糖尿病で重要となる糖の動き
私たちの体のエネルギーを生み出すためには、糖が必要不可欠です。しかし、この糖であってもその量が多すぎてしまうと糖尿病として病気を引き起こしてしまいます。
糖尿病とは、その名の通り尿の中に糖が検出される病気のことです。
正常な人の場合、尿からは糖は排出されません。しかし、糖尿病患者では血液中における糖の濃度が高くなり過ぎているため、尿中から糖が出てしまいます。
尿から糖が検出されるくらい糖の濃度が高いため、糖による毒性が表れてさまざまな合併症を引き起こしてしまうのです。これが、糖尿病の簡単な概要です。
すい臓の生理学
糖尿病を考える上で、すい臓(膵臓)を理解することが重要です。
すい臓からはインスリンと呼ばれるホルモンが分泌されます。このインスリンは血糖値(血液中に存在する糖)を下げるホルモンです。
私たちの体には多くのホルモンが存在します。そのホルモン群の中でも、血糖値を上げるホルモンはいくつもあります。しかし、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけです。
そのため、血液中の糖の濃度が高い状態である糖尿病を理解するためには、インスリンに関しても学習する必要があります。
そして、このインスリンはすい臓から分泌されます。
すい臓は消化液を分泌する体の臓器であり、膵液として食物の消化を助けます。この膵液の消化作用は強力であるため、何らかの原因によって膵液がすい臓自体を溶かしてしまうこともあります。このような病気が膵炎です。
また膵液の分泌によって消化を助けるだけでなく、すい臓にはホルモンを分泌する働きも有しています。このように、すい臓のホルモンを分泌する細胞の集まりをランゲルハンス島と言います。
ランゲルハンス島は四つの細胞から構成されています。これらの細胞の中でも、血糖値に関係するホルモン分泌に関わっている細胞を下の表に記します。
細胞の名称 |
分泌される ホルモン |
役割 |
α細胞(A細胞) |
グルカゴン |
血糖値を上げる |
β細胞(B細胞) |
インスリン |
血糖値を下げる |
ホルモンとは(内分泌と外分泌)
薬学を学ぶ上でのホルモンとは、「血液やリンパ管など体の中に向けて分泌される物質」を指します。このような作用を内分泌と呼びます。
すい臓の機能で考えると、ランゲルハンス島から分泌される物質は血液中に分泌されるため、内分泌として作用することが分かります。つまり、血糖値を上げるグルカゴンや血糖値を下げるインスリンはホルモンです。
また、内分泌の反対を意味する言葉として外分泌があり、外分泌とは分泌腺から体の表面や消化管などに向けて分泌されることです。例えば、唾液などの消化液の分泌が外分泌です。
すい臓において食物の消化を助ける膵液は十二指腸へと分泌されます。消化管である十二指腸に分泌されるため、この場合は外分泌となります。
なお、ホルモンは微量で作用します。この微量とはppm(百万分の一)、ppb(十億分の一)という量です。なかにはppt(一兆分の一)という単位で効果を示すものまであります。
つまり、ほんの少しでもホルモンのバランスが崩れるだけで病気になります。
ちなみに、「薬学で重要なホルモン」と「焼肉でのホルモン」は全く意味が違います。焼肉でのホルモンは内臓の肉を焼いたものです。
昔ではこのような内臓の肉は捨てる部分として「ほうるもん(放るもん)」として捉えられていました。焼肉のホルモンの名前はこの呼び方が起源とされています。
そのため、インスリンなど私たちの体に作用を表す生理活性物質としてのホルモンと焼肉でのホルモンは別物です。
糖尿病は血液中の糖が多くなってしまった病態です。そのため、食物に含まれる糖が体の中に吸収され、その後どのような過程を経るかを理解することが必要です。
糖の流れにおける全体像
食物に含まれる糖は主に炭水化物として存在しています。この炭水化物は唾液など消化酵素の働きによってブドウ糖(グルコース)にまで分解されます。
このブドウ糖は小腸まで移動した後に吸収されることで血液中に分布します。糖であるブドウ糖が血液中に入るため、当然ながら血糖値が上昇します。
この「血糖値の上昇」が合図となり、血糖値を下げるためにすい臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。
血液中に分泌されたインスリンは組織に作用することで、血糖値を下げるように働きます。インスリンが働くことで肝臓や筋肉、脂肪細胞などに糖が移行します。
糖がこれらの組織に移動するので、血液に存在する糖の量も少なくなります。つまり、血糖値が下がります。
