脂肪酸の酸化・合成とコレステロール輸送
脂肪酸の酸化
脂肪酸が酸化(分解)されるとアセチル-CoAが生成される。脂肪酸の酸化はβ酸化によって行われる。一回のβ酸化で脂肪酸のCが2つ減り、アセチル-CoAが一つ産出される。
β酸化は脂肪酸のβ位の炭素を酸化するのでβ酸化である。
ケトン体
脂肪酸の酸化が高速度で起こるとケトン体が生成される。ケトン体はアセト酢酸,D-ヒドロキシ酪酸,アセトンの総称である。ケトン体はエネルギーとして利用される。
ケトン体は飢餓や未治療の糖尿病などで多量に生成される。例えば脳はグルコースだけが栄養分であり「飢餓」や「インスリン不足による細胞内のグルコース不足」などが原因でグルコースが利用できないとき、ケトン体がグルコースに代わるただ一つのエネルギーである。
ケトン体は次のようにして産出される。
脂肪酸酸化の過程ででてくるアセトアセチル-CoA or 二分子のアセチル-CoAからHMG-CoAが作られる。その後HMG-CoAからケトン体の一つであるアセト酢酸に変化し、アセト酢酸がアセトンやD-ヒドロキシ酪酸となる。
ケトン体が過剰生産されると重篤な問題を引き起こす。ケトン体の過剰生産には血中のケトン量が多いケトン血症や尿中のケトン量が多いケトン尿症があり、これらを総称してケトン症という。ケトン体は酸性であり、これが増えすぎると体内のpHが酸性に傾くケトアシドーシスを引き起こす。
なお、HMG-CoAはコレステロール合成の出発原料である。
脂肪酸の合成
Aという化合物が変化してXという化合物になるとする。このとき、Aが変化してXとなる過程とXが変化してAとなる過程は異なる場合が多い。
AX
つまり、何が言いたいかというと両方とも出発産物と最終生成物はアセチル-CoAと脂肪酸であるが「脂肪酸の合成は脂肪酸酸化の逆反応」というわけではないのである。
脂肪酸の新規合成では補酵素としてNADPH、ATP、Mn2 、ビオチン、HCO3-、パントテン酸が必要である。また、脂肪酸は一つの酵素の複合体から合成される。
脂肪酸合成の反応は次のようにして進む。
上の反応を見れば分かるとおり、一回の合成でCが二個ずつ増加していく。アセチル-CoAの炭素数は2なので当然ではあるが。
リン脂質の代謝(分解)
リン脂質の代謝はホスホリパーゼが行う。ホスホリパーゼにはA1、A2、B、C、Dがあり、それぞれリン脂質の切断場所が異なっている。
脂質は小腸から吸収され、各組織に行き渡って利用・蓄積される。しかし脂質は疎水性であり、その状態のままでは輸送に問題が生じる。この問題は両親媒性の物質と結合させて輸送することによって解決する。
リポタンパク
脂質は油であるため、水に溶けることができない。そのため、脂質はリポタンパクとして血液をめぐる。リポタンパクはリン脂質、アポタンパク質、TG(トリアシルグリセロール)、コレステロールなどで構成されている。
リポタンパクにはカイロミクロン、プレβ-リポタンパク質(VLDL)、β-タンパク質(LDL)、α-タンパク質(HDL)の主な四種類がある。これらは、それぞれのTG・コレステロールなどの含有量の比や合成される場所が異なっている。
食事として体内に入ってきたTGは消化酵素によって脂肪酸(FFA)とMAG(モノアシルグリセロール)に分解される。小腸から吸収された後はTGに戻り、キロミクロンとなって血液を通り肝臓に輸送される。
肝臓でキロミクロンはVLDLとなり、血液を介して全身を巡る。VLDLは肝臓でLDLへと変化し、コレステロールを各組織に配給する。また、コレステロールが過量であるとHDLが組織からコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをする。HDLは肝臓で作られる。
LDLの主な働きは「組織にコレステロールを届けること」であり、HDLの主な働きは「組織のコレステロールを肝臓へ回収すること」である。
下にそれぞれのリポタンパク質の違いを示す。
コレステロールの輸送
細胞膜にはLDLレセプター(受容体)があり、LDLが細胞内に取り込まれるときはLDLに存在するアポB-100を認識して取り込む。LDLが取り込まれるときはエンドサイトーシスによって取り込まれ、LDLを取り込む小胞の周りはクラスリンで覆われている。
クラスリンはLDLを取り込む小胞を作るという印になっている。ただし、クラスリンは時間が経つと消える。
LDLを取り込んだ小胞はエンドソームという不定形の大きな小胞に取り込まれてリソソームに運ばれる。このとき、まだ分解活動をしていないリソソームを一次リソソームといい、エンドソームの中に入って分解活動をしているリソソームを二次リソソームという。
LDLを取り込むときに使ったLDLレセプターはエンドソームから離れ、再び再利用される。LDLレセプターを運ぶ小胞をリサイクル小胞という。
LDLはリソソームによってコレステロール、グリセロール、、脂肪酸、アミノ酸などに分解して再利用する。コレステロールはACAT(アシル-CoA コレステロールアシル基転移酵素)によってコレステロールエステルとなる。
ACATはアシル基をコレステロールに転移させる働きがある。ただし、コレステロールエステルは水に溶けにくいため細胞内に蓄積する。
もし、LDL受容体部分orアポβ-100リガンド領域が変異しているとLDLの血中レベルが上昇し、高コレステロール血症を生じる。つまり、レセプター部分とコレステロール自身が受容体に結合する部分がダメになる病気である。この病気を家族性高リポタンパク質血症という。
LDLが血漿中を長く循環していると酸化を受ける。このLDLはマクロファージが取り込むが、マクロファージはこのLDLを排出できない。LDLでいっぱいになったマクロファージは動脈壁に蓄積する。この血漿中を長く循環して酸化を受けたLDLが世間で言う超悪玉コレステロールである。
なお、ビタミンDや性ホルモンなどの全てのステロイドはコレステロールから合成される。
・血漿中のコレステロール値を下げる
高脂血症の場合はこれ以上コレステロールが必要でないため、血漿中のコレステロール値を下げないといけない。
実は全てのコレステロールのうち食事から摂取するコレステロール量は半分で、あとの半分は体で合成されている。そのため、コレステロールを抑制する薬は体でコレステロールが合成されるのを阻害する。
コレステロールを合成するにはHMG-CoAレダクターゼという酵素が必要であり、この酵素を阻害すれば結果としてコレステロールが合成されなくなる。
コレステロールの代謝
コレステロールが代謝されるときは肝臓で胆汁酸になり、そのまま便中に排泄される。ただし、ほとんどの胆汁酸は回腸で回収され、肝臓に戻って再利用される。
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