漢方薬の基礎知識と考え方
漢方薬と民間薬
漢方薬とは「漢方医学理論に基づいて、様々な生薬を混合して処方する薬」のことである。ただし、例外として甘草湯がある。甘草湯は甘草という生薬一種類だけを用いる漢方処方である。
それに対し、民間薬は一種類の生薬や薬用植物を使用した製剤である。
一般用漢方製剤と医療用漢方製剤
漢方製剤には一般用漢方製剤と医療用漢方製剤の2種類がある。一般用漢方製剤はOTC薬であり、医師の処方箋なしに患者の自己負担で薬局などで買うことができる。それに対し、医療用漢方製剤は健康保険が適応されており、医師などが処方箋によって処方することができる。
一般用漢方製剤と医療用漢方製剤の一番の違いは処方箋が必要かどうかである。また、医薬用は「原料生薬から抽出されたエキスの全量を用いる」と規定されている。一般用は抽出されるエキスの全量の50%以上が含まれていればよい。
一般用の方が有効成分の量が少ないため効果が薄いが、その分副作用も少なくてすむ。医薬用は効果が期待できるが、副作用を気をつけないといけない。
エキス製剤
エキス製剤は生薬などからエキス成分(有効成分)を抽出し、粒状やカプセルなどにした製剤である。医療用漢方製剤にはエキス製剤のみが使用される。
エキス製剤の特徴は次のようなものである。
・外観的に一般薬と比べて違和感がない
・品質が一定であり、保存や管理が容易である
・処方が限定されている
・効果において、科学的評価を受けやすい
漢方の特徴
・ホメオスタシス(恒常性)の維持
外界は常に変化している(温度、湿度など)。私たちはこの変化に対応していかなければならない。このような変化は免疫系、神経系、内分泌系によって調節されており、漢方ではこの機構を調節してホメオスタシスを維持しようとする。
・多成分の生薬成分を利用する
漢方は複数の生薬を組み合わせて処方する。これによって、さまざまな相互作用が生まれる。つまり、ある生薬の成分が特定の成分に作用して薬理作用、吸収促進、代謝阻害、相互作用、副作用防止などをするのである。
このように相互作用を利用することで、副作用を軽減したり薬の作用を変化させたりしている。例えば、桂枝加芍薬湯は過敏性腸症候群に使用されるが、これに水あめを加えると小児の便秘、夜泣き、夜尿症に使用する小建中湯となる。
・方向転換
他にも、このような相互作用の違いを利用したものに麻黄湯と麻杏甘石湯がある。麻黄湯に配合されている桂皮の代わりに石膏を使うと麻杏甘石湯となる。
麻黄湯はかぜに使用し、汗を出させる作用がある。それに対し、麻杏甘石湯は気管支喘息などに使用し、汗を止める作用がある。一つの生薬が違うだけで作用が全く異なるのである。
同病異治と異病同治
・同病異治(どうびょういち)
同じ病気でも症状によって異なる漢方を処方することがある。これを同病異治という。例えば、同じかぜでも汗が出る場合は桂枝湯を使い、汗がでない場合は葛根湯を使う。他にも胃腸が弱い、体力の低下など症状によってさまざまな漢方を処方する。
・異病同治(いびょうどうち)
一つの漢方薬は異なるさまざまな種類の症状を改善することができる。これを異病同治という。例えば、葛根湯はかぜ、首の後部のこり、頭痛などに使用することができる。
漢方と証
漢方薬は薬であるので、効きやすいヒトと効果の出にくいヒトがいる。これには証が関係している。証とは患者がもつ病状を漢方医学によって総合的にとらえた診断である。ここでは、証の診断の一部を紹介したいと思う。
・虚実
これはヒトの病態を虚症、実症で判断する診断である。虚実にはそれぞれ生気と邪気があり、これのバランスによって病態が決まる。生気と邪気のバランスがとれているときが健康な状態である。
生気は抗病力を表し、これが小さくなると虚症となる。また、生気はそのままでも邪気が強くなると実症となる。虚症、実症の両方とも邪気側に傾いていることが理解できる。
漢方はこのバランスを正常な状態に戻そうとする。つまり虚症なら生気を補い、実症なら邪気を取り除こうとする。
・気血水
気血水の理論は日本で確立されたものである。これは、気・血・水の3つの要素によって病態が決まるというものである。
気:精神や生命力などの目に見えないもの
血:体を潤し栄養を与えている、赤色の体液
水:体を潤し栄養を与えている、無色の体液
血の流れに停滞をきたした病態を特にお血(おけつ)という。
君臣佐使
漢方薬において、生薬は君臣佐使に基づいて配合されている。
君:治療の中心となる生薬
臣:君薬の効果を高める
佐:君薬・臣薬の作用の副作用や毒性を和らげる
使:配合している生薬の調和や飲みやすくするなどの役目
EBM(根拠に基づく医療)
漢方薬は何千年もの経験から、その効果が科学的に証明されていなくても使用されてきた。西洋医薬品では動物実験や臨床実験をしないといけない。しかし、漢方薬では動物実験や臨床実験が免除されていたのである。
最近では「根拠に基づく医療」ということでEBMが提唱された。つまり、その漢方薬に本当に効果があるかどうかを科学的に証明するのである。
しかし、EBMの判断基準は西洋医学的なものなのであり、漢方薬がその評価方法に馴染ないため「科学的根拠がない」と誤解されることがある。
漢方薬もその効果を科学的に十分に確かめ、医療に生かすことが大切である。
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