アスピリンジレンマ:COXと血小板凝集抑制作用
トロンボキサンA2(TXA2)と血小板凝集作用
シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸を原料としてプロスタグランジンを合成します。
しかし、シクロオキシゲナーゼ(COX)によって合成される物質はプロスタグランジン以外にもトロンボキサンA2(TXA2)という物質もあります。
このトロンボキサンA2(TXA2)の重要な作用としては血小板凝集作用があります。つまり、血液が固まりやすくなります。
そのため、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによってトロンボキサンA2(TXA2)の合成を抑制することができれば、血小板凝集を抑えることができます。
「血小板凝集が抑えられる」という事は、血液が固まりにくくなる事を意味しています。いわゆる血液をサラサラする作用です。
血管の中に血栓(血の塊)が出来てしまった場合、これが心臓の血管を詰まらせると心筋梗塞となります。他にも脳の血管を詰まらせると脳卒中となります。そのため、血液を固まりにくくすることで、これら血栓が作られる過程を抑えることができます。
昔から使用されている解熱鎮痛剤としてアスピリンがありますが、このアスピリンを少ない量で使用することによって血小板凝集抑制作用を得ることができます。
なお、少ない量のアスピリンを低用量アスピリンと表現します。
低用量アスピリンを投与することによってシクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害されます。それに続いて、その下流にあるトロンボキサンA2(TXA2)の合成が抑制されます。これによって、血小板凝集が抑制されて血液が固まりにくくなります。
アスピリンジレンマ
前述の通り、低用量アスピリンには血小板凝集抑制作用があります。この作用はトロンボキサンA2(TXA2)の合成を抑制するために起こります。
しかし、アラキドン酸から合成されるプロスタグランジンの作用を見てみると、PGI2(プロスタグランジンI2)の作用として血小板凝集抑制作用をもつことが分かります。
「血小板凝集抑制作用」とは、血液が固まりにくくなることを意味しています。そのため、PGI2が阻害されると、その逆の作用として血液が固まりやすくなります。
NSAIDsによってシクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害されると、トロンボキサンA2(TXA2)の抑制によって血液がサラサラになります。しかし、それと同時にPGI2まで阻害されると血液が固まりやすくなってしまいます。
このように片方では「血液をサラサラにする作用」が起こり、もう片方では「血液を固まりやすくする作用」が起こります。このような矛盾(ジレンマ)が起こります。
そこで、低用量という言葉が登場します。先ほどのアスピリンの例であれば、低用量(少ない量)でアスピリンを使用することによってトロンボキサンA2(TXA2)だけを阻害することができます。これによって、血小板凝集抑制作用だけを得ることができます。
しかし、鎮痛作用を得る目的でアスピリンを使用する場合は高用量(多い量)のアスピリンを投与する必要があります。高用量アスピリンであるとトロンボキサンA2(TXA2)だけでなく、PGI2まで阻害してしまいます。
この結果、トロンボキサンA2(TXA2)の抑制による「血液をサラサラにする作用」とPGI2の阻害による「血液を固まりやすくする作用」の両方が起こります。そのため、互いの作用を打ち消しあってしまいます。
そのため、高用量のアスピリンを投与しても血小板凝集作用を得ることができません。これをアスピリンジレンマと呼びます。
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