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役に立つ薬の情報~専門薬学

プロドラッグ:医薬品のプロドラッグ化

 

プロドラッグとは、体の中で代謝されることで効果を表す薬のことを指す。

 

体内で代謝を受けていない状態であると、プロドラッグは薬としての作用を示ない。ただし、肝臓などに存在する代謝酵素によって化学構造が変化すると、ようやく薬として作用を発揮するようになる。

 

 プロドラッグの基本構造

 

医薬品をプロドラッグ化する理由としては、次のようなことがある。

 

 ・体内への吸収を良くする(特に腸からの吸収を改善する:バイオアベイラビリティの向上)

 

 ・副作用を低減する

 

 ・特定の臓器で作用させる

 

 ・作用の持続化(半減期を長くする)

 

それぞれの目的ごとに、プロドラッグ化が施されている事例を紹介していきたいと思う。

 

 腸からの吸収改善
経口投与によって薬を投与する場合、腸から薬が吸収されなければいけない。この時、多くの薬は体内に吸収された後に全身を巡ることで、薬としての作用を表す。

 

そのため、薬を服用した時の吸収率が悪いと、そもそも各臓器に分布することで薬としての作用を表すことができまない。

 

また、吸収率が悪いと個人差も大きくなる。例えば、「腸からの吸収率が80%の医薬品A」と「腸からの吸収率が20%の医薬品B」があるとする。そして、個人差によって薬の吸収率に±10%の変動があると仮定する。

 

吸収率±10%で考えると、医薬品Aでは腸からの吸収率が70%の人から90%の人までの振れがある。吸収率70%と90%では、血液中の薬物濃度は約1.3倍の違いで済む。

 

これが医薬品Bになると、腸からの吸収率が10%の人から30%の人までいることになる。吸収率10%と30%では、血液中の薬物濃度は3倍も違う。そのため、薬の効き目が強く出すぎて副作用による有害事象の発生確率が高くなってしまう

 

 プロドラッグ化による腸からの吸収改善

 

このように、吸収率が悪い医薬品では個人差が大きくなる傾向にある。そのため、プロドラッグ化を施すことで腸からの吸収率を向上させる。これによって、薬の効果を高めるだけではなく、個人差を少なくすることで副作用の低減も図ることができる。

 

プロドラッグ化によって腸からの吸収を改善した医薬品の例としては、脂質異常症治療薬シンバシタチンがある。

 

 シンバスタチンのプロドラッグ化

 

薬としての作用を表すシンバスタチンの活性体は、そのままの状態では腸からの吸収が悪い。そこで、この活性体の一部分を環状にする。これによって、腸からの吸収を改善した化合物がシンバスタチンである。

 

腸から吸収されたシンバスタチンは肝臓で代謝を受けることで、環の部分が切断される。これによって、薬としての作用を表す活性体へと変化する。

 

 副作用を低減する
薬を服用した時の副作用低減のためにプロドラッグが有効であることもある。このような例としては、解熱鎮痛剤(痛みを抑えたり熱を下げたりする薬)がある。

 

解熱鎮痛剤は頭痛を緩和したり、かぜの熱を下げたりと多くの場面で使用される。しかし、解熱鎮痛剤の有名な副作用として胃腸障害(胃潰瘍など)がある。そのため、プロドラッグ化を施すことで、解熱鎮痛剤の副作用である胃腸障害を緩和することができる。

 

解熱鎮痛剤の胃腸障害を回避する方法はとても単純である。それは、「胃や腸に作用しなければ良い」というだけである。

 

医薬品を服用した後、食道を通って胃の中に入る。このとき、解熱鎮痛剤が胃に働きかけることで胃潰瘍などの副作用を引き起こす。そのため、医薬品を服用後に胃や腸に作用しないようにすれば胃腸障害を軽減することができる。

 

具体的には解熱鎮痛剤をプロドラッグ化することで、体の中に入って代謝を受けることでようやく薬として作用するように設計する。これにより、体の中に吸収される前の段階で「解熱鎮痛剤が胃や腸を刺激して潰瘍を起こす」という事を防ぐことができる。

 

このように、プロドラッグ化によって副作用を軽減した医薬品の例としては、解熱鎮痛剤ロキソプロフェンがある。

 

 ロキソプロフェン(ロキソニン)のプロドラッグ化

 

なお、解熱鎮痛剤などの医薬品は血液中にのって全身を巡ることで作用を表す。このとき、各臓器に薬が分布することで痛みを抑えることができる。つまり、このように全身を巡る薬は胃に分布することも当然ながら予想される。

 

そのため、全身を巡った後に胃に分布することによる副作用(胃潰瘍などの胃腸障害)は抑えることができない。この場合は、腸から薬が吸収されるまでの「胃や腸に直接作用することによる胃腸障害」を抑えることができる。

 

 特定の臓器で作用させる
医薬品が作用する場合、多くの薬は目的とする臓器に到達して作用する。例えば、気管支喘息の薬は気管支に作用する必要がある。同じように、心臓病の薬は心臓に作用しなければいけない。

 

このように目的とする臓器に薬を届けるための方法の一つとして、プロドラッグ化がある。薬学分野に中に「薬物を適切な量、適切な時間で適切な場所に届ける」という技術としてDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)がある。有機化学による化学構造の変換(プロドラッグ化)は、このDDSへも応用が可能である。

 

このように、プロドラッグ化によって特定の臓器で作用させるように変換された医薬品の例として、パーキンソン病治療薬であるレボドパがある。

 

 レボドパのプロドラッグ化

 

パーキンソン病患者では、脳内のドパミン量が不足している。そのため、薬によって脳のドパミンを補う必要がある。つまり、パーキンソン病の薬は脳で作用すれば良いことが分かる。

 

レボドパは脳内の酵素によって代謝されることで、ドパミンへと変換される。これによって、パーキンソン病を治療する。ドパミンを投与しても血液脳関門(BBB)を通過することができないため、レボドパによって脳を通過させた後にドパミンへと変換されるように工夫する必要がある。

 

 作用の持続化
すぐに代謝・排泄を受けるために半減期が短い医薬品であると、薬を投与した時の効果も短いことが予想される。そのため、医薬品として使用できるようにするためには、半減期として薬の作用時間をある程度確保する必要がある。

 

薬の作用時間を持続させる方法としても、薬剤のプロドラッグ化が有効である。半減期が極端に短い医薬品であっても、プロドラッグにすることで半減期を長くすることができる。

 

このように、プロドラッグ化によって薬としての作用時間を持続化させた医薬品の例として、抗がん剤であるテガフールがある。

 

 5-フルオロウラシルのプロドラッグ化:テガフール

 

昔から使われている抗がん剤としてフルオロウラシルがある。しかし、フルオロウラシルの半減期は約10分であるため、そのままの状態では作用時間がとても短い。

 

そこで、フルオロウラシルにプロドラッグ化を施すことで、テガフールへと変換する。テガフールは肝臓の代謝酵素によって徐々にフルオロウラシルへと変換される。テガフールの半減期は約7.5時間であるため、これだけの時間をかけて少しずつ抗がん作用を示す有効成分へと変化していく。

 

 テガフールと5-フルオロウラシルの半減期

 

 どのようにしてプロドラッグ化を図るか
医薬品のプロドラッグ化を施す最も一般的な手法としては、カルボン酸のエステル化がある。薬は化学物質であるが、この化学物質の構造の中にカルボン酸(-COOH)の構造を有している化合物がある。

 

そして、このカルボン酸をエステルへと変換する。エステルは「-COO-」で表される。

 

 プロドラッグにおけるカルボン酸とエステル

 

エステルは体内に存在するエステラーゼという酵素によって容易に代謝される。これによって、エステル化を施された化学物質は体内で容易に元のカルボン酸へと変換される。

 

 インドメタシンのプロドラッグ化

 

これによって、「体内へ吸収された後、酵素によって活性体へと変換されるプロドラッグ」が完成される。カルボン酸のエステル化を利用したプロドラッグは医薬品としても多く、創薬研究として頻繁に使用されている。

 

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