このように、インスリンの働きによって糖が血液中から組織に移動することによって全身のエネルギー源となります。
なお、上図のように糖の動きや流れは三つに分けることができます。
① 糖が分解・吸収される
② 糖が血液中に分布する
③ インスリンが作用する(糖の貯蔵)
糖が分解・吸収される
小腸から栄養が吸収されるためには、消化酵素によって細かく分解される必要があります。そのために唾液や胃液、膵液などの消化液が必要になります。
食物中の糖は主に炭水化物として存在しています。炭水化物は糖がいくつも連なった状態です。植物ではこの炭水化物をデンプンとして、動物では体内にグリコーゲンとして蓄えられています。
この炭水化物を消化酵素によって分解していくと、それ以上分けることができない一つ一つの糖(単糖類)にまで分けることができます。
このとき、重要な消化酵素としてα-グルコシダーゼがあります。
α-グルコシダーゼは「二糖類 → 単糖類」への分解に関わっています。つまり、ブドウ糖(グルコース)が二つくっついている二糖類の状態から、それぞれ一つずつの状態である単糖類へと分解します。
消化酵素によってブドウ糖としての単糖類にまで分解されることで、ようやく小腸から糖として吸収できるようになります。ブドウ糖が二つ結合している二糖類の状態であると、小腸からは吸収されません。
糖が血液中に分布する
ブドウ糖として単糖類にまで分解された糖は小腸から吸収され、血液中へと移行します。このため、血液中に存在する糖の濃度は上昇してしまいます。
このとき、血液中に溶け込んだブドウ糖を血糖と呼びます。この血糖の値が血糖値です。つまり血糖値とは、血液の中にどれくらいブドウ糖が溶けているかを示す値です。血糖値の単位はmg/dl
で表されます。
糖尿病患者では、この血糖値が常に高い値を示します。これによって、さまざまな合併症を引き起こすようになります。
前述の通り、糖尿病患者では血糖値が高いために尿中に糖が検出されます。ただし、正常な人であれば尿中に糖が出ることはありません。
腎臓は老廃物を体の外へ排出するために尿を作ります。このとき、腎臓で最初に作られる原尿には老廃物以外にも、糖やアミノ酸など体に必要な栄養素も含まれています。
糖やアミノ酸は重要な栄養源であるため、そのまま体外へ排泄されたのでは不都合です。そこで、老廃物は尿の中に残して栄養だけを再び体の中へ再吸収させます。
正常な人であっても、尿が最初に作られた時の原尿には糖が含まれています。しかし、尿が膀胱に到達するまでに糖は体の中へと再吸収されるため、正常な人では排泄される尿の中に糖は出てきません。
これが糖尿病患者の場合、血糖値が高すぎるために腎臓で最初に作られる原尿にも多くの糖が含まれた状態となります。原尿に含まれる糖分が多いため、体の中への再吸収が間に合わなくなります。その結果、尿中から糖が検出されてしまいます。
このように、尿中に溶け込んだブドウ糖を尿糖と呼びます。尿糖を測定することでも、糖尿病の簡単な検査を行うことができます。
インスリンが作用する(糖の貯蔵)
血中へと移動した糖は全身のエネルギー源として各組織に取り入れられます。この時にインスリンが作用します。
インスリンは肝臓や筋肉、脂肪細胞へ作用することで血液中のブドウ糖を各細胞の中へと取り込ませます。これによって、血糖値が下がっていきます。このときのブドウ糖は筋肉細胞などでグリコーゲンとして蓄えられます。
このとき、インスリンは肝臓での糖新生を抑制する作用をもちます。
糖新生とは
食事後は血糖値が高い状態となっていますが、その反対に、お腹の空いている飢餓状態であると血糖値が下がっている状態であると予想されます。
血糖値が低いと低血糖として動悸や手足の振るえが起こり、昏睡状態にまで陥ってしまいます。そこで、このような状態を防ぐために血糖値を維持する必要があります。つまり、血糖値の下がりすぎを防止します。
この機構の一つとして糖新生があります。糖新生とは、その名の通り糖を新しく作る(新生する)機構のことです。
インスリンによって各組織に取り込まれたブドウ糖はグリコーゲンとして蓄えられます。糖新生では、肝臓でのグリコーゲンを分解することでブドウ糖へと変換します。これによって、血液中のブドウ糖濃度を上げることで血糖値を一定に保ちます。
このように、血糖値を維持するために糖新生はとても重要です。しかし、糖尿病患者ではこの機構が血糖値の上昇を招くために不都合となってしまいます。
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