大建中湯の効能:腹部の冷え、腹痛、腸閉塞(イレウス)
お腹が冷えたり腹部膨満感を感じたりするなど、胃腸の働きが弱くなっている人がいます。このような状態であると、お腹をこわしやすくなります。そこで、胃腸が弱っている人に対して利用される漢方薬に大建中湯(だいけんちゅうとう)があります。
大建中湯には、胃腸の機能を回復させる働きがあります。これにより、体の冷えを改善させたりお腹の張りを解消させたりします。
大建中湯(だいけんちゅうとう)と体質
漢方薬では、その人の見た目や症状を重要視します。検査値だけではなく、患者さんの様子から「どの薬を使用するのか」を決定するのが漢方薬です。大建中湯であれば、次のような人が有効です。
・体力が虚弱(虚証)
・四肢や腹部が冷える
・腹痛がある
・腹部膨満感がある
お腹が冷えて痛みを伴う状態というのは、胃腸の働きが弱くなっている状態ともいえます。そこで大建中湯を投与すると、消化管の運動を改善させることができます。ただ、冷えに対して使用することから分かる通り、炎症があったり胃に熱があったりする人に大建中湯は適しません。
例えば、同じ便秘であっても高齢であったり体力がなかったりする人の便秘には麻子仁丸が活用されます。ただ、同じように体力のない虚証の人であっても、お腹に張りのある人は大建中湯が活用されます。
なお、漢方の古典である「金匱要略(きんきようりゃく)」に大建中湯が記載されています。金匱要略は漢方の原点ともいえる最古の古典です。
大建中湯の作用
胃腸の状態を改善させる大建中湯には、生薬(しょうやく)と呼ばれる天然由来の成分が含まれています。これら生薬としては、以下の3種類が配合されています。
・人参(にんじん)
・山椒(さんしょう)
・乾姜(かんきょう)
これらを組み合わせることで、消化器症状に対応します。人参(にんじん)には、胃腸の働きを強めるなどの滋養強壮作用が知られています。また、山椒(さんしょう)や乾姜(かんきょう)には、体の冷えや消化機能を改善させる働きがあります。これら生薬の作用により、大建中湯の効果が表れます。
薬の作用を調べる試験でも、消化管運動の促進や腸管の血流増加作用、消化管ホルモンの分泌促進などがヒトで確認されています。漢方薬は経験的に使われる傾向があるものの、大建中湯は臨床試験などが実施されており、確かな効果(エビデンス)が示されています。
大建中湯が効果を示す作用機序としては、消化管運動を促すアセチルコリンという物質の分泌を促進させる働きが確認されています。また、炎症を引き起こす物質(COX-2)の働きを阻害する作用も確認されています。
西洋薬のように、特定の機能に働きかけるわけではないため、大建中湯の作用機序はすべて解明されているわけではありません。ただ、このように消化管機能の改善や抗炎症作用が確認されています。
大建中湯の使用方法・飲み方
大建中湯を投与するとき、成人では「1日15gを2~3回に分けて、食前または食間に経口投与する」とされています。食間とは、食事中という意味ではなく、食事と食事の間を意味します。つまり、食後から2時間経過した、胃の中が空の状態を指します。
ただ、吐き気があったり食欲がなくなったりする場合、食前や食後など自分にとって都合の良いタイミングで服用しても問題ありません。
慎重に使用すべき対象としては、「肝機能障害のある人」が該当します。大建中湯の投与により、症状を悪化させる恐れがあるからです。
これら大建中湯としては、
・腹部の冷え、痛み
・お腹の張り(腹部膨満感)
・下痢、便秘
・腸閉塞(イレウス)
などの症状に有効です。腸管の手術をした後では、腸の一部が急激に狭くなったりねじれたりすることがあります。このような状態に陥ると食べ物が腸の中を通れなくなり、次第に溜まっていきます。その結果、激しい腹痛を生じるようになります。これを、腸閉塞(イレウス)といいます。
大建中湯には、腸閉塞(イレウス)の予防効果が知られています。また、腸閉塞を素早く改善させることも示されています。そのため、病院などで腸管の手術を行う場合は、しばしば大建中湯が処方されます。
腸閉塞(イレウス)を生じる原因としては、大腸がんなどの手術後の癒着などによって生じる「術後癒着性イレウス」があれば、腸運動の麻痺によって生じる「術後麻痺性イレウス」もあります。これら腸運動の障害によって生じる腸閉塞(イレウス)に大建中湯が効果的です。
大建中湯の効果が表れる期間としては、人によって異なりますが数時間から数日ほどです。ただ、イレウスの改善など症状が重篤になるほど長期間服用して様子を見る必要があります。
大建中湯はツムラ(100番)やクラシエ、コタローなどさまざまなメーカーが発売しています。ドラッグストアなど一般用医薬品(市販薬)としても販売されています。
ツムラなど医療用医薬品の場合はエキス顆粒となっています。市販薬であってもエキス顆粒(エキス細粒)がほとんどです。
過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎への大建中湯
胃腸症状を引き起こす病気は多いです。例えば、ストレスによって下痢や便秘を繰り返す疾患として過敏性腸症候群(IBS)があります。こうした疾患へも大建中湯が活用されます。
お腹の痛みについて、胃腸のけいれんを鎮める薬としてブスコパン(一般名:ブチルスコポラミン)があります。過敏性腸症候群にブスコパンが活用されることがあり、この薬と大建中湯を併用しても問題ありません。
また、大建中湯は潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんに投与されることがあります。潰瘍性大腸炎やクローン病では腸内で炎症が起こっており、結果として腸内が狭窄(狭く)の状態になっていたり、癒着していたりすることがあります。そこで、大建中湯を活用するのです。
