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役に立つ薬の情報~専門薬学

五苓散の効能:嘔吐、下痢、浮腫(むくみ)、二日酔い

 

浮腫(むくみ)や吐き気、下痢など、水分が関わる疾患は多くの人が経験する身近な病気です。これら水分の調子を整えることで、先に挙げた症状を改善する漢方薬として五苓散(ごれいさん)が知られています。

 

五苓散は体内に溜まっている無駄な水分を排泄する役割があります。五苓散をむくみや二日酔いに対して使用するのは、五苓散にこのような水分調節機能があるからです。

 

五苓散(ごれいさん)と体質

 

漢方薬では、その人の見た目や症状を重要視します。検査値だけではなく、患者さんの様子から「どの薬を使用するのか」を決定するのが漢方薬です。五苓散であれば、次のような人が有効です。

 

・口渇(のどの渇き)
・尿量が減少している(トイレの回数が少ない)

 

これらの様子を呈している上で、悪心・嘔吐、下痢、浮腫(むくみ)、めまい、頭痛、二日酔いなどの症状を改善します。これらの症状に効果を有することから、お酒を飲んだ後の吐き気や車酔い・船酔いなどに対して応用されることもある漢方薬です。

 

嘔吐、下痢、浮腫(むくみ)、頭痛など水分停滞によって生じる症状に活用されます。

 

五苓散は、漢方の古典である「傷寒論(しょうかんろん)」や「金匱要略(きんきようりゃく)」にも記載されている薬です。これを現在では、服用しやすい顆粒剤などにして商品化されています。

 

五苓散の作用

 

水分調節を行う五苓散の働きには、そこに含まれている生薬(しょうやく)が大きく関わっています。生薬は植物由来の天然成分であり、五苓散には以下の5種類の生薬が含まれています。

 

・猪苓(ちょれい)
・茯苓(ぶくりょう)
・蒼朮(そうじゅつ)
・沢瀉(たくしゃ)
・桂皮(けいひ)

 

これらを組み合わせることにより、嘔吐や下痢などの症状を和らげる薬が五苓散です。5つの生薬から構成されており、さらに生薬の一つである猪苓(ちょれい)の「苓」の字を取って五苓散と呼ばれます。

 

猪苓には利尿作用や消炎・解熱作用があり、茯苓は滋養、鎮静、血糖降下の働きがあります。蒼朮は水分停滞を改善することで利尿、発汗作用によって胃腸の調子を整えます。また、沢瀉は余計な水分を排泄させ、桂皮は血行を改善することで頭痛、のぼせ、ほてりを改善させます。

 

薬の効果を調べる試験では、アルコールの代謝を改善させる作用、利尿作用(尿をたくさん出させる作用)、消化管の運動更新作用などが動物実験などで確認されています。

 

五苓散の使用方法・飲み方

 

五苓散を投与するとき、成人では「1日7.5gを2~3回に分けて、食前または食間に経口投与する」とされています。食間とは、食事中という意味ではなく、食事と食事の間を意味します。つまり、食後から2時間経過した、胃の中が空の状態を指します。

 

ただ、食前や空腹時(食間)での服用が難しい場合は食後に五苓散を飲んでも問題ありません。なお、年齢や体重によって減量や増量をすることがあります。

 

通常、漢方薬では投与対象の体力(虚弱である、体力旺盛であるなどの証)を見極めます。ただ、五苓散の場合は、患者さんの体力(体質)に関わらず使用することができます。

 

これら五苓散としては、

 

・浮腫(むくみ)、口渇、下痢、悪心・嘔吐(吐き気)
・めまい、頭痛
・尿量の減少
・二日酔い、車酔い、船酔い

 

などの症状に有効です。通常は、水分代謝に異常が起こっている人に対して五苓散が利用されます。このような特徴により、水が関わる疾患に対して広く使用される漢方薬が五苓散です。

 

水分貯留を含め、水が関わる疾患は数多く存在します。例えば、ネフローゼ(尿中にタンパク質が出ることで浮腫・むくみを生じる)、腎炎、メニエール病なども水分が関係しているため、五苓散を活用することで症状を改善させます。その他、急性胃腸カタル、胃内停水、尿毒症、暑気あたり、糖尿病にも用いられます。

 

五苓散はツムラ(17番)やクラシエ、コタロー、オースギなど多くのメーカーが発売しています。医療用医薬品だけでなく、市販薬(一般用医薬品)としてドラッグストアなどで購入することもできます。

 

 

五苓散の副作用

 

