エイズ治療薬
エイズ(後天性免疫不全症候群)は1981年に発見され、世界を恐怖に陥れました。
ヒトは体内に病原体が入るとそれを退治しようとします。これが免疫であり、この作用によって病原菌に抵抗し、病気を自然に治癒してくれます。
エイズウイルス(HIV)は免疫機能の司令塔を破壊します。その結果、病原体に対する抵抗力が落ちることで病気にかかりやすくなります。病気だけでなく、がんも発生しやすくなります。
エイズの発生からHIVの研究は進み様々な薬が開発されました。薬のおかげで先進国ではエイズは「死の病気」ではなく「生涯つきあっていく病気」になりました。しかし、エイズが人類にとって恐怖であるということには変わりありません。
※ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はAIDS(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルス
エイズの増殖メカニズム
抗HIV薬の説明をする前にHIVの増殖メカニズムを理解しなければいけません。
私たちは遺伝子をもっています。これが繋がっていくとDNAとなります。細胞が増殖するときにDNAからRNAを合成し、DNAの情報を転写します。そのあとRNAからタンパク質に翻訳します。タンパク質の合成には「DNA→RNA→タンパク質」という流れがあります。
「なぜRNAが必要なのか」という疑問についてですが、例えば料理をするときにレシピを活用するとします。このレシピを図書館で調べるときに本が持ち出し禁止だとすると、本に書いてある内容を紙に写さないといけません。
レシピの内容を書き写した紙を家に持ち帰ることよって、初めて料理が可能となります。
この場合では情報が載っている本がDNA、情報を写す紙がRNA、紙に書かれた情報(RNA)によって作られる料理がタンパク質になります。HIVの遺伝情報はこのRNAで構成されています(レトロウイルス)。
HIVの増殖は次のように起こります。
1. ウイルスが細胞の表面に結合する
2. ウイルスのRNAが細胞に入り、逆転写酵素を合成する
3. 逆転写酵素により、ウイルスのRNAがDNAに変わる
4. ウイルスのDNAがヒトのDNAに組み込まれる
5. 組み込まれたDNAの情報によって、ウイルス構成に必要なタンパク質を作る
6. 合成したタンパク質が集まり、新しいHIVが生まれる
HIVはRNAウイルスです。遺伝情報をヒトのDNAに組み込むためには、HIVのRNAをDNAに変換しなければなりません。通常は「DNAからRNAの合成」は可能だが、「RNAからDNAの合成」はできません。
そのため、逆転写酵素という特殊な酵素の働きによってRNAをDNAに変換します。
抗HIV薬
HIVに使用する薬には、ウイルスのRNAをDNAに変える逆転写酵素を阻害する逆転写酵素阻害剤、ウイルスのタンパク質を作る過程を阻害するプロテアーゼ阻害剤があります。
逆転写酵素阻害剤の中には、核酸系逆転写酵素阻害剤と非核酸系逆転写酵素阻害剤があります。
エイズの薬にはこの3種類があり、それぞれ作用機構が異なります。これらの作用はHIVの増殖を抑えるという点では同じです。
現在ではこれらの薬を複数合わせて処方する方法により、ウイルスの増殖を抑えます。この方法は耐性ウイルスの出現も抑えてくれます。
これらの薬によって先進国でのエイズのイメージは変わりました。しかし、現在の技術でも完全にHIVを殺すことはできません。つまりエイズが治ることはありません。そのため薬を一生飲み続けなくてはいけません。
また、耐性ウイルスの出現に特に注意しなければいけません。DNAをもつ生物はDNAに損傷や変異が起こるとそれを修復しようとします。しかし、HIVの遺伝情報はRNAです。そのため遺伝情報を修復する機能がありません。
そのためHIVはもの凄い速さで進化します。もし適切に薬が処方されなかったり、患者が薬の服用を怠ったりすると、すぐにウイルスは耐性を獲得して薬が効かなくなります。こうなると、HIVは増殖し放題になります。
これらエイズの問題は実は先進国よりも貧しい国の方が深刻です。
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