大建中湯と飲み合わせ
大建中湯は下痢や便秘の人に活用されます。どちらにも効果を示しますが、「どちらの方がより効果が強い」というものではありません。西洋薬とは異なり、漢方薬ではその人の体質によって使い分けされるからです。
例えば、お腹が冷えることで下痢を生じる人がいれば、冷えによって便秘になる人もいます。こうした人であれば、下痢止めであっても便秘改善であっても、どちらの効果も期待できます。
特に便秘の改善であれば、マグミット、マグラックス(一般名:酸化マグネシウム)やプルゼニド(一般名:センノシド)などの西洋薬が多用されます。こうした便秘薬と大建中湯を併用しても大丈夫です。
また、モルヒネなど「がん疼痛を抑えるために活用される薬」の副作用として便秘を生じることがあります。がん治療では抗がん剤だけでなく、がん疼痛など緩和ケアも重要になります。そして、こうした「モルヒネの副作用によって生じる便秘」に対しても大建中湯が活用されます。
プルゼニドなどの刺激性下剤では連用によって耐性を生じることがあります。ただ、大建中湯の場合は何度も薬を使用することによる耐性を考えなくても問題ありません。
また、腹部膨満感によってお腹がゴロゴロしたり、ガスが溜まっていたりする症状(お腹の張り)にも効果的です。飲みすぎや食べ過ぎなど、お腹の異常に対して大建中湯は有効です。
胃腸の働きを活発にすることで吐き気・嘔吐、食欲不振、膨満感、胸やけを改善する薬としてガスモチン(一般名:モサプリド)が知られています。お腹のゴロゴロやガスが溜まったお腹を改善するため、ガスモチンと大建中湯を併用することはありますが、この場合も問題ありません。
なお、下痢や便秘では整腸剤としてビオフェルミン、ビオスリー、ミヤBMなどの腸内細菌を投与することがあり、これらとの併用も大丈夫です。
ちなみに、便秘によってお腹に毒素がずっと溜まっていたり、腸内環境が悪かったりすると肌にニキビなどの症状を生じることがあります。そのため、お腹が張って冷えがあり、さらには便秘の人は大建中湯によって便秘解消と共にニキビが改善されることがあります。場合によっては、大建中湯は美肌にも効果的なのです。
併用注意・併用禁忌の薬
それでは、大建中湯に併用注意・併用禁忌の薬はあるのでしょうか。実は、大建中湯には粉末飴(水飴)が含まれています。そのため、漢方薬であるので基本的に味はまずいものの、服用するときは少し甘いです。このときの水飴はマルトースやデキストリンなどの二糖類です。
糖尿病の治療薬として、「糖の吸収を抑える薬」が存在します。こうした薬としてはベイスン(一般名:ボグリボース)、グルコバイ(一般名:アカルボース)、セイブル(一般名:ミグリトール)などが知られています。ベイスン、グルコバイ、セイブルは「二糖類から単糖類へと分解される過程」を阻害することにより、その効果を発揮します。
大建中湯には二糖類が含まれているため、二糖類がなかなか腸内で分解されなくなります。その結果、腸内での発酵が進んで臭いオナラがたくさん出るようになります。また、大建中湯を服用することで、二糖類が分解されずよけいガスが溜まってしまうこともあります。
ベイスン、グルコバイ、セイブルの副作用を強めてしまう恐れがあるため、こうした糖尿病治療薬と大建中湯を併用する場合は注意が必要です。
小青竜湯の小児・妊婦への使用
小青竜湯は子供にも活用されます。このとき、年齢によって投与量(小児用量)が異なります。
・7~15歳未満:成人の2/3
・4~7歳未満:成人の1/2
・2~4歳未満:成人の1/3
・2歳未満:成人の1/4以下
また、赤ちゃんであれば次の用量になります。
・1歳:成人の1/4
・6ヶ月:成人の1/5
・3ヶ月:成人の1/6
・新生児:成人の1/8
このように小児に対しても大建中湯は活用されます。
また、安全性が高いので妊婦であっても処方されることがあります。授乳婦であっても、問題なく服用できます。妊娠中であっても服用できる薬が大建中湯であり、このときは水と一緒に服用してもいいし、お湯に溶かして飲んでも問題ありません。
もちろん、漢方薬である以上は体質によって合う合わないがあるため、実際に飲んでみて合わないようであれば服用をやめる必要があります。
大建中湯の副作用
安全性は高かったとしても、漢方薬であっても副作用は存在します。これについては、大建中湯であっても同様です。
大建中湯の副作用としては、肝機能障害が知られています。肝臓の検査値に異常が表れることがあるのです。また、お腹に働きかけることから腹痛、悪心・嘔吐、下痢、便秘、腹部膨満、胃部不快感などの消化器症状も報告されています。
重篤な副作用としては間質性肺炎が知られています。咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常が見られた場合は薬の使用を中止します。また、肝機能障害が進んで黄疸を生じるようになることもあります。
さらに、お腹に溜まったガスを含め腹部膨満感に効果を示すため、大建中湯を服用するとそれらガスを排泄するために最初は臭いオナラを生じるようになることがあります。オナラが出ることについては、お腹の症状が治まるにつれて改善していきます。
このような特徴により、お腹の冷えや痛み、腹部膨満感だけでなく、手術後に起こる腸閉塞(イレウス)の予防まで期待して投与される漢方薬が大建中湯です。胃腸炎、胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛など幅広い消化器症状に大建中湯が有効です。
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