五苓散は副作用の少ない薬ですが、少数ながら副作用が報告されています。五苓散の副作用としては発疹・薬疹、発赤、かゆみ、肝機能異常などが知られています。重大な副作用はなく、安全性の高い薬だといえます。

 

利尿作用を示す薬ですが、便秘や頻尿などの副作用は確認されていません。

 

また、五苓散では禁忌や薬同士の飲み合わせ(相互作用)がなく、基本的にはどの薬と併用しても問題ありません。

 

例えば、利尿薬として多用される薬にラシックス(一般名:フロセミド)があります。五苓散とラシックスを併用することについて、飲み合わせはありません。

 

高齢者への使用

 

高齢者は一般的に生理機能が低下しているため、薬の作用が強く表れやすいです。ただ、五苓散は安全性の高い薬であるため高齢者であっても多用されます。長期投与しても大きな問題になることは少ないです。

 

生理機能の低下が原因で下痢やめまい、頭痛、吐き気などの症状を訴えることもあるため、こうしたときに五苓散を用います。

 

小児(子供)への使用

 

小児に対して五苓散を用いることについて、安全性が確立されていないとされています。ただ、実際には子供に対して五苓散は頻用されます。例えば、急性胃腸炎によって嘔吐があり、のどの渇きを訴える場合は五苓散がよく用いられます。

 

また、感染性胃腸炎(食中毒やノロウイルス・ロタウイルスなど)による嘔吐や下痢、腹痛・胃痛に対しても五苓散を活用します。食中毒やノロウイルス・ロタウイルスの治療は対症療法しかありませんが、小児に五苓散を処方することで症状を緩和させるのです。

 

五苓散によって食中毒やノロウイルスを予防することは難しいですが、症状を快方へ向かわせることができます。なお、胃腸炎の中でもしぶり腹(残便感があり、腹痛を繰り返す症状)には使用しません。

 

このとき、年齢によって投与量(小児用量)が異なります。

 

・7~15歳未満:成人の2/3
・4~7歳未満:成人の1/2
・2~4歳未満:成人の1/3
・2歳未満:成人の1/4以下

 

また、何歳からでも五苓散を服用でき、赤ちゃんであれば次の用量になります。

 

・1歳:成人の1/4
・6ヶ月:成人の1/5
・3ヶ月:成人の1/6
・新生児:成人の1/8

 

漢方薬なので味は例外なくマズいですが、服薬ゼリーを活用するなど工夫すれば子供であっても服用することができます。

 

小児科クリニックや調剤薬局によっては、五苓散の坐薬を作っていることがあります。使い方としてはお尻から挿入するだけなので、たとえ幼児や乳児などで服薬が難しくても使用することができます。

 

妊婦・授乳婦への使用

 

妊娠中の人についても安全性は確立していないとされていますが、安全性の高さから妊婦に対して五苓散を用いても問題ありません。妊娠初期の服用による催奇形性などを含め、胎児に影響はありません。

 

妊娠後期になると、つわりを含め吐き気や浮腫(むくみ)、頭痛などを生じることがあります。水溶性の嘔吐など、つわりのときに水に関する症状が表れやすくなるので、このときは五苓散が活用されます。産婦人科で五苓散を処方されることがあるのは、つわりなどこうした症状を改善させるためです。

 

また、妊娠高血圧症候群に対して利尿作用のある五苓散を活用することもあります。

 

授乳中の方についても同様に五苓散を服用して問題ありません。妊娠中に五苓散を飲んでも大丈夫だったのと同じように、授乳婦であっても安心して服用できる薬です。

 

赤ちゃん(新生児)であっても五苓散を服用することがあるため、その点からも母乳育児を行っても問題ないことが分かります。

 

 

五苓散の活用・注意点とその他の漢方薬

 

漢方薬は作用が穏やかで即効性がないと考えられがちですが、症状が合えばすぐ効くことがあります。これについては、五苓散も同様です。

 

五苓散が活用される場所は幅広く、さまざまな疾患に対して用いられます。例えば、梅雨を含め雨の続く日では湿度が高くなり、体内に水分が停滞しやすいです。こうした梅雨の季節(雨が続くケース)による体調不良では五苓散が用いられます。

 

体内での水滞(水分停滞)は水毒(すいどく)・痰飲(たんいん)と呼ばれ、水分の代謝障害が起こっている状態を指します。痰飲については、舌が大きく、舌に苔(舌苔)が厚くついた状態になります。そこで五苓散を活用すれば、症状が改善します。

 

それ以外にも五苓散は多くの場面で活用されますが、実際にどのような症状に用いられるのかについて、以下でさらに詳しく確認していきます。

 

