β酸化とケトン体
脂肪酸の分解
脂肪酸を合成する経路があるなら、その逆に脂肪酸を分解する経路も存在する。脂肪酸の分解をβ酸化と呼び、このβ酸化によってアセチルCoA、NADH、FADH2を生み出すことができる。
β酸化に関与している酵素はミトコンドリアのマトリックスに存在する。そのため、細胞質の脂肪酸はミトコンドリアに移行する必要がある。脂肪酸をミトコンドリア内に移行させるにはカルニチンが必要であり、カルニチンと脂肪酸が結合することでミトコンドリア内膜を通過することができる。
アシルCoAは一回のβ酸化によってアセチルCoA一分子を遊離する。アセチルCoAは炭素数2の分子であるため、一回のβ酸化によって炭素数が2少ないアシルCoAとなる。
なお、β位の炭素を酸化するからβ酸化と言われる。
一回のβ酸化で炭素数2の分だけ減るため炭素数が偶数の脂肪酸の場合、「脂肪酸の炭素数 ÷ 2」の数だけのアセチルCoAが生み出される。この時、β酸化が行われる回数は、「脂肪酸の炭素数 ÷ 2 - 1」であるため、NADH、FADH2は、「脂肪酸の炭素数 ;÷ 2 - 1」の数が生み出される。
例えば、ステアリン酸 (C18)がβ酸化される時、炭素数が18なのでアセチルCoaは9個作られる。また、この時のβ酸化のサイクル数は8回のため、NADH、FADH2は8個作られる。
なお、天然に存在する脂肪酸のほとんどは炭素数偶数であるが、奇数個の脂肪酸も存在する。奇数個の脂肪酸をβ酸化する場合、最後にプロピオニルCoAを生成する。
なお、脂肪酸は「飽和・不飽和」や「炭素数偶数・奇数」に関わらずβ酸化を受ける。
ケトン体
ケトン体は糖尿病や飢餓時など糖利用に何らかの障害があるときに、肝臓において生じる。糖尿病患者では血中の糖を取り込めなくなっており、糖を利用することが出来ない。また、飢餓時では糖が不足しているため、糖からエネルギーを作ることができなくなっている。
なぜ、糖利用に障害があるときにケトン体の合成が亢進されるかであるが、これは脳の糖利用と関係している。脳の主なエネルギーは糖である。しかし、糖が利用できない場合は他の方法を考えないといけない。この他の方法にケトン体があり、ケトン体は糖の代わりとなる脳の唯一の代替エネルギーである。
実際には、ケトン体はアセチルCoAに変換されてエネルギーとして働く。
糖利用に障害が起こると、β酸化の亢進が起こる。β酸化が亢進されると、結果として多量のアセチルCoAが生じる。
たとえ肝臓ではアセチルCoAが過剰の状態であっても、糖利用に障害が起きているため他の臓器ではアセチルCoAが不足している。そのため、肝臓の多量のアセチルCoAを他の臓器に届ける必要がある。
しかし、アセチルCoAの形では血中へは移行せず、他の臓器に届けることが出来ない。そのため、アセチルCoAをケトン体に変換するのである。ケトン体は水溶性であり、この形をとることで全身を巡ることができる。なお、肝臓以外の組織であれば、ケトン体をアセチルCoAに変換して利用することができる。
ケトン体にはアセト酢酸・β-ヒドロキシ酪酸・アセトンがあり、これら三つを総称してケトン体と呼ぶ。アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸は血中へ移行し、他の臓器でエネルギーとして利用できる。それに対し、アセトンは揮発性がとても高いため主に呼気中に行く。ケトン体が過剰の人において呼気が甘い香りになることがあるが、これはアセトンの臭いのためである。
ケトン体はエネルギーとして利用することができ有用であるが、血中に過剰に存在するとケトアシドーシスを引き起こす。
アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸とあるように、血中へ移行するこれら二つのケトン体は酸性である。酸性であるため、過剰に存在すると体内のpHは酸性に傾いてしまう。これがアシドーシスであり、アシドーシスによって脱水・中枢障害・昏睡などが引き起こされる。
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