人類初の抗ウイルス薬
現在、ウイルスに対する薬は抗インフルエンザ薬やエイズに対する薬など様々なものがあります。
しかし、昔はウイルスに対する抗菌薬の開発は不可能であろうと考えられており、唯一対抗できる手段としてはワクチンだけでした。
このとき、人類初のウイルスに対する薬として発見されたのがアシクロビル(ACV)という薬でした。
アシクロビルはヘルペスウイルスに対する薬であり、この薬を開発した人は「世界で初めてウイルスに対する薬を作った人」としてノーベル賞を受賞しています。
キーワード:アシクロビル、デオキシグアノシン三リン酸、デオキシグアノシン
アシクロビルの作用機序
アシクロビルがどのようにして効果を表すかですが、その前にDNAの事について話しておかないといけません。
DNAは「A、G、T、,C」のたった四つの暗号で成り立っています。その暗号の一つにグアニン(G)があり、グアニンはDNAとして機能するためデオキシグアノシン三リン酸という形を取ります。
下にデオキシグアノシン三リン酸の構造を示したいと思います。
このデオキシグアノシン三リン酸がDNAの一部を構成しているのです。
また、デオキシグアノシン三リン酸の前駆体はデオキシグアノシンという物質であり、デオキシグアノシンに が結合することでデオキシグアノシン三リン酸となります。
それでは、アシクロビルの構造とデオキシグアノシンを比較してみましょう。
この二つの物質を見比べてみてどうでしょうか。何か感じるものはないでしょうか。
そうです、構造が似ているのです。この「構造が似ている」という点が重要なのです。
・DNAの合成とアシクロビル
けがなどをすると細胞が破壊されます。しかし、時間が経つとかさぶたができて最終的に細胞は修復されます。このとき、細胞を増殖させる時はDNAの合成が必要不可欠となります。
DNAは先ほど述べたように四つの暗号で成り立っています。つまり、DNAを合成するにはデオキシグアノシン三リン酸が必要になります。そして、そのデオキシグアノシン三リン酸はデオキシグアノシンから合成されます。
構造が似ているため、ヘルペスウイルスはアシクロビルとデオキシグアノシンを見分けることができません。そのため、アシクロビルが存在するとヘルペスウイルスはアシクロビルにをつけて、DNAの一部として取り込んでしまうのです。
アシクロビルをDNAの一部として取りこんでしまったら、ウイルスは増殖することができません。このようにしてウイルスの増殖を抑えるのです。
それに対し、ヒトはヘルペスウイルスよりも精巧にできており、アシクロビルとグアノシンのわずかな構造の差を見分けることができます。
そのため、ヒトに対して細胞増殖を抑えることはほとんどありません。
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もっと詳しく知りたい人へ
デオキシグアノシンをリン酸化することでデオキシグアノシン三リン酸となります。デオキシグアノシン三リン酸はDNAの構成成分ですが、ヘルペスウイルスはアシクロビルもリン酸化してしまいます。
リン酸化されたアシクロビルはDNAポリメラーゼの働きを阻害し、DNA合成をストップさせることで増殖を抑えます。
なお、アシクロビルのリン酸化はヘルペスウイルスに感染した細胞だけに起こっており、正常なヒトの細胞ではアシクロビルを認識しないため不活性のままとなっています。
このようにして、選択的にウイルスだけを阻害するのです。
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