エイズワクチン
ワクチンは予防法として使われます。病気になる前にワクチンをあらかじめ接種していると病気が軽く済み、病気自体の発症も抑えてくれます。
ワクチンには弱った病原菌やその死骸、病原菌の一部などを使用します。ワクチンによって目的の病原菌と自分自身の免疫細胞を前もって戦わせておきます。すると、免疫細胞は病原菌を殺す抗体を作ります。
これにより再び病気になるのを防いでくれます。ただし、ワクチンには病原菌を殺す作用はありません。
世界中で猛威をふるっていた天然痘はワクチンによってこの世から消え去りました。1980年にWHOは天然痘の世界根絶宣言を行いました。それからは天然痘の感染者は報告されていません。
※ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はAIDS(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルス
貧しい国に必要なエイズワクチン
エイズ問題は先進国よりも貧しい国の方が深刻です。世界のエイズ患者のうち3分の2がサハラ以南のアフリカに集中しています。三人に一人の割合でHIVに感染している国もあります。これらの国にとってエイズは現在も「死の病気」です。
エイズの薬は次の理由で貧しい国の人には手が届きません。
・薬が高価
・一生服用し続けなければならない
・耐性ウイルス発生の問題
貧しい国の人々が高価な薬を一生飲み続けるのは現実的ではありません。また適切に使用しなければ、すぐに耐性ウイルスが発生してしまいます。これらの国でエイズに対抗する手段としての条件は第一に安価であることです。この条件にあてはまるのがエイズワクチンです。
エイズワクチンの開発
エイズワクチンは当然ながらウイルスを弱らせただけの生ワクチンの使用の可能性はありません。生ワクチンによるエイズワクチンでは安全性に問題があります。
エイズワクチン開発の難しさには、遺伝情報の理解の難しさとHIVの進化の速さにあります。
HIVは逆転写酵素によってRNAからDNAを作るときの正確性が低く、ミスが起こりやすいです。つまり、突然変異しやすいのです。
一年間に0.5~1%のHIVに変異が起こっていると言われています。これが、エイズワクチンを開発しにくいと言われる原因です。
また、HIVの遺伝情報が全て分かったとしてもそれらの遺伝情報がどのように作用するかを知らなければいけません。
ワクチンは免疫細胞に病原菌の特徴を覚えさせることによって効果を表します。そのためHIVが進化して形が変わってしまえば意味がなくなります。
さらに免疫細胞が作る抗体はHIVに対して効果が期待できないという報告があります。抗体は病原体にぴったりとはまる(結合する)ことで効果を表します。この抗体が結合する部分をHIVは立体的に隠しています。
免疫細胞が病原体を攻撃する方法は二種類あります。一つは抗体によるもので、もう一つは免疫細胞が直接病原体に感染した細胞を攻撃する方法です。
エイズワクチンでは後者の作用を利用します。つまり病原体を直接攻撃する免疫細胞を活性化します。
エイズワクチン候補の種類は様々です。その方法の一部を紹介します。
・ウイルスのタンパク質の一部を利用する
・ウイルスの遺伝子(正確にはRNA)を取り出してその一部をヒトに注射する
・ウイルス遺伝子の一部を微生物に組み込み、その微生物を注射する
現在行われているエイズ予防ワクチンとしては、「HIVを構成する一部の遺伝子を利用する方法」が主流です。この遺伝子を人に組み込み、細胞内でHIVのタンパク質を作らせるのです。
組み込むHIVの遺伝子は一部であるため、私たちの体内で産生されるHIVのタンパク質も一部になります。そのため、感染力のあるHIVが作成される訳ではありません。このHIVを構成する一部のタンパク質を私たちの免疫細胞が認識し、感染力を持つHIVが侵入してきた時に備えさせるのです。
貧しい国にとってエイズワクチンの開発は不可欠です。人類とエイズの戦いはこれからも続いていきます。
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