アルコール(お酒)による二日酔い

 

五苓散を用いるとき、多くの人によって最も効果的な活用法としては「二日酔い」があります。五苓散はお酒を飲む場で頻用されます。

 

飲酒をするときはビールやワイン、日本酒などあらゆるアルコールを体内に取り入れることになります。そうした水分を効果的に外へ排出し、二日酔いによる頭痛や吐き気などを予防するのです。

 

それでは、二日酔いを防止するために五苓散をいつ飲むと効果的なのかというと、飲酒前のタイミングです。アルコール(お酒)を飲む前にあらかじめ五苓散を服用しておくことで、効果的に水分を排泄するようにします。

 

もちろん、飲酒後や二日酔いが生じてしまったときに五苓散を飲んでも問題ありません。吐き気がある場合、冷水と一緒に飲むと服用しやすいです。

 

五苓散は胃腸薬というわけではなく、酔い止めの薬というわけでもありません。五苓散を飲酒前のタイミングで服用することで、「お酒を飲んでも酔わない」というわけではありません。あくまでも体内の水分貯留を改善させて二日酔いを予防・緩和する薬だといえます。

 

・二日酔いに効くその他の漢方薬

 

なお、同じように二日酔いに対して活用される漢方薬として黄連解毒湯(おうれんげどくとう)があります。実証(体力のある人)で暑がりの人に用いられ、飲み会の前に黄連解毒湯を服用することで二日酔いを予防します。

 

黄連解毒湯は高血圧や不眠症、めまいなどに活用されますが、二日酔いを防止するためにも利用されます。

 

他には、二日酔いを含め胃腸トラブルを解消するために「五苓散+半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」を用いることがあります。半夏瀉心湯も二日酔いに効果的です。半夏瀉心湯は消化不良、胃炎、口内炎などに活用されます。

 

また、お腹の張りや胃炎、胸やけ・逆流性食道炎などに六君子湯(りっくんしとう)を用いますが、六君子湯と五苓散を併用して胃腸症状を改善させることもあります。

 

頭痛へ活用される五苓散

 

頭痛に対しても、五苓散は広く用いられます。頭痛には片頭痛(脈拍に合わせてズキンズキンと痛む頭痛)、緊張型頭痛(頭が締め付けられるような頭痛)、群発頭痛(目のを奥がキリキリと痛む)などがあります。

 

このうち、片頭痛に対して五苓散が活用されますが、もともとは緊張型頭痛の薬として用いられていました。

 

また、頭痛は季節の変化によって表れやすく、例えば低気圧(気圧の低下)によって頭痛を生じることがあります。低気圧によって片頭痛や頭重を生じたときも五苓散が効果的です。

 

低気圧による頭痛に効果的なことから、五苓散は高山病や飛行機での耳鳴り・耳痛(航空性中耳炎)にも有効です。高山病も飛行機での耳鳴りも低気圧によって起こるため、山登りや搭乗の前に五苓散を服用することで高山病や飛行機での耳鳴りを予防します。

 

なお、頭痛には鎮痛剤を活用することがあります。このときはロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)やバファリン配合錠などの解熱鎮痛剤を用いることがあれば、トリプタン製剤を活用することもあります。五苓散をうまく活用すれば、こうした鎮痛剤の服用回数を減らすことができます。

 

むくみ解消に五苓散を活用する

 

顔や手足を含め全身の浮腫(むくみ)を解消のために五苓散を服用することがあります。

 

こうした浮腫に対して、がん治療の補助に活用することもあります。がんによって過剰の水がたまり、胸水や腹水、急性の下痢を生じることがあります。この場合は治療の補助として、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と併用して五苓散を活用し、むくみを解消させます。

 

また、生理前(月経前)では体がむくみ、イライラ、肌荒れ・ニキビなどが表れる月経前症候群(PMS)を発症することがあります。ホルモンバランスの変動により、どうしても生理前や生理中にむくみを生じてしまうのです。

 

このとき、普段からのどが渇いて尿の出が悪い場合に五苓散を活用すると、生理前や生理中のむくみを緩和できます。

 

産後についても、下半身(足)がむくみやすくなり、顔や手指まで浮腫を生じる人がいます。こうした産後のむくみに対しても、五苓散が活用されます。

 

なお、月経前症候群(PMS)に対しては以下のような漢方薬が活用され、五苓散と併用して用いることがあります。

 

・温経湯(うんけいとう):血行を改善して体を温め、生理不順、生理痛、更年期障害、不妊症を改善する

 

