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役に立つ薬の情報~専門薬学

パーシャルアゴニスト(部分作動薬)の作用機序

 

アゴニストとは受容体を活性化させる化学物質のことである。つまり、受容体の作用を強める薬のことを指す。これら薬の作用としては、「受容体の作用を『強める』か『弱める』のどちらかである」と考えることができる。

 

このときの強めるとは、受容体を100%活性化させるという意味である。薬としては「受容体の刺激薬」や「アゴニスト」として表現される。

 

また、ここでの弱めるとは受容体を完全に遮断するという意味である。遮断薬や阻害薬、アンタゴニストと表現される薬がこれに当たる。

 

そして、多くの薬は「受容体の作用を100%活性化させる」または「受容体の作用を完全に遮断する」のどちらかの働きをする。

 

しかし、医薬品の中には中途半端に受容体を活性化する薬が存在する。このような医薬品をパーシャルアゴニストと言う。

 

パーシャルとは英語で「partial」と書き、これには「一部分の」や「不完全な」という意味がある。つまり、パーシャルアゴニストは「少しだけ受容体を活性化させる薬」の総称である。

 

 パーシャルアゴニストの特徴
私たちが病気になる原因の多くは「生体内のシグナルが過剰または不足している」のどちらかである。そのため、このシグナルの働きを正常な状態に戻す必要がある。

 

 パーシャルアゴニストの特徴

 

この生体内の働きを正常な状態へと戻す作業を助けるのが薬となる

 

 ・シグナルが不足している場合を考える
生体内のシグナルが不足している状態では、シグナルによって活性化するはずの受容体も活性化されていないことが予測される。そのため、シグナルの代わりとして薬が受容体を活性化させることで、元の正常な状態へと戻す。

 

受容体が活性化されていない状態で「受容体の作用を100%引き出す薬」や「受容体を少しだけ活性化させるパーシャルアゴニスト」を投与した場合、下図のようになる。

 

 シグナルが不足している場合(パーシャルアゴニスト:部分作動薬)

 

このように、パーシャルアゴニストは生体反応の一部分だけを引き出す。つまり、パーシャルアゴニストは「受容体を100%活性化する薬」と「受容体を完全に遮断する薬」の中間と考えれば良い。

 

上の図によると、パーシャルアゴニストによって受容体は60%まで活性化されることが分かる。どれだけ薬物量を増やしても、60%までしか活性化しない。

 

なお、今回は60%だけ活性化するパーシャルアゴニストであるが、「80%まで活性化するパーシャルアゴニスト」や「30%までしか活性化しないパーシャルアゴニスト」など、どれだけ受容体を活性化するかはパーシャルアゴニストの種類によって異なる。

 

なお、このときの受容体における活性化の様子を表した例としては、下図のようなものがある。

 

 シグナルが不足している場合(パーシャルアゴニスト:部分作動薬)

 

 ・シグナルが過剰である場合を考える
パーシャルアゴニストを考える上で重要なのは、パーシャルアゴニストは「受容体を少し活性化させるという働きだけでない」という点である。この場合、「少しだけ受容体を活性化する」ということは、「受容体を少しだけ阻害する」という意味も持つ。

 

これだけでは意味が分からないと思うので、もう少し詳しく説明する。

 

シグナルが過剰に存在している場合、そのシグナルが作用する受容体も活性化していることが分かる。受容体が活性化しすぎているため、阻害薬によって受容体の働きを抑える。これによって、元の正常な状態へと戻すことができる。

 

受容体が活性化されている状態に阻害薬やパーシャルアゴニストを投与した場合、下のグラフのような推移となる。

 

 シグナルが過剰である場合(パーシャルアゴニスト:部分作動薬)

 

阻害薬の投与によって、それまで活性化していた受容体はほぼ完全に遮断される。それに対し、パーシャルアゴニストは少しだけ受容体を活性化する作用をもつ。

 

そのため、パーシャルアゴニストが受容体に結合すると、わずかに受容体を活性化する作用が残ることになる。なぜなら、パーシャルアゴニストは完全に受容体を阻害する訳ではなく、受容体を少し活性化する作用をもつからである。

 

今回の場合では、パーシャルアゴニストの投与によって受容体の活性化が60%で留まっていることが分かる。つまり、受容体はいつもの60%分だけの作用を表すようになる。このように、受容体が活性化している場合であっても、パーシャルアゴニストは「受容体を少しだけ活性化させている状態」へと導く働きをする。

 

また、この場合であると「パーシャルアゴニストの投与によって、40%分だけ受容体を阻害している」と言い換えることもできる。

 

受容体阻害薬の呼び名
・阻害薬  ・遮断薬  ・拮抗薬  ・ブロッカー  ・アンタゴニスト

 

受容体の阻害薬は様々な呼び名がある。これらはどれも同じ意味であり、全て「受容体を阻害する薬」という事を指す。これに対し、パーシャルアゴニストは受容体を少し活性化させるだけでなく、受容体を少しだけ阻害するという意味も持つ。

 

 ・内容を整理する
薬は受容体をどのような状態へ導きたいかによって、その設計方法が異なる。例えば、前述の通りシグナルが不足しているために受容体の活性化が不十分である場合、シグナルの代わりとして薬が受容体を活性化する必要がある。

 

その逆に、シグナル過剰のために受容体が活性化しすぎている状態であると、薬によって受容体の働きを弱める必要がある。

 

これら受容体を活性化する薬と阻害する薬に対し、パーシャルアゴニストは受容体を少しだけ活性化させた状態へと導く。この状態を示すと下図のようになる。

 

 パーシャルアゴニスト(部分作動薬)の作用機序

 

上の図で示したパーシャルアゴニストの場合、受容体を60%活性化させた状態で留まる。このとき、「受容体の活性化が不十分な場合」ではパーシャルアゴニスト投与によって、受容体を60%分だけ活性化していることが分かる。

 

これに対し、「受容体の活性化が過剰である場合」では、パーシャルアゴニストによって受容体を40%だけ阻害している。

 

このように、受容体がどのような状態であるのかによって、パーシャルアゴニストは受容体を活性化する薬になることもあれば、阻害薬になることもある。

 

 パーシャルアゴニスト(部分作動薬)の作用機序

 

 パーシャルアゴニストの実用例
このようにパーシャルアゴニストについて説明してきたが、実際にパーシャルアゴニストがどのように応用されているかを学習していく。

 

受容体を100%活性化する薬や完全に阻害する薬の場合、薬としての作用も強いことが分かる。これに対し、パーシャルアゴニストは受容体を「少しだけ活性化」または「少しだけ阻害」の作用を行うため、その効果はマイルドであることが予想される。

 

そのため、薬の効果を最大限に引き出すために通常は「受容体を100%活性化する薬」か「完全に阻害する薬」が使用される。ただし、この場合では不都合なケースが存在する。

 

 ・発掘作業で活躍するパーシャルアゴニストとは
例えば、工事現場を思い浮かべてほしい。大がかりな工事では「ショベルカー」や「ダンプカー」を使うが、これらの機械は仕事を早く、そして効率よく行うことができる。

 

もし、「明日からショベルカーの代わりにスコップを、ダンプカーの代わりに軽トラックを使ってください」と言われれば、当然仕事の効率が落ちる。ここでの「スコップ」や「軽トラック」がパーシャルアゴニストである。今まで100%の仕事効率だったのに、パーシャルアゴニストに変えることで仕事効率が大幅に下がってしまう。

 

しかし、スコップや軽トラックが大活躍する現場も存在する。この例としては、遺跡の発掘現場がある。遺跡の発掘でショベルカーなどを利用すると、仕事効率は良いが遺跡まで破壊してしまう。

 

これでは不都合であるため、仕事効率が落ちたとしてもスコップなどを使用して慎重に作業を進める必要がある。これは人の体でも同じであり、患者さんの状態や受容体の種類によってはパーシャルアゴニストとして作用した方が良いこともある。

 

 パーシャルアゴニスト(部分作動薬)

 

このように、パーシャルアゴニストとして応用されている医薬品の例としては、高血圧の治療薬(心臓の拍動数を抑える薬:βブロッカー)や統合失調症の治療薬がある。

 

 ・高血圧の治療薬(心臓の拍動数を抑える薬:βブロッカー)
高血圧を治療する薬としてはさまざまな種類があるが、その一つに心臓の拍動数を抑える薬がある。つまり、心臓の働きすぎを抑えることで高血圧状態を改善する。この作用をする薬をβブロッカーと言う。βブロッカーは受容体の遮断薬である。

 

このとき受容体を遮断しすぎると、心臓の拍動数が少なくなり過ぎてしまう。そのため、心臓に対する負担が大きくなる。そこで、パーシャルアゴニストが登場する。

 

パーシャルアゴニストであれば、受容体を阻害しすぎることはない。心拍数を抑えて高血圧を改善しつつも、ある程度の心臓の拍動数も守られている状態となる。

 

 パーシャルアゴニスト(部分作動薬)

 

 ・統合失調症の治療薬
統合失調症患者では、脳内の神経伝達物質の一つであるドパミン量が過剰になっている。そのため、統合失調症を治療するためにはドパミンの作用を抑えるように働く必要がある。

 

ただし、ここで注意する点がある。それは、「パーキンソン病の病態も考慮する必要がある」という事である。パーキンソン病患者では、ドパミンの量が不足している。つまり、ドパミン量が少なくなり過ぎるとパーキンソン病のような症状が出てしまう。

 

 パーシャルアゴニスト(部分作動薬)の作用機序

 

統合失調症を治療するためには、ドパミン量を減らすように作用する薬が投与される。このとき、薬が効きすぎてドパミン量が減りすぎてしまうと、副作用としてパーキンソン病のような症状が表れてしまう。これを、パーキンソン症候群と言う。

 

そこで、ドパミンの量を減らしつつも、ある程度のドパミンを確保するためにパーシャルアゴニストが使用される。パーシャルアゴニストによって、健常人と同じくらいのドパミン量に調節することができる。

 

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