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役に立つ薬の情報~専門薬学

DNAの複製

 

DNAの情報は親から子孫に受け継がれ、そのDNAは完璧な複製されないといけない。DNAの合成・複製過程は複雑であるため、間違ったDNAの複製が起きた場合はそれを正す機能が働く。

 

なお、ここで記述している内容は「細菌」での場合である。

 

 複製開始点
細菌の場合、DNAの複製開始点(ori C)は一ヶ所である。つまり、DNAのある一点から順々に複製が開始されるのである。

 

この複製開始点は特徴的な配列を有しており、245bp(ベースペアー)からなっている。[bp:塩基対、塩基配列の長さを表す]

 

DNAの複製が行われるにはフォーク(複製フォーク)の形成が必要である。フォークは二本鎖DNAの水素結合が解離することで形成する。このフォークが形成されることで複製が可能となる。

 

 フォーク形成

 

それでは、次にフォークはどのようにして形成するかを説明する。

 

 1. ねじれの解消
DNAの二本鎖はまっすぐではなく、らせん構造をとっている。つまり、「ねじれ」や「ひずみ」が生じている。これらの立体構造を解消しないかぎり、DNAの複製は物理的に困難である。

 

DNAの立体構造を変化させる酵素にトポイソメラーゼがあり、それにはⅠ型とⅡ型が存在する。

 

Ⅰ型トポイソメラーゼはDNAの二本鎖のうち一本鎖だけを切断した後、切断したDNAを再結合する。Ⅱ型トポイソメラーゼは二本鎖を切断し、再結合させる。なお、Ⅱ型トポイソメラーゼはDNAジャイレースとも呼ばれている。ちなみに、キノロン系抗生物質はこのDNAジャイレースをターゲットとしている。

 

この働きによってトポイソメラーゼはDNAのねじれの構造(超らせん)を解消する。つまり、「ねじれ」の数を減少させている。

 

ただし、トポイソメラーゼはねじれを解消するだけである。この時点では、まだDNA間の水素結合は切れていない。

 

 トポイソメラーゼの作用

 

 2. フォークの形成
ねじれを解消しDNAの複製を行いやすくすると、次にDnaAタンパク質が複製開始点を認識する。複製開始点を認識したDnaAタンパク質はDNAのらせんを巻き戻す。「巻き戻す」とは「塩基対をほどく」ということである。

 

その後、ヘリカーゼ(DnaBタンパク質)が水素結合を切断し、DNAを巻き戻す。これらの酵素の働きによって、二本鎖DNAを一本鎖DNA二本にする。
  二本鎖DNA → 一本鎖DNA×2

 

 3. 再結合の防止
DNAを一本鎖にしたのはいいが、早期に二本鎖へ戻ってしまうのでは都合が悪い。そこで、二本鎖DNAに戻らないようにSSBが結合する。SSBが結合することで一本鎖の状態が保たれる。

 

 DNAの複製
DNAの複製はDNAポリメラーゼ(DNA polymerase)が行う。複製するときはDNAを3´→5´の方向に読み取り、新しく作られるDNAは5´→3´の方向で作成される。合成されるのはデオキシヌクレオチド(dATP、dGTP、dTTP、dCTP)である。

 

また、複製はDNAポリメラーゼだけでは開始されない。複製開始にはお手本が必要であり、このお手本部分をプライマー(RNA断片)という。つまり、複製開始には複製開始部分に前もってプライマーが作成されていないといけない

 

プライマーは短いRNA断片であり、RNAポリメラーゼの一種であるプライマーゼという酵素によって作られる。なお、このようにプライマーがDNAと結合することをアニーリングという。

 

 DNA複製 (プライマーとアニーリング)

 

DNAポリメラーゼは5´→3´の方向にしか複製を行えない。しかし、実際の複製では同一のDNAポリメラーゼが両方の鎖を同時に複製している。この矛盾は「片方の鎖は連続して5´→3´の方向で複製し、他方の鎖は断片的に5´→3´の方向で複製する」という方法によって解消される。このときに作成される断片を岡崎フラグメントという。

 

 リーディング鎖とラギング鎖 (岡崎フラグメント)

 

また、フォークの進行方向と同じ方向の一本鎖で合成される鎖をリーディング鎖といい、フォークの進行と逆向きに合成される鎖をラギング鎖という。

 

 DNAポリメラーゼ
大腸菌のDNAポリメラーゼには3種類あり、下の表にそれぞれの働きを示す。なお、DNA複製の主役はDNAポリメラーゼⅢである。

 

 DNAポリメラーゼの種類

 

上の表の3´→5´エキソヌクレアーゼは複製時の間違いを正す酵素である。

 

塩基はそれぞれ「アデニン(A)とチミン(T)」「グアニン(G)とシトシン(C)」と一緒に対にならなければいけない。しかし下のように間違えて複製されると、それを訂正する機能が働く。このような機能をプルーフリーディングという。

 

 エキソヌクレアーゼ活性

 

3´→5´エキソヌクレアーゼは名前の通り、3´→5´の方向で間違えて合成した塩基をはずす働きをする。これによって正しい塩基が複製される。

 

3´→5´エキソヌクレアーゼに対し5´→3´エキソヌクレアーゼは5´→3´の方向で塩基をはずす働きをする。プライマーの部分はDNAではなくRNAなので、RNAの部分をはずしてDNAに変えるのである。この働きはDNAポリメラーゼⅠが行う。

 

また、プライマー部分とDNA合成の先端はつながっておらず隙間が空いている。この隙間をニックという。DNAポリメラーゼⅠはプライマーの塩基をはずしながらDNAの隙間を埋めるのでニックが移動する。このニックが移動することをニックトランスレーションという。

 

 DNAリガーゼとニックトランスレーション

 

プライマーの塩基を一個はずすと、dNTPで隙間が埋められる。dNTPとはデオキシヌクレオチドのことでありdATP、dGTP、dCTP、dTTPのどれかである。プライマー部分をDNAに全て変えると、最終的にはDNAリガーゼによってニックがうめられる。

 

 末端複製問題
染色体の末端にはテロメアという構造がある。テロメア部分は5´-TTAGGG-3´が高度に反復している。

 

前述したとおり、DNAの複製前にはお手本部分としてプライマー(RNA断片)が必要である。このプライマー部分は複製後に除去されてしまう。DNAポリメラーゼは5´→3´の方向にしか複製を行えないため、プライマー部分のDNAを合成することができない。

 

つまり、一回複製するごとに染色体の末端はプライマーの長さの分だけ短くなるのである。

 

ただし生殖系、腸管細胞、がん細胞は何回でも分裂することが可能である。これはテロメア部分を合成するテロメラーゼという酵素が存在するからである。

 

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