと、「開発された時期」だと考えてください。ある一定の時期に開発された分類であるため、同じ世代のセフェム系抗生物質であっても、まったく性質が異なることは多いです。

 

ただ、世代ごとに大まかな特徴が存在するため、それぞれの性質を把握しておく必要があります。最初におさえておきたいのは、グラム陽性菌とグラム陰性菌への作用です。

 

第一世代セフェムでは、グラム陽性菌への作用が強いです。ただ、開発が進んでセファロスポリンの構造から離れると、一般的にグラム陽性菌への作用が弱まり、グラム陰性菌への働きが強くなります。そのため、以下のようになります。

 

 ・グラム陽性菌:第一世代>第二世代>第三世代
 ・グラム陰性菌:第三世代>第二世代>第一世代

 

そして、第四世代では「第一世代+第三世代」の性質を有していると考えてください。もちろん、前述の通り開発された区分での分類であるため、すべてがこれに当てはまるとは限りません。ただ、世代ごとの特徴を理解するには重要な考え方だといえます。

 

 ・第四世代:第一世代+第三世代

 

 

 

 ・第一世代セフェム
グラム陽性球菌の中でも、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌に対して第一世代セフェムが活用されます。これらの細菌は皮膚や軟部組織(筋肉、血管など)で感染症を起こすため、これらの疾患に第一世代セフェムが有効です。

 

ただし、皮膚の感染症が必ずしもグラム陽性菌によるものではありません。グラム陰性菌によっても感染症が起こるため、この場合は第三世代セフェムが活用されます。

 

なお、グラム陽性菌に効果の高い第一世代セフェムですが、腸球菌には無効です。また、緑膿菌や嫌気性菌への効果もありません。これら第一世代セフェムとしては、セファゾリン(商品名:セファメジン)があります。

 

 ・第二世代セフェム
第一世代に比べて、第二世代ではグラム陰性菌(インフルエンザ菌など)へのカバーが増えています。そして、第二世代セフェムの中でも、大きく次のように2つに分けることができます。

 

 ・市中肺炎や尿路感染症に使用される
 ・腸管内の感染症に使用される

 

市中肺炎とは、社会生活の中で患った肺炎のことを指します。つまり、病院内などではなくごく普通に生活しているときに罹る肺炎だと考えてください。

 

なぜ、上記のように分けるのかというと、第二世代セフェムの中で「嫌気性菌に効果を有するかどうか」で性質が大きく異なるからです。

 

市中肺炎や尿路感染症では、嫌気性菌が原因になることはほとんどありません。そのため、嫌気性菌へのカバーがない第二世代セフェムを活用することがあります。

 

一方、腸管内の感染症では嫌気性菌によるものが多いです。そのため、嫌気性菌にカバーのない抗菌薬を使用しても感染症から立ち直ることはほぼありません。そこで、第二世代の中でも嫌気性菌へカバーのある抗菌薬は腸管内の感染症に用いられます。

 

なお、嫌気性菌へのカバーがない第二世代セフェムとしてはセフォチアム(商品名:パンスポリン)があります。嫌気性菌をカバーする第二世代セフェムにはセフメタゾール(商品名:セフメタゾン)があります。

 

 ・第三世代セフェム
第三世代セフェムでは、「緑膿菌へのカバーがあるかどうか」で2つに分けます。緑膿菌へのカバーがない場合、市中肺炎や尿路感染症に使用されます。つまり、「嫌気性菌をカバーしない第二世代セフェム」と同じように活用します。

 

ただ、第一世代や第二世代では髄液への移行性がないものの、第三世代では髄液への移行性があります。そのため、第三世代セフェムでは髄膜炎の治療にも活用することができます。

 

このような緑膿菌へのカバーがなく、市中肺炎や尿路感染症に活用される第三世代セフェムとしてはセフトリアキソン(商品名:ロセフィン)、セフォタキシム(商品名:セフォタックス)があります。

 

一方、緑膿菌へカバーがある場合、主に緑膿菌による感染症に用いられます。緑膿菌はもともと抗菌薬へ耐性をもっている細菌であるため、緑膿菌へ効果を示す薬は貴重です。そのため、緑膿菌感染症のときだけ大切に活用するのです。

 

緑膿菌をカバーする第三世代セフェムとしてはセフタジジム(商品英:モダシン)、セフォペラゾン・スルバクタム(商品名:スルペラゾン)があります。スルバクタムはβ-ラクタマーゼ阻害薬です。

 

 ・第四世代セフェム
第一世代セフェムと第三世代セフェムの性質を合わせた抗菌薬が第四世代セフェムであり、グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広くカバーします。緑膿菌まで効果を示すため、多くの細菌へ効果を示します。

 

特に白血球減少症による発熱では、第四世代セフェムの投与を考えます。白血球減少症の原因菌として緑膿菌が考えられるからです。また、その他の予想される細菌を含めて、第四世代セフェムであれば幅広くカバーできます。このような第四世代セフェムとしては、セフェピム(商品名:マキシピーム)が知られています。

 

なお、多剤耐性菌として知られるMRSAに対して、すべてのβ-ラクタム系抗生物質が無効だと考えられていました。ただ、MRSAにも効果を示すセフェム系抗生物質が開発され、これを第五世代セフェムと表現することがあります。

 

 セフェム系抗生物質の性質
セフェム系抗生物質は時間依存性の抗菌薬であり、PAEが短い(血中濃度が下がると、すぐに細菌が増殖を開始する)という性質のため、MICより高い値で血中濃度を維持し続けなければいけません。

 

ただ、第三世代セフェムのセフトリアキソン(半減期:6時間)を除き、ほとんどは半減期が約1時間です。そのため、1日3回以上の頻回投与が必要になります。

 

腸球菌へのカバーはどのセフェム系抗生物質もなく、髄液移行性があるのは第三世代セフェムと第四世代セフェムです。また、緑膿菌へのカバーは第三世代セフェムの一部と第四世代セフェムがあります。

 

 セフェム系抗生物質の作用機序
ヒトと細菌では、細胞壁に大きな違いがあります。細菌には細胞壁があり、ヒトには細胞壁がありません。細胞壁がなければ細菌は生きることができないため、セフェム系抗生物質は細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を発揮します。

 

 

 

細胞壁の合成に深く関わっているタンパク質として、ペニシリン結合タンパク質(PBP)があります。セフェム系抗生物質はペニシリン結合タンパク質(PBP)の働きを抑制し、結果として細胞壁の生成を止めます。

 

細胞壁がなければ、細胞内に水が流入してくるようなります。その結果、最終的に細胞が破裂してしまいます。こうして、細菌が死滅します。そのため、セフェム系抗生物質は殺菌性抗菌薬であるといえます。

 

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