・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):比較的体力のある人に活用し、血行を改善して生理不順や生理痛を改善する。子宮内膜症やニキビ、シミなどにも用いられる

 

・加味逍遥散(かみしょうようさん):虚証(体力がない)で冷えのある人に用いられ、イライラや不安感、抑うつなど自律神経症状に用いられる

 

・桃核承気湯(とうかくじょうきとう):比較的体力があり、のぼせて便秘のある人の中で月経不順、月経時・産後の精神不安、腰痛などに活用される

 

中には、生理周期を整えるためにピルを飲んでいる人がいます。そうした場合、ピルと五苓散を併用しても飲み合わせはありません。

 

・むくみに利用される漢方薬

 

ちなみに、むくみに対しては五苓散の他にも活用されます。例えば、五苓散に茵陳蒿(いんちんこう)を加えた茵陳五苓散(いんちんごれいさん)であれば、五苓散では使用されない「熱感のある人」が適応になります。茵陳五苓散はむくみ以外にも、じんましんも解消します。

 

また、腰の冷えや腰痛など下半身が弱く、主に下半身がむくんでいる人であれば真武湯(しんぶとう)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)が活用されます。真武湯は下痢や腹痛のある冷え性の人に向き、牛車腎気丸は足腰の冷えや痛み、しびれ、夜間頻尿なども用いられます。

 

他には、冷え性や貧血、肩こり、不妊症など産婦人科で多用される当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)もむくみに効果的です。当帰芍薬散の場合は、生理痛にも作用を発揮します。

 

さらに、水太りとむくみが気になる場合、汗かきの人へ防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)を用います。防己黄耆湯は関節の水を取るため、関節リウマチに用いることがあります。

 

なお、むくみに対して五苓散を活用するとき、利尿作用によって体内に水分排泄を促すことで浮腫を緩和するため、水分が抜けた分だけ体重減少をもたらすことがあります。要は「痩せる」ようになるわけですが、脂肪を燃焼させたわけではないのでダイエットに向く漢方薬ではありません。

 

皮膚科・耳鼻科・小児科で活用される五苓散

 

漢方薬は皮膚科や耳鼻科、小児科などでも用いられます。例えば子供の「水いぼ」であれば、水の流れが滞っている(水滞)と捉え、五苓散を服用します。

 

このときはヨクイニン(薏苡仁)というイボに効く漢方薬と併用します。ヨクイニンはイボ取り以外にも、肌荒れを含め美容目的で活用されることもあります。

 

また、五苓散をアレルギー症状に活用することもあります。アレルギー症状としては、皮膚にかゆみを起こす「アトピー性皮膚炎」や、鼻水・鼻詰まり・目のかゆみなどの症状を訴える「アレルギー性鼻炎(花粉症)」があります。

 

これらアトピー性やアレルギー性鼻炎(花粉症)では、体内の水分の偏りによって症状が生じていると漢方では考えます。そこで、例えば花粉症では小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を多用しますが、これで解消されない場合は五苓散を用いるケースがあるのです。

 

・低音難聴への使用

 

なお、五苓散はめまいや耳鳴り、難聴(耳詰まり)を引き起こすメニエール病に対して利用されます。メニエール病では内耳のリンパ液が増えて水ぶくれ状態になり、内リンパ水腫に陥っていることで症状が起こります。

 

そこで、利尿作用によって内リンパ水腫を改善させることでメニエール病によるめまいや耳鳴りを改善させます。

 

さらに、内リンパ水腫によって低音難聴を生じることがあります。そこで、水分を外に出すイソバイド(一般名:イソソルビド)や炎症を抑えるステロイド剤プレドニン(一般名:プレドニゾロン)、神経を改善するメチコバール(一般名:メコバラミン)などを用いると共に五苓散も処方されることがあります。

 

ただ、同じ耳詰まりであっても、耳管がずっと開いた状態になっている「耳管開放症」に対しては、耳管の血流を改善させる加味帰脾湯(カミキヒトウ)が利用されます。加味帰脾湯は貧血やうつ病、パニック症(不安障害)、ストレスによる緊張、不眠症などにも用いられます。

 

風邪症状への活用

 

風邪症状にも五苓散が有効です。ただ、いわゆる咳症状を抑えるわけではなく、下痢や吐き気を伴うお腹の風邪(胃腸風邪)に活用されます。熱があるものの、のどが渇いて尿量の少ない場合が適応です。

 

吐き気に対してはナウゼリン(一般名:ドンペリドン)やプリンペラン(一般名:メトクロプラミド)を用いることが多いです。また、整腸剤であるビオフェルミンやビオスリー、ミヤBMなどが用いられますが、こうした薬と併用しても問題ありません。

 

また、肩こりのある風邪の初期では葛根湯(かっこんとう)が多用され、痰が絡むかわいた咳を伴う場合は麦門冬湯(ばくもんどうとう)が利用されるなど、他の漢方薬が活用されます。同じ風邪であっても、症状に合わせて漢方薬を使い分けていきます。

 

ただ、葛根湯と五苓散を併用するなど、両者を用いることもあります。

 

多汗症の症状を改善する

 

体内の水分停滞によるトラブルは他にもあります。手汗や寝汗を含め、大量の汗をかく多汗症はその一つです。こうしたとき、五苓散を活用します。

 

例えば夏バテになってのどが渇いている人の場合、五苓散を服用することで多汗症が改善されることがあります。手汗や寝汗も水の滞りが悪くなった状態だと考え、漢方薬を活用するのです。

 

慢性硬膜下血腫の治療

 

脳神経外科でも五苓散が利用されます。その中でも、慢性硬膜下血腫に対して五苓散が有効だとされています。

 

何らかの理由で脳内出血してしまうことがあります。このときは血液によって脳圧が高くなってしまい、危険な状態に陥ってしまいます。そこで、手術によって脳内にたまった血液を取り除くのが基本です。

 

脳は頭蓋骨によって守られていますが、このときは外側から「硬膜、クモ膜、軟膜」という3つの膜によって守られています。このとき、どの場所から脳内出血するのかによって、硬膜下血腫やくも膜下出血などと名前が変わります。

 

ただ、中には頭を強く打ったなどの外傷がないにも関わらず、脳内出血する慢性硬膜下血腫があります。慢性硬膜下血腫では物忘れや歩行障害など認知症と似た症状が表れますが、血腫を取り除くことで認知症症状は治ります。

 

しかし、中には理由があって手術を行えなかったり、手術後の再発・脳浮腫を予防したりするときに五苓散を用いることがあります。また、慢性硬膜下血腫の手術後ではケタス(一般名:イブジラスト)も血腫の自然消滅を促すため、五苓散と共に服用されます。

 

なお、脳腫瘍による浮腫(脳浮腫)に対して五苓散が有効だという報告があります。

 

猪苓湯との使い分け

 

多くの疾患に用いられる五苓散ですが、他にも漢方薬は存在します。そこで、患者さんの体質(証)や症状によって使い分けをしていきます。

 

例えば、五苓散と似た漢方薬として猪苓湯があります。猪苓湯は体力に関係なく使用でき、のどの渇きや尿量減少の人に用いられます。

 

猪苓湯の場合、排尿障害(尿閉)、膀胱炎、尿道炎、腎石症(尿路結石)、血尿、残尿感などに活用されます。両者を比較すると、五苓散ではむくみや頭痛など水毒によって起こる全身症状に活用され、猪苓湯では腎臓など泌尿器に関わる疾患に用いられます。

 

なお、頻尿、排尿痛、残尿感などの排尿異常に活用される漢方薬に五淋散(ごりんさん)があります。五淋散も猪苓湯と同じように、泌尿器系の症状を改善させます。

 

さまざまな症状に活用される五苓散

 

その他、五苓散では他にも意外な活用法が存在します。例えば、眼科領域でも用いられます。

 

緑内障など、高眼圧症をある人に五苓散を活用することで、眼圧がコントロールされて正常化したという報告があります。

 

また、顔面神経麻痺、三叉神経痛、坐骨神経痛など痛みやしびれを有している人がいます。三叉神経痛、坐骨神経痛に五苓散が聞くという報告があります。五苓散は整形外科でも活用されるのです。

 

人工透析患者など、腎機能が低下している人に五苓散を投与することにより、こむらがえり(足がつる症状)を改善させたという報告もあります。

 

※こむらがえりを解消する漢方薬としては芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が有名です。マラソンなどスポーツ時に足がつったり、日常生活の中で足のけいれんが起こったりするのを防止します。

 

基本的には「口渇があり、尿量が減少している人」であれば五苓散が効果的です。例えば、五苓散が糖尿病患者に用いられるのは「血糖値の上昇によって口渇や尿量減少の症状が起こる」からなのです。

 

ただ、軟便や下痢をしやすい体質を変えるなど、五苓散は必ずしも体質改善効果を有する薬というわけではありません。ただ、嘔吐、下痢、浮腫(むくみ)、二日酔いに限らず、あらゆる症状に対して利用される漢方薬です。

 

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