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役に立つ薬の情報~専門薬学

がんの発生・増殖の機構

 

 発がんの過程
・発がんの二段階説
がんはさまざまな物質が関与することで発生する。発がん物質の中にもイニシェーション作用のあるものやプロモーション作用のあるものなどと区別されている。

 

イニシェーション作用とはDNAに傷をつける作用のことで、この作用をする物質をイニシェーターという。また、プロモーション作用とは細胞増殖の制御システムを乱すなどの作用であり、この作用をする物質をプロモーターという。

 

がんは「イニシェーション→プロモーション」という順番に起こることで発がんする。「プロモーション→イニシェーション」の順番では発がんは起こらない。

 

プロモーションを起こす物質に曝露されても、それ以前にイニシェーターによってDNAに傷をつけられていなければがんは発生しないのである。イニシェーターとプロモーターによってがんが発生するという考えを「発がんの二段階説」という。

 

・発がんの多段階説
ヒトの発がんといっても、周りの環境に大きく作用される部分が大きい。例えば、女性ホルモンは子宮がんを誘発するし、喫煙するヒトは肺がんのリスクが高い。このようにさまざまな要因が重なって発がんが起こるという考えを「発がんの他段階説」という。

 

イニシェーション
 ↓
プロモーション
 ↓
プログレッション
 ↓
発がん

DNAに傷をつける
 ↓
細胞増殖の制御システムを乱す
 ↓
悪性化
 ↓
発がん

 

 DNAの変異による発がん
遺伝子の中には発がんを抑制する「がん抑制遺伝子」が存在する。がん抑制遺伝子は変異した細胞を排除してがんの発生を抑制している。そのため、この遺伝子が変異して失活してしまうと、がんが発生しやすくなってしまう。

 

なお、染色体はそれぞれ二本ずつ存在するので、失活するには二回のがん抑制遺伝子の変異が必要である。(ツーヒット仮説)

 

 ツーヒット仮説

 

そのため、生まれつきがん抑制遺伝子が片方欠損している家系のヒトは、がんが発生しやすくなっている。

 

・マルチヒット仮説
がんを抑制する遺伝子は多数存在し、FAPDCCP53などがある。これらの遺伝子が失活するとがんが発生しやすくなる。(ツーヒットで失活)

 

また、活性化することでがん発生を誘発してしまう遺伝子もある。この遺伝子にK-rasがある。なお、FAPとK-rasは細胞内シグナル伝達に関与しており、P53は異常細胞を自殺させる働きをする。

 

細胞が増殖するには増殖因子が必要であり、増殖因子が細胞膜の受容体に結合すると核へ向けて増殖シグナルをだす。しかし、増殖因子が来ていないのに増殖シグナルが勝手に核へ向かうなどの異常が起こると細胞の無秩序な増殖が起こり、がん化してしまう。

 

 増殖シグナルの過程

 

FAD、DCC、P53の失活、K-rasの活性化など、多くの遺伝子の変異によってがんが発生するという考えをマルチヒット仮説という。

 

 増殖因子と受容体
細胞増殖因子が細胞に作用するにはさまざまな機構がある。パラクリン因子は特定の細胞から分泌され、他の細胞へ作用する外来因子の事である。つまり、別の細胞から放たれる増殖因子が他の細胞を増殖させる。

 

オークリン因子は自分自身が出す増殖因子を受けて、自分が増殖する因子である。また、ジャクスタクリンインディは拡散せずに細胞同士が直接伝達させる増殖因子である。

 

 増殖因子の種類

 

がん細胞が増殖を続ける理由として、次の二つの仮説がある。
1.オークリン仮説 2.オルターナティブ仮説

 

オークリン仮説は自分が放出する増殖因子によって増殖する仮説であり、オルターナティブ仮説は増殖因子が来ていないのに、増殖シグナルが発生するという仮説である。

 

また、受容体の異常も発がんに関わっている。例えば、あるがんでは上皮組織増殖因子(EGF)の受容体であるEGFレセプターの数が過剰発現しているという例がある。つまり、増殖因子を受け取る受容体の数が多いのである。

 

 がん細胞の増殖機構
がん細胞がなぜ異常に増えるのかであるが、一つの理由は先ほど述べた増殖シグナルやその受容体の異常である。そして、その他の要因もがん細胞の増殖に関わっており、細胞回転の制御異常や細胞分裂回数の無限化、細胞同士の接触阻止の無効化がある。

 

・細胞回転の異常
細胞が増殖するときの細胞周期は適切に制御されている。例えば、遺伝子に異常が見つかるとサイクリンBなどのタンパク質が働いて増殖をストップさせる。

 

 細胞周期

 

このようなチェック機構を制御している遺伝子が失活してしまうと、適切な細胞周期の制御が行われなくなる。

 

・細胞分裂回数の無限化
正常な細胞には分裂の上限がある。これはDNAのテロメアが細胞分裂をするたびに短くなるためである。

 

しかし、がん細胞ではテロメアを合成するテロメラーゼが活性化しているため、いくら増殖してもテロメアは短くならない。これによって、細胞分裂回数の上限がなくなり、無限に増殖できるようになるのである。

 

・接触阻止の無効化
細胞が増殖していくとき、正常な細胞ではお互いに接触すると増殖を抑制しあう性質がある。これが細胞の接触阻止である。

 

しかし、細胞ががん化すると接触阻止されなくなる。つまり、細胞間同士の増殖抑制作用が無効となっているのである。

 

 接触阻止

 

 がん細胞の腫瘍血管新生
細胞の栄養は、通常拡散によって運ばれている。しかし、拡散だけによる栄養では数mm以上の細胞に成長することはできないため、巨大ながん細胞はこのままでは壊死してしまう。

 

この問題を解決するために、がん細胞は勝手に血管を作って自分の所までもってくるのである。これが、がん細胞の血管新生作用である。がん細胞は血管を作るために、血管新生因子を放出する。この因子をVEGF(vascular endothelial growth factor)という。

 

 血管新生作用

 

がん細胞から放出されたVEGFはがん細胞まで血管を新生させる。このように、がん細胞ができることによってがん細胞周囲の環境に変化が起こることがある